episode 68 「内紛」
帝国軍六将軍、リザベルト・ヴァルキリアは危機に瀕していた。セルフィシー王国王子、クレア・セルフィシーに見つかり、なんやかんやで共に行動することになったまではよかった。だが旅の道中で仲間の兵士を斬ってしまい、裏切り者のレッテルを貼られてしまったのだ。誤解を解くためクレアたちと別れ、ゼクスのいる駐屯所に向かうリザベルトであったが、その途中で同じ六将軍の仲間、マーク・レオグール中佐と鉢合わせてしまった。
「マーク、そこをどいてくれ! 私はゼクスの元へ向かわねばならないんだ!」
「中尉、お前は自分が何をしたのかわかっているのか?王子と接触し行動を共にするだけでは飽き足らず、仲間の兵士に手を出した。そんな裏切り者を大佐の元へ行かせるわけにはいかない」
金髪で右目に眼帯、軍服にマントのマークはリザベルトを敵とみなし、背中に背負った剣を抜く。
「マーク! 話を聞いてくれ、彼は我々が思っているような悪人ではない。むしろゼクスの方がよっぽど極悪人ではないか!」
「中佐を付けろ、中尉。お前の言うことももちろんわかる。確かに大佐の行動に俺も疑問は感じている。だがな、軍は組織だ。たとえ上官がどれだけ悪人でも、それがどんなに卑劣な命令でも従う。それが軍人だ。その覚悟がないのなら、軍人などやめてしまえ!」
マークは本気だ。確かにマークの言い分も分かる。だがリザベルトはどうしてもゼクスの悪行を見て見ぬふりで任務を続けることはできなかった。覚悟を決めるリザベルト。
「マーク。あなたの意思も、あなたの信念もよくわかっているつもりだ。あなたを言葉で説得できないことも。ならば私も覚悟を決める。もう言葉はいらない、剣で語ろう」
「言うようになったなリザベルト。まるでローズ大佐だ。」
二人は剣を交える。スピードはほぼ互角、若干リザベルトが速い。だが剣技は圧倒的にマークの方が上だ。徐々にマークがリザベルトを苦しめていく。
「どうした中尉、雑念を捨てろ、目の前の敵に集中するんだ」
マークの言う通り、リザベルトの頭の中は様々な思いが交錯していた。
ゼクスは何を考えているのか?
なぜセルフィシー王国が狙われたのか?
クレアはいったい何者なのか?
レイアは無事なのか?
なぜマークと戦わねばならないのか?
この先どうすればいいのか?
「マーク、あなたはなぜ軍人になったんだ!」
「無論、国の為」
リザベルトが敵と認識しているのはゼクスただ一人、できればマークとは戦いたくなかった。それは勿論マークも同様である。だがマークにとっては仲間意識よりも任務が優先だ。ただでさえ実力で劣るリザベルトが気持ちの面でも劣っていては、勝つことなど到底不可能。敗北は最早必然だった。
地面に倒れるリザベルト。そんなリザベルトにマークは手を差し伸べる。
「な、何のマネだ」
「お前の意思は伝わった、リザベルト。だがな、どうしても自分の意思を貫き通したいなら、無駄な考えは捨て、何が何でもここで俺を倒すべきだった。たとえ幼馴染であっても」
その場を去ろうとするマークを呼び止めるリザベルト。
「ま、待ってくれ! あなたも一緒に!」
「大佐には俺から説明しておく。話の通じる相手ではないが、お前たちが逃げる時間稼ぎくらいはできるだろう。忘れるな、意思を貫くなら覚悟しておけ。次は無い」
一人残されたリザベルトは少し考え、クレアたちの元に戻るわけではなくマークの後を追う。ゼクスを討つために。
マークはゼクスのいる駐屯所に到着した。すぐにリザベルトの弁明を図るが、ゼクスは聞く耳を持たず逆にマークの責任を追及する。
「オイオイマーク、どうしてもテメェが行くっつーから任せたのによ、このざまはなんだ? まさか最初から逃がすつもりだったんじゃねぇだろうなぁ? だとしたら俺はオメェをぶっ殺さなきゃなんねーんだが、そこんとこどうよ」
「俺が受けた命令は裏切り者を殺せだ。中尉は我々を裏切ってなどいない」
ゼクスの殺意が膨れがる。
「あぁ!? 俺はぶっ殺してこいっていったよなぁ? だったらぶっ殺してこいや!」
「その必要はない」
リザベルトも駐屯所に到着した。
「リザベルト! なぜ来たんだ!」
「ぎゃははは、オイオイマーク名誉挽回のチャンスだぜ。きっちり殺せよ」
驚くマークの前を素通りし、上機嫌のゼクスの前に立ちはだかるリザベルト。
「あぁ!? なんだよオイ! 愉快な命乞いでもしてくれんのか?」
「覚悟しろゼクス! 貴様の悪行、これ以上見過ごす事は出来ない!」
それを聞いたゼクスから禍々しい殺気が漏れ出る。周りにいた部下たちはあまりの恐ろしさに失神する者もいる。リザベルトは身構える。
「もう、終わりだぜ。死、以外じゃ償えねぇぞ?」




