episode 83 「男旅」
出発の日。ゼロとフェンリーは帝都入り口に来ていた。ローズ、レイア、ケイトが見送る。
「ローズ、いろいろと世話になった。リースたちにも礼を伝えてくれ」
「ああ。気を付けてな」
「お前こそ気を付けろ。イシュタルがいつ戻ってくるかわからないぞ」
「その時はその時さ。きちんと処分を受ける。大丈夫、レイアとケイトは必ず守る」
「頼んだぞ」
ゼロとローズは握手をかわす。
レイアがもじもじと前に出てくる。手には何やら箱を持っている。どうやら手作りの弁当のようだ。それをゼロにわたす。
「ありがとう。だが、これでは少し足りないな」
「残りは帰ってきたときのお楽しみです。……ですから、必ず、必ず戻ってきてください」
「約束する」
羨ましそうに見つめるフェンリー。
「なぁ、おちびちゃん。俺にはなんかねぇのか?」
「あるわけがない」
きっぱりと答えるケイト。本当はケイトもゼロとフェンリーに弁当を作っていた。が、とても二人に食べさせられる出来ではなく、それは、大事なのは気持ちですといっていたレイアを絶句させるほどのものだった。
代わりに手作りのお守りを二人にわたす。
「ありがとうケイト。心強いよ」
「お、サンキューおちびちゃん。ってなんか俺とゼロとでクオリティ違いすぎねぇか!?」
「うるさい、もらえるだけありがたく思え」
ゼロのものはきちんと作られているのに対して、フェンリーのはつぎはぎだらけでまるでケイトの服のようだった。
旅立つゼロとフェンリー。レイアは姿が見えなくなってもいつまでも二人を見つめていた。
「いや~全くいい天気だな」
「……」
「なぁ弁当少し分けてくれよ」
「……」
「たっくケイトのやつはあの態度なんとかなんねぇのか?」
「……」
「……なんとかいえよ」
ゼロの表情はいつにも増して暗い。
フェンリーは会話を断念し、寂しくなった口元にタバコを咥えはじめる。
二人は一度ベルシカに向かうため、港を目指す。船はフェンリーが海賊だった頃のコネを使って、簡単に用意することができた。
「お、待ってましたよフェンネスさん。ベルシカまででしたよね?」
「ああ、よろしく頼む」
船に乗り込む二人。ここにはゲロゲロになるケイトも、それを看病するレイアもいない。かつてのように一人だ。そんな暗いゼロの背中を叩くフェンリー。
「いつまでそんな顔してんだ。寂しいのはわかるけどよ、あいつらを連れてこれるわけねぇだろ?」
「わかっている」
そうは言っているが、明らかにゼロは機嫌が悪い。そんなゼロを更なる悲劇が襲う。
キィと、誰もいないはずの船室のドアが開き、見覚えのある男が現れる。
「やあ。はじめましてゼロ。俺はワルター・フェンサー。帝国軍大佐、ローズの同僚だ。リースの兄でもある。」
軍人と名乗るその男はあの戦いの場で倒れていた男だ。
「ワルター! なんでお前がここに!?」
驚くフェンリー。
「なに、出向しそうな船はこの船だけだったからね。あらかじめ潜入しておいたのさ。」
そのワルターと名乗る男からは軍人よりもなぜか自分に近い臭いを感じ、警戒するゼロ。
「……それでなんのようだ? 俺に用があるんだろ?」
「さすがゼロ。話が早いね。なら俺も結論から言うよ。俺と戦おう」
銃を構えるゼロ。
「俺は今、気分が悪い。お前にも世話になったとローズから聞いている。撤回するなら今のうちだ。手加減はしない」
「望むところさ」
ワルターはまだ片腕に慣れないのか、ふらふらとした手つきで剣を抜く。
本当に殺し合いを始めてしまいそうな雰囲気の為、急いでフェンリーが間に割ってはいる。
「やめろって! ワルター、お前片腕でゼロに勝てるとおもってるのか? 死んじまうぞ! ゼロ、これからアーノルトと戦うってのにこんなところで怪我でもしたらどうすんだ!」
ゼロとワルターはお互いを睨み付けたまま微動だにしない。
「フェンリー、勝てるかどうかが問題じゃないんだ。戦ってみたい、自分の力を試してみたい。それだけなんだよ」
剣を手放そうとしないワルター。
「ゼロ! お前からもなんとか言ってくれよ」
「こういうやつは何人も見てきた。そして皆、口で言っても意味はなかった」
ゼロもまた、銃口をワルターに向けて、開戦に備える。
大きくため息をつくフェンリー。
「あーもうわかった! だがな、殺し合いは勘弁してくれ。ちょっと待ってろ! いいか、動くんじゃねぇぞ」
船室のなかに入っていくフェンリー。そして木刀を二本持って出てくる。それを二人の足元に投げるフェンリー。
「こいつは船乗り見習いが訓練に使う木刀だ。これで決着をつけろ。ゼロ、お前が剣を使えるかどうかは知らねぇが、ワルターは片腕だ。こんくらいのハンデがあってもいいだろ」
二人は木刀を拾う。
「俺はゼロと戦えるなら何でも構わないよ」
「いいだろう。少し憂さ晴らしをさせてもらう」
