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スティールスマイル  作者: ガブ
第二章 モルガント帝国
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episode 80 「鼓動」

イシュタルは体をパキパキと鳴らして、完治した傷の具合を確かめている。


「不死身かよあのじーさん。おいねーちゃんまだいけるか?」

「……無論だ」


そうは言っているものの、ローズの限界はとうの昔に過ぎていた。それを感じ取ったフェンリーは、再び足裏を凍らせ一人でイシュタルに突っ込む。


氷の剣でイシュタルに切りかかるが、当然イシュタルも加護を打ち消す聖なる剣、エクスカリバーで対応する。


「くらいやがれ!」

「何度やっても同じことだ」


氷の剣がエクスカリバーに触れた瞬間、粉々に砕けちる。追撃を繰り出そうとするイシュタルだ、突如脇腹に鋭い痛みが走る。


「バカな、貴様の剣は確かに砕いたはず……」

「ああ、俺の剣はな」


イシュタルの脇腹に突き刺さっていたのはフェンリーの氷の剣ではなく、マークの持つ七聖剣、ウォーパルンだった。


「水でできた剣たぁなんとも不思議なもんだけどよ、俺との相性は抜群だぜ」

「く、ぬかったわ」


血を吐き、よろめくイシュタル。


「いまだねーちゃん!」


が、既に意識のないローズにその言葉が届くことはなく、すぐに回復したイシュタルによって蹴り飛ばされるフェンリー。


「ぐが!」

「見事だ。だがいくらワシにダメージを与えようとも無意味。いい加減学習したらどうだ」

「そうかな?確かにダメージは回復するみてーだが、体力は回復してねぇんじゃねーか?蹴りの威力が落ちてるぜ?」


確かに蹴りの威力は落ちていた。だがそれでも骨の髄まで響く重い一撃な事に代わりはない。


ウォーパルンを使っての攻撃も次は通用しないだろう。そもそも剣の扱いに長けていないフェンリーでは不意打ち以外使えない攻撃だ。



「ワシと一番相性の悪い貴様が最後に残るとはな。もう貴様を掌握するつもりはない。存分に死ね」


今度はイシュタルの方からフェンリーに向かって突っ込んでくる。動きも大分鈍ってきているが、それでもフェンリーよりは素早い。あっという間にフェンリーの眼前に現れるイシュタル。


「貴様はよく頑張った。もう休め」


振り下ろされるエクスカリバー。ウォーパルンで受けるも力負けし、刀身が肉体に食い込む。


「ッ!」

「力を抜け、身を任せろ。楽にしてやる」

「んなことできるか! 俺にはまだやらなきゃなんねぇ事があるんだよ!」


イシュタルの剣を弾き返すフェンリー。すぐに傷口を凍らせる。


「ゼロ、起きてくれよ。このままじゃみんなやられちまう」


掌握の強さは指の本数とイシュタルとの距離によって決定する。指の本数は三本だが、イシュタルとの距離は限りなく近い。掌握はとても強力な状態だ。


「ふ、あの小僧を頼っても無駄だ。掌握の解除は脳に刺激を与えればいい。貴様もそうやって解除したのであろう。リンとワシの分身を排除したからといって、あの小僧にはまだ三本ぶん掌握の力が働いている。並大抵の刺激では解除できんし、できたとしても衝撃で死ぬだろう」


それを聞いてニヤリと笑うフェンリー。


「なんだ、やっぱりそうじゃねぇか」


レイアたちに向かって大声で叫ぶフェンリー。


「レイアー! やれ! やっちまえー!」

「何を叫んでいる?」


声に反応してひょこりと岩影から頭を覗かせるレイア。レイアが目にしたのはキスのジェスチャーをするフェンリーの姿だった。


何をいっているのか理解はしたものの、戸惑うレイア。


「レイア! しっかりして! 今フェンリー達を助けられるのは、レイアだけ!」


ケイトがレイアの裾を掴む。レイアはごくりと唾を飲み込む。


ゼロの手を握るレイア。その手はとても冷たい。苦しそうな表情のゼロの顔をもう片方の手で隠すレイア。


「ケイトちゃん、目をつぶっていてください」


ケイトは不満混じりの満足げな顔で目をつぶる。


恥ずかしさと後ろめたさでどうにかなってしまいそうなレイア。自分も目をつぶる。



手でゼロの顔の位置を確かめながらゆっくりと顔を近づける。自分でも息が荒いのがわかる。



その荒い息はやがて冷たく柔らかいものに触れて止まる。



その冷たいものはレイアの温かく火照った唇から熱を奪っていく。



奪われても奪われてもレイアの顔は火照ったままだ。



すっかり熱を帯びたゼロの唇からドクンドクンと鼓動が伝わってくる。



「いつまでやってる!」


ケイトに肩を掴まれるまで夢中でゼロの唇に触れていたレイア。全く自覚症状がなかったのか、驚いてピョンとはねあがる。


「ひゃあ! ケケケケイトちゃん! わたくし、わたくし!」


あたふたするレイアの腕を、ケイトではない第三者が掴む。


「あ、あ」


その顔からは苦痛が消え、見覚えのある鋭い目付きがよみがえっている。握られた腕から命の鼓動が伝わってくる。



「お帰りなさい、ゼロさん」


「ただいま、レイア」



ゼロは立ち上がり、もじもじしているケイトの頭を優しく撫でる。そして血の臭いがする方へと歩きだす。



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