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スティールスマイル  作者: ガブ
第二章 モルガント帝国
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episode 67 「ゼロvsイシュタル」

戦いは熾烈を極めた。ジャックほど圧倒的な速さも、組織最強のパワーを誇るといわれる殴殺オイゲンほどのパワーも無い。だがイシュタルにはずば抜けた戦闘センスと、どんな傷でも修復してしまう回復力がある。一撃で仕留めない限りイシュタルに勝つことは難しいだろう。


「どうした? 組織とやらの最強なんだろう? その程度ではワシの愛弟子ジャンヌにすら及ばんぞ」


イシュタルは余裕でゼロの攻撃をかわす。だがゼロに勝機がないわけではなかった。以前のように全く攻撃が当たらないという事も、攻撃をかわせないこともなかったからだ。ゼロの攻撃が当たればそれだけイシュタルの意識を回避や回復に集中させることができる。しかしそれを考えていないイシュタルでもない。回復するふりをし、わざと隙を作る。そしてまんまと懐に入り込んできたゼロを斬りつける。


「ガッ!」

「上手く致命傷を避けたか。だがその怪我ではもうワシの攻撃はよけきれんだろう」


ゼロは腹から腰にかけて手痛い一撃を浴びた。意識の中だというのにその痛みは鮮明で、ゼロに死を意識させる。


(落ち着け、ここは俺の精神世界だ。集中しろ、意識を研ぎ澄ませ)


「ふん。意識の中だからといって死んでも問題ないなどと思うなよ。確かにここで貴様が死んでも貴様の肉体が死ぬわけではない。だが貴様の意識は死に絶える、先ほどのリンのようにな。だが心配はいらん。貴様に代わってワシが植え付けた別の貴様が貴様の肉体を護ってやろう」


イシュタルはゼロにとどめを刺そうと剣を構える。


「ふざ、けるなっ!」

「ふざけてはいない。ワシはいたってまじめだ。ちゃんとレイアの事も考えているぞ、位の高い騎士とでもつなげてやろう。貴様は安心して奈落の底にでも墜ちるといい。」

「俺もレイアも貴様には渡さん。貴様はしょせん俺の記憶が作り出した幻想にすぎない。俺の幻想に折れが負ける負けがない」


笑い出すイシュタル。


「はははは。何を言い出すかと思えば。確かにワシは幻想だ。だが貴様はその幻想に一度とて勝利していないではないか。ワシに勝てる幻想ができるのか? できないのならそれは単なる妄想だ」

「どうやら御託を並べるのが得意なようだな、俺の幻想は」


イシュタルは笑うのをやめ、傷だらけのゼロにとびかかる。もはやゼロによける力は残されていない。ならばいっそのこと受け止めることにした。


グサリと剣がゼロの体を貫通する。薄れゆく意識の中でゼロは勝利を確信するイシュタルの心臓めがけてナイフを突き出す。血を吐き出す両者。剣とナイフが刺さったままお互い仰向けに倒れる。


「さ、流石に心臓が破れてしまえば回復は追いつかないらしいな。貴様の負けだ」

「ほざけ、その傷で生き残れるとでも?」

「知らんさ。だが今死ぬほどの傷を受けているのも、死んだら意識が消滅するというのも全ては俺の想像、いや妄想さ。なら生き残る妄想をすればいい」

「ふ、果たしてそううまくいくかな」


イシュタルの幻想は消え去った。



ゼロの中から再び人格がきえたことで術者であるイシュタルにも影響が出ていた。


「ぐっ! よもや奴に植え付けて置いたワシの分身がやられるとはな。これで奴に植え付けた人格は残り二つ。急がねばな」


イシュタルは孤児の村に到着した。すでにレイアたちは出発し、そこはもぬけの殻だった。


「ここまでワシを煩わせるとはな。レイア、正直君をなめていたよ。」


イシュタルの湧き上がる怒りによって大地は震え、空が恐れて雨を降らす。無人の村に一人立つ老人は雨に打たれる。だがその程度では老人の怒りの業火を癒すことなどできない。


先ほどまでレイアたちが拠点にしていたであろう小屋を見つけ、中に入る。生活感はあふれるものの、身元を判明できそうなものはワルターによって既に処分されており、残されてはいない。


「リン。お前はここで殺されたのか。それも人知れずゼロの意識の中で。安心しろ墓は立ててやる」


イシュタルは小屋を出て、それに向かって剣を力いっぱい振り下ろす。その剣に導かれて風が小屋を包み込み、空は雷を落とす。


「次は供物を添えてやろう。お前を殺したゼロの首をな」








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