出発の日。ゼロとフェンリーは帝都入り口に来ていた。ローズ、レイア、ケイトが見送る。
「ローズ、いろいろと世話になった。リースたちにも礼を伝えてくれ」
「ああ。気を付けてな」
「お前こそ気を付けろ。イシュタルがいつ戻ってくるかわからないぞ」
「その時はその時さ。きちんと処分を受ける。大丈夫、レイアとケイトは必ず守る」
「頼んだぞ」
ゼロとローズは握手をかわす。
レイアがもじもじと前に出てくる。手には何やら箱を持っている。どうやら手作りの弁当のようだ。それをゼロにわたす。
「ありがとう。だが、これでは少し足りないな」
「残りは帰ってきたときのお楽しみです。……ですから、必ず、必ず戻ってきてください」
「約束する」
羨ましそうに見つめるフェンリー。
「なぁ、おちびちゃん。俺にはなんかねぇのか?」
「あるわけがない」
きっぱりと答えるケイト。本当はケイトもゼロとフェンリーに弁当を作っていた。が、とても二人に食べさせられる出来ではなく、それは、大事なのは気持ちですといっていたレイアを絶句させるほどのものだった。
代わりに手作りのお守りを二人にわたす。
「ありがとうケイト。心強いよ」
「お、サンキューおちびちゃん。ってなんか俺とゼロとでクオリティ違いすぎねぇか!?」
「うるさい、もらえるだけありがたく思え」
ゼロのものはきちんと作られているのに対して、フェンリーのはつぎはぎだらけでまるでケイトの服のようだった。
旅立つゼロとフェンリー。レイアは姿が見えなくなってもいつまでも二人を見つめていた。
「いや~全くいい天気だな」
「……」
「なぁ弁当少し分けてくれよ」
「……」
「たっくケイトのやつはあの態度なんとかなんねぇのか?」
「……」
「……なんとかいえよ」
ゼロの表情はいつにも増して暗い。
フェンリーは会話を断念し、寂しくなった口元にタバコを咥えはじめる。
二人は一度ベルシカに向かうため、港を目指す。船はフェンリーが海賊だった頃のコネを使って、簡単に用意することができた。
「お、待ってましたよフェンネスさん。ベルシカまででしたよね?」
「ああ、よろしく頼む」
船に乗り込む二人。ここにはゲロゲロになるケイトも、それを看病するレイアもいない。かつてのように一人だ。そんな暗いゼロの背中を叩くフェンリー。
「いつまでそんな顔してんだ。寂しいのはわかるけどよ、あいつらを連れてこれるわけねぇだろ?」
「わかっている」
そうは言っているが、明らかにゼロは機嫌が悪い。そんなゼロを更なる悲劇が襲う。
キィと、誰もいないはずの船室のドアが開き、見覚えのある男が現れる。
「やあ。はじめましてゼロ。俺はワルター・フェンサー。帝国軍大佐、ローズの同僚だ。リースの兄でもある。」
軍人と名乗るその男はあの戦いの場で倒れていた男だ。
「ワルター! なんでお前がここに!?」
驚くフェンリー。
「なに、出向しそうな船はこの船だけだったからね。あらかじめ潜入しておいたのさ。」
そのワルターと名乗る男からは軍人よりもなぜか自分に近い臭いを感じ、警戒するゼロ。
「……それでなんのようだ? 俺に用があるんだろ?」
「さすがゼロ。話が早いね。なら俺も結論から言うよ。俺と戦おう」
銃を構えるゼロ。
「俺は今、気分が悪い。お前にも世話になったとローズから聞いている。撤回するなら今のうちだ。手加減はしない」
「望むところさ」
ワルターはまだ片腕に慣れないのか、ふらふらとした手つきで剣を抜く。
本当に殺し合いを始めてしまいそうな雰囲気の為、急いでフェンリーが間に割ってはいる。
「やめろって! ワルター、お前片腕でゼロに勝てるとおもってるのか? 死んじまうぞ! ゼロ、これからアーノルトと戦うってのにこんなところで怪我でもしたらどうすんだ!」
ゼロとワルターはお互いを睨み付けたまま微動だにしない。
「フェンリー、勝てるかどうかが問題じゃないんだ。戦ってみたい、自分の力を試してみたい。それだけなんだよ」
剣を手放そうとしないワルター。
「ゼロ! お前からもなんとか言ってくれよ」
「こういうやつは何人も見てきた。そして皆、口で言っても意味はなかった」
ゼロもまた、銃口をワルターに向けて、開戦に備える。
大きくため息をつくフェンリー。
「あーもうわかった! だがな、殺し合いは勘弁してくれ。ちょっと待ってろ! いいか、動くんじゃねぇぞ」
船室のなかに入っていくフェンリー。そして木刀を二本持って出てくる。それを二人の足元に投げるフェンリー。
「こいつは船乗り見習いが訓練に使う木刀だ。これで決着をつけろ。ゼロ、お前が剣を使えるかどうかは知らねぇが、ワルターは片腕だ。こんくらいのハンデがあってもいいだろ」
二人は木刀を拾う。
「俺はゼロと戦えるなら何でも構わないよ」
「いいだろう。少し憂さ晴らしをさせてもらう」




