episode 72 「ワルターvsマーク」
「俺はねローズ。君と戦うことも、とても楽しみにしていたんだ」
剣を無我夢中で振り回すワルター。その目は狂気じみていて、マークと戦ったときとはまるで別人だった。
筋の読めないワルターの剣になんとか食らいつくローズ。少ない隙をついて細かに斬撃を加えるが、全く怯む様子の無いワルター。
「ハハ！ どうしたんだいローズ。ずいぶんとおとなしいじゃないか！ そんなことではリザベルト君は救えないぞ！」
「く、知ったような口を！ 私がどれだけ悩んでいると思っているんだ！ リザベルトも、ゼロも誰も傷つけたくはない。でも、どうしようもないじゃないか！」
ローズの叫びを聞いて攻撃の手を止めるワルター。
「ハァ、何を言っているんだい？ もともと君がまいた種だろう？ それより戦いに集中してくれよ。うっかり殺してしまいそうだ」
マークが横から入ろうとするが、ワルターの鋭い視線に気圧される。
「マーク君。どうか邪魔だけはしないでほしい。ローズを屈服させたあときちんと戦ってあげるからちょっと待っていたまえ」
「くっ」
(何を怖じ気づいているんだ俺は。何が六将軍、何が七聖剣の使い手だ。ローズ大佐を守らねば。兄上のような立派な兵士になるために！)
マークは恐怖を支配し、ワルターに立ち向かう。ローズとの遊びを邪魔されたワルターは明らかに機嫌が悪くなっている。
「マーク君、君は口で言えばわかる男だと思っていたよ。ローズ悪いね、どうやらこの少年には教育が必要らしい」
(来る!！)
ワルターが凄まじいスピードでマークに突っ込んでくる。パワー、スピード、気迫、すべてワルターが上回っている。ウォーパルンも既に見切られ、ワルターに攻撃が届くことはなかった。
ワルターの帰りが遅いので心配するリース。
「まさか、既に元帥殿が村に……」
「リース、こいつらは任せたぞ」
「フェンリーさん！……お願いします」
フェンリーはワルターを追って孤児の村へと急ぐ。
(嫌な胸騒ぎがするぜ。あいつ、何か企んでいる気がしてならねぇ)
フェンリーが村に到着した頃には既にマークは立っているのがやっとなほど痛め付けられていた。
フェンリーに気づいてマークから目をそらすワルター。
「ん？なんだいフェンリーか。なんのようだい？ 当然リースたちの護衛よりも重要なことなんだろう？」
「お前の帰りが遅いもんだからリースが心配してよ。それよりそこの死にかけの坊主と震えてるねーちゃんは何者だ？」
「ん？ ああ敵だよ。どうやら元帥に任務を仰せ遣ったらしい」
よそ見しているワルターの隙をつこうと斬りかかるマークを軽くいなして答えるワルター。
止めを刺そうとするワルターの手をつかむフェンリー。
「なんだい？」
「もうその辺でいいだろ、死んじまうぞ」
「当然だろう？ その気なんだから」
フェンリーの手を振りほどき、マークを殺す動作にはいるワルター。が、その一撃はフェンリーの分厚い氷に阻まれる。
「な、氷！？」
驚くマーク。そして非常に機嫌の悪いワルター。
「あのさ、フェンリー。俺の事を快く思っていないのはわかっているよ？ でもね、俺は君たちの事を思って行動している。これは本当の事さ」
「だからって、これはやりすぎだろ！」
「邪魔をするってことはね、つまり君も敵だということじゃないかな？」
「チッ。話が通じねぇなら一度頭を冷やし……いや凍らしな！」
