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スティールスマイル  作者: ガブ
第三章 もう一人のゼロ
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episode 84 「密航者」

木刀。ワルターは二等兵時代、嫌というほど握ってきた。が、ゼロにとってははじめての経験だった。もちろん剣がはじめてという訳ではない。一通りの殺しの道具の扱いは組織から叩き込まれた。が、人を殺さないための工夫など組織には存在しなかった。


(命のやり取りがないことが、こんなに軽いとはな)


フェンリーが二人から離れる。


「わかってると思うが船は壊すなよ」



両者一歩も動かず相手の出方を伺うかと思いきや、ワルターははじめからゼロに向かって突っ込んでいく。


「読み合いは苦手なんでね! 速攻で片付けさせてもらうよ!」


片腕のためバランスがうまくとれないのか、動きがたどたどしい。だからこそ動きを予測できない。


受けられないのなら受けなければいい。これは命の奪い合いでは無いのだから。ゼロはわざと体で攻撃を受け、カウンターを決める。


が、ワルターの攻撃が予想以上に重く、たいしたカウンターを決めることができなかった。


「舐められたものだね。剣は剣で受けるもの。いくら木刀といっても無謀だね」

「……たいした威力だ。本物なら命は無かっただろう。だが、もう見切った」


今度はゼロから仕掛ける。スピードはゼロの方が上。ワルターは無駄に避けようとはせず、防御に徹する。


その甲斐あってか、見事ゼロの一撃を受けることに成功するが、脇腹に鋭い蹴りを受けてしまう。


「がっ!」

「脇ががら空きだ」


地面に倒れるワルター。


「ひ、卑怯だぞ! 蹴りは反則……」

「何を甘えたことを言っている。これは剣の試合ではない。これは決闘だ。決闘にルールはない」

「む……」


言い返せないワルター。さらに蹴られた衝撃で腕の傷が開いて血が吹き出してしまった。


「ったく」


フェンリーが急いで傷口を凍らせる。


「そこまでだ。ワルター、お前の敗けだ。今送り返してやるからとっとと医者に診てもらえ」


ワルターは悔しそうに木刀を投げ捨てる。


「くそ! 何でだ! なんで俺はこんな!」


腕を押さえるワルター。万全の状態で戦えないことが悔しくてたまらない。


ワルターに手をさしのべるゼロ。ワルターはそっぽを向く。


「なんだいその手は? 俺に同情しているのかい?」

「お前の剣、見事だった。よほど修行を積んだのだろう。それゆえに惜しい。万全な状態のお前と一戦交えてみたかった」

「お世辞はやめてくれないか」


ワルターは自力でなんとか立ち上がる。


「お世辞などではない称賛だ」

「なら俺が君たちに同行しても構わないね?」

「おい、ワルター! 無茶言ってんじゃねぇぞ! 死にてぇのか!?」


ワルターの無謀な発言に、反対するフェンリー。


「君はどう思う、ゼロ」

「無謀だ。だが決めるのはお前、俺は干渉しない。例えお前がピンチに陥ったとしても俺は手をさしのべない。それで構わないな?」

「ああ、構わない」


話を聞かないワルターの前に立つフェンリー。その顔はとても険しい。


「俺はお前の自殺に付き合うつもりはねぇ。大体リースにはどう説明するつもりだ」

「なんだいそんなことか。リースなら安心だ。一人でもやっていける。むしろ俺といた方が危険だと思うけどね。それに俺は自殺するつもりは更々ないよ」

「てめぇ……」


フェンリー周りの空気が冷たくなる。


「やめておけ」


ゼロがフェンリーの肩を掴む。


「とめんな。こいつ痛め付けて港に送り返す」

「お前もわかっているだろう。こいつの言葉は軽いが、意思は重い。止めたければ殺す気でかかる必要がある。それがお前にできるのか?」


ワルターは自分の事だというのに飄々とした表情をしている。


「フェンリー、君に迷惑はかけない。俺はただ、死ぬまでに自分の限界を決めたくないだけなんだ。ここで引き下がればそれは俺の限界ということになる。それは俺にとって死ぬよりも辛いことなのさ」


まるでティータイムのようなテンションで語るワルターに拍子抜けしてしまうフェンリー。


「……勝手にしろ、んでくたばっちまえ!」


怒って客室に入っていくフェンリー。


「ゼロ、君に言っておくことがある。俺は実は組織の殺し屋なんだ。」

「だろうな。確か惑殺のワルター、だったか」


驚かれることを期待していたワルターだったが、あっさりとしているゼロにがっかりする。


「なんだい、知っていたのかい」

「お前の名と口先を聞くまで気がつかなかったがな」

「ならなんで俺を受け入れたんだい?」

「受け入れてなどいない。俺はお前の言葉などなにも信用していないからな。だからお前の行動で判断させてもらう。もし妙な真似をすれば容赦はしない」


はじめて当てられたゼロの殺気に、たじろぐワルター。


(はは、さすがアーノルトと双璧をなすと言われるだけのことはあるな、したっぱたちなら殺気で死にそうだ)


「肝に命じておくよ」



三人はベルシカに向けて帆を進める。





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