episode 81 「復活」
一歩、一歩と血の染み込む大地を踏みしめるゼロ。
数人血を流して倒れている。知らない顔もあるがこの女兵士の顔はよく覚えていた。
「ローズ・ヴァルキリア……よくぞ約束を果たしてくれた。感謝する。今は休め」
ローズに一礼し、今もなお戦いが続いている場所へと歩を進める。
元海賊、元殺し屋の氷殺、フェンリー・フェンネス。そしてゼロを苦しめ続けた老兵、モルガント帝国軍最高戦力、元帥イシュタル。二人とも忘れることのできない存在だ。
イシュタルがいち早くゼロの存在に気づく。
「まさか、あり得ん! なぜ貴様が立っている!」
驚愕の表情を隠せないイシュタル。フェンリーも振り返る。
「……おせーよ」
フェンリーはバタッと倒れる。受け止めるゼロ。そしてゆっくりと地面におろす。
「答えろ! どうやって残りの3人を排除した! こんな短時間では不可能なはずだ!」
「貴様がオリジナルか」
「答えろと言っている!」
動揺するイシュタル。
「排除などしていない。奴等は今もなお俺のなかでうごめいている」
「ならなぜ貴様が人格どもを支配できている!」
「さあな。だが今まで俺の頭の中にあったモヤは完全に消え去った。」
「このワシの掌握を越えるだと? 許せん。断じて許せん。再び虚空の彼方に閉じ込めてやる」
もはやイシュタルの目にはゼロ以外何もうつらなくなっていた。先程まで戦っていたフェンリーにさえも。
そんなイシュタルではフェンリーの攻撃を避けることは不可能だ。
最後の力を振り絞り、フェンリーは地面に氷を出現させる。それは小さな小さな氷だったが、我を忘れて突っ込んでくる老人の足元を掬うには十分だった。
「なっ!」
「終わりだイシュタル」
ふらつくイシュタルの顎に強烈な蹴りを繰り出すゼロ。なんとか体勢を立て直し、エクスカリバーでゼロを襲う。が、それも後ろにいた兵士に弾かれる。
「レオグール、貴様……!」
「観念してください。元帥殿」
ゼロの蹴りが迫る。
(ふざけるな……! 負けるのか? このワシが? そんなことあってはならない。ワシは帝国軍最高戦力、元帥だぞ!? こんな雑兵どもに遅れをとっていいはずがない!)
ゼロの蹴りは見事イシュタルの顎に命中する。吹き飛びながらイシュタルの意識が遠退く。そして地面に到達した頃には完全に途絶えた。
帝国軍最高戦力、イシュタル元帥は倒れた。
「やりやがったな、ゼロ」
フェンリーと握手をかわすゼロ。
レイアが駆けてくる。たくさんの涙を浮かべて。
「ゼロさん! 本当にゼロさんですよね!?」
「ああ、俺はゼロだ」
ゼロに抱きつくレイア。
「バカ! どれだけ心配したと思っているんですか!」
「済まない。だが、レイア。お前は泣かないのではなかったのか?」
「うるさい!!」
涙を隠すようにゼロの胸に顔を埋めるレイア。ゼロはレイアを優しく抱きよせる。
ケイトが縛り上げたイシュタルをフェンリーが凍らせる。全身を凍らせようとするが、気絶してもなおエクスカリバーを手放さないため、締めた縄と下半身のみ凍らせる。ワルターのこともあったため、腕を切り落とそうと提案するフェンリーだったが、ケイトとレイアに猛反対され断念する。
フェンリーは急いでワルターとリースを医者につれていく。マークはローズの肩を支えながら、リザベルトを取り戻しに帝都へ戻る。
「……済まなかった」
「もういい。お前のお陰でレイアは無事だった。感謝する」
目を覚ましたローズはゼロを見るなり一言謝罪し、ゼロの返答を聞くと救われたように微笑んだ。
残されたゼロ、レイア、ケイト。
「これからどうしますか?」
レイアが嬉しそうにゼロを覗きこむ。
「ああ、そうだな」
そこまで答えて腹の虫が騒ぎだしてしまうゼロ。
「とりあえず、お前の手料理が食べたい」
「はい!」
「私も、手伝う」
三人は港を後にする。いつの間にかイシュタルの姿が消えているとも知らずに。




