episode 70 「選択」
リザベルトの命は風前の灯火だ。
ローズはリザベルトを抱え、何度も呼び掛けながらモルガント帝国に急ぐ。半日ほど掛け、帝都に戻る三人。帝都の門ではイシュタルが待ち構えていた。
「な、あの方はまさか……」
「ああ。元帥殿だ」
軍最高戦力の登場に驚くマークと焦るローズ。果たしてレイアたちはどうなったのだろうか。嫌な予感が頭をよぎる。
「ローズ、やってくれたな。リンはまんまと連れ去られたよ。知らなかったでは済まされんぞ?」
殺意、敵意とは違う。イシュタルから溢れるとてつもない威圧感。息がつまる感覚。が、それと同時にレイアたちの成功を確信する。
なにも答えないローズ。イシュタルは剣を抜く。
「責任の取り方は心得ているな?」
イシュタルの圧力に挫けそうになりながら、瀕死のリザベルトを差し出すローズ。
「何だ? お前の代わりにこの死に損ないを差し出すというのか?」
「いえ、どうか我が妹をお救いください。そのあと私はどうなろうとも構いません。」
「ずいぶんと虫がいい話だとは思わんか? ワシが聞き入れるとでも?」
剣を抜き、自らの首にあてるローズ。
「聞き入れていただけるのなら、元帥殿の手を煩わせることなく、自ら命を絶ちましょう。」
ローズの目を見るイシュタル。その目が嘘ではないことを確信し、剣を納める。
「いいだろう。お前の愚妹、ワシが治してやる。ただしお前の命だけでは釣り合わんと思わんか?」
「ま、まさかレオグール中佐を!?」
マークの方を向くローズ。
「そこの小僧などどうでもよい。リン、いやゼロを連れ戻してこい。必ず生け捕りにしろ。あやつはワシの手で葬り去る」
「何故そこまであの男にこだわるのですか」
リザベルトを引き寄せるイシュタル。
「聞こえなかったのか?ゼロを生け捕りにしてこい。よく知りもしない殺人鬼と自分の妹、選ぶまでもないだろう?」
リザベルトを人質にとられる形で、半ば強制的にゼロ奪還の命を受けたローズ。
「レオグール中佐、君はついてこなくてもいいんだぞ?」
「俺は上官に手を出した裏切り者ですから戻るところ何てありませんよ。それに俺もリザベルトのことは心配です。迷惑なら消えますが」
「いや、心強いよ」
ローズとマークはとりあえず最後にレイアたちの痕跡が残された孤児の村に向かうことにした。
その孤児の村から旅立ったレイアたちはフェンリーの提案でベルシカに向かうことにしていた。
ケイトの意見など到底聞き入れてもらえず、船着き場に向かう5人とゼロ。しかしイシュタルの策略により船着き場は閉鎖されており、人っ子一人いなかった。
「たっく元帥ってのはとんでもない権力の持ち主だな」
「考えても見れば当然か。ここは軍がしきる国。そして俺たちはその軍の実質的トップと戦っているんだからね」
フェンリーとワルターの会話を聞きながらホッとするケイト。
だがしかし道は閉ざされてしまった。国内にいれば遅かれ早かれ見つかってしまうだろう。そうなれば戦闘は避けられない。そして結果は見えている。
「仕方ありませんね、一度村に戻って対策を立て直しましょう」
「ですが、あそこは元帥さんに見つかっているかもしれませんよ?」
「かもしれません。ですがこのままここにいても船はいつまでたっても来ませんし、体を休めることもできません。とりあえず私一人で様子を見てきます」
レイアの心配を振り切って一人で村に戻ろうとするリース。当然ワルターが黙ってはいない。
「リース、いくなら俺が行ってくるよ。君はレイア君たちを頼む。フェンリー、君は信用できないが君の力は信頼できる。妹たちを頼むよ」
ついていこうとするリースを振り切って一人で村に戻っていくワルター。
村は既に破壊され、自分達を追うローズとマークもそこに向かっているとは知らずに。




