episode 71 「七聖剣」
孤児の村の存在を知っているのはごく少数。リースとワルター、レイアたちを除けばイシュタルにローズだけだ。もっともイシュタルはリースたちが暮らしている村だという認識はないので、実質知っているのはローズだけになる。
「……ひどい有り様だな」
ローズとマークが村に到着した際、既にほとんどイシュタルに荒らされたあとで、形をなしている家は残されてはいなかった。マークと手分けしながら手がかりが残されていないか、瓦礫をかき分ける。
その頃ワルターも村に到着していた。誰もいないはずの村からは明らかに人いる気配と物音がする。警戒しながら、じりじりと音のする方へ詰め寄るワルター。
一方マークも自分に忍び寄る何者かに気付き、返り討ちにしようと集中を高めていた。
ほぼ同時、互いに剣を抜き向き合う両者。
「誰だお前は!」
「君こそ人の村で何をしているんだい?」
マークは背中からもう一本の剣を抜く。その剣は明らかに異質で、青く輝く宝石が埋め込まれていた。その剣を見てなにかに気がつくワルター。
「金髪に眼帯、おまけにその剣……双剣のマーク、マーク・レオグールだね? 六将軍の」
「そういうお前は何者だ」
「俺に勝てたら教えてあげるよ」
ワルターに斬りかかるマーク。二本の剣を巧みに操り、ワルターを苦しめる。
「ハハ! なかなかやるじゃないか! 剣技だけならローズにも勝るんじゃないかな? もっとも、当たらなければ意味はないけどね!」
確かにマークの剣は鋭く早い。だが見切れないほどでもなかった、はずだった。確かに受けたはずの剣がワルターの剣をすり抜け、肉体にダメージを与える。
「がっ!」
「どうだ、俺のウォーパルンの味は」
「ハハ、そうだったね、その剣は普通じゃない。加護を宿した剣、七聖剣は」
七聖剣。加護を宿しているとされる伝説の剣。そのうちの一振り、ウォーパルン。受けし加護は水。実体の無い剣とされ、受けることは不可能。防具や盾、障害物を避け相手にダメージを与えることができる。
剣の腕ではワルターが一枚上手だが、接近戦は危険と判断しマークから距離をとる。
「いい加減名乗ったらどうだ?」
「ごめんだね。俺はまだ負けてはいないよ?」
「フェンサー大佐!」
「ああ、もう!」
騒ぎを聞き付け、ローズが駆けつける。あっさりと名前をバラされ、うなだれるワルター。大佐だと聞き、慌てて頭を下げるマーク。
「も、申し訳ありません! とんだご無礼を!」
「いいや、構わないよマーク。君は君の仕事をしたまでさ。とこれでその仕事とは一体なんだい?」
ローズの方を向くマーク。ローズは小さくため息をついて状況を説明する。
「……なるほどね。リザベルト君を守るためにゼロを渡せというわけか。それでローズ、君は俺と戦う覚悟はあるのかい?」
ワルターから殺気が溢れる。
マークは戦慄した。本当にこの男は先程まで自分と戦っていた男なのか?
「フェンサー、お前が私の障害となるならそうせざるを得ない」
ローズは剣を抜く。
「ハハ! いいねいいね! 俺が来てよかった!」
ワルターは新しいおもちゃを手にいれた子供のようにはしゃぎながらローズに飛びかかる。




