episode 69 「誇り」
バチバチと空気が揺れる。とてつもない悪寒がリザベルトを襲う。
死神ゼクス、敵はもちろん味方からも恐れられる死の将軍。その男が正に自分を敵と認識し、命のやり取りをしようとしている。
「待ってくれ大佐! 中尉、お前も早く謝罪を……」
「黙ってろ、レオグール中佐」
間に割って入るマークを気迫で退けるゼクス。
「リザベルト、俺は知っての通り十闘神モルガナの加護を受けている。その意味はわかるよな?」
十闘神モルガナ。十闘神の中では比較的若く、魔術の扱いに長ける魔女と言い伝えられている。
地水火風、様々な超常現象がゼクスの周りで起こる。
「干死、溺死、焼死、烈死、好きなものを選びなぁ!」
ゼクスの容赦ない一撃がリザベルトを襲う。マークが助けに入るが、一歩及ばず攻撃はリザベルトに命中する。
「かっ!」
息が止まるリザベルト。たったの一撃で瀕死状態に陥る。
「リザベルト!! おい、しっかりしろ!」
リザベルトの頭を抱えるマーク。辛うじて生きているようだが、反応はない。
「オイマーク! ぼさっとしてねぇで早くそのゴミを棄ててこい!」
「キサマ……」
「あぁ? 何か言ったかよオイ!」
ゼクスに飛びかかろうとするマークを誰かの手が制止する。
「誰だ! この男は俺が!」
「この男は私がやる」
「……! あ、あなたは!」
マークを止めた者の名はローズ。帝国軍大佐にしてリザベルトの実の姉である。
「キラ、妹をここまで痛めつけておいて最早言い訳などするまいな?」
「言い訳? 何でそんなことしなきゃならねーんだよ。そこのゴミクズは反乱分子だ。だから殺す。それが俺の任務だ」
剣を抜くローズ。
「殺す」
「ギャハハハ。いいねいいよ。テメーはいい加減目障りだったからな。いい機会だ、ブッ殺してやるよ!」
ゼクスはローズに向けて攻撃を開始する。だがリザベルトのように簡単に攻撃は命中しない。だんだんとイライラしてくるゼクス。するとある企みが生まれる。その企みに気づいたのかマークが動こうとするが、ゼクスはそれを止める。
「マーク! テメェは動くんじゃねぇ! 反逆者になりてぇのか?」
「く! 大佐、だが!」
「最後のチャンスだ。退いてろ。そしたらさっきの発言も聞き逃してやってもいいぜ。」
マークの動きが止まったのを確認し、今度はローズに語りかける。
「おっと、動くなよローズ。そこのゴミを燃やしちまうぞ?」
ゼクスは横たわるリザベルトに向けて攻撃するそぶりを見せる。
「……キサマ、卑怯な真似を」
「卑怯で結構! 勝つためなら手段を選ばない、それが生き残るコツさ。来世で忘れないようせいぜい肝に命じておきな」
ゼクスは無抵抗のローズを狙い打つ。
「ギャハハハ。死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね!」
(ここまでか。……姉上、あとは頼みます)
ローズは死を覚悟する。が、攻撃は思わぬ方向へと逸れる。
「がっ! マーク、テメェ……」
マークは柄頭でゼクスの頭部を強打した。ゼクスはそのまま意識を失う。
「レオグール中佐! 何故……」
「誇りをもって行動しろ。兄から教えられた言葉です。任務をこなすことは軍人の俺にとっての誇りです。ですがここであなたたちを見捨てれば、マークとしての俺の誇りは失われてしまいます。それだけです」
マークとローズはリザベルトを抱えてその場を去る。明らかに任務を放棄し、軍に反逆した二人だったが、残されたゼクスの部下たちは誰も二人を追おうとはしなかった。




