episode 66 「ゼロvsリン」
ゼロは明らかにレイアたちを警戒していた。眼光は以前のように鋭さを増し、敵意をむき出しにしている。
「ぜ、ゼロさん?」
「……ぐっ!」
レイアの言葉を受けて、頭を抱えるゼロ。
「俺は誰なんだ! ここは何処なんだ!」
ゼロは暴れ始める。危険を感じてケイトがレイアをゼロから引き剥がす。ゼロはテーブルの上にあったペーパーナイフに手を伸ばす。
「答えろ! 俺は誰なんだ!」
「あなたは、ゼロさんです」
ケイトの手を振りほどき、再びゼロのもとへと近づくレイア。レイアが近づいてきたことでさらに取り乱すゼロ。
「く、来るな!」
ゼロは目をつぶってナイフで威嚇する。そのナイフはレイアの頬を切り裂き、血が滴る。
肉を切った感触に驚き、ナイフを落としてしまうゼロ。
「あ、あああ」
「三回目ですね」
レイアはナイフを拾い、ケイトに手渡す。リースが差し出してくれたハンカチで血を拭い、ゼロの方を見る。その視線に怯えるゼロ。
「な、何だ! 仕返しするつもりか! お前が悪いんだぞ!」
さらにゼロに近づくレイア。ゼロは恐怖で目をつぶる。
「ひぃ!」
次の瞬間、暖かさがゼロの全身を包み込む。ゼロの恐怖心は一気に解消され、目を開ける。
「ごめんなさいゼロさん。辛い思いをさせてしまって」
レイアの血がゼロにも伝わる。
「あと少しです。あと少しで本当のあなたに戻ることができるはず」
レイアはゼロをより一層強く抱きしめる。血と一緒に涙もゼロに伝わる。その涙を見てゼロはなぜか心が強く締め付けられる。そしてゆっくりと再び意識を失った。
またここか。
ゼロは意識の世界に戻ってきた。だがそこにイシュタルの姿はない。その代わりに見覚えのある男が立っていた。
「お前は……」
「はじめまして。僕はリンです」
リンはそう言うとゼロに襲いかかっていく。
身体能力はまったく同じ。攻撃を避けることはできても、反撃をすることはできなかった。
「なんだ貴様は」
「僕はリンです。ゼロ、君にかわって僕が君になります。大人しく死んでください」
リンは鋭い攻撃を繰り出す。スピードも威力も十分、だがゼロはある違和感に気がつく。
「貴様、人を殺したことがないな?」
「はい。僕は殺し屋ではないですから。でも能力は君と全く一緒です。劣るとは思いませんが」
「確かに。だが貴様には人を殺す知識も覚悟もない。なぜなら貴様は俺の記憶がないからだ」
ゼロはリンの攻撃をわざと受け、隙を作る。そしてリンのこめかみめがけて鋭い蹴りを与える。
「っ!」
「ここは人体の急所の一つだ。強打すればたちまち平衡感覚は失われる。まぁ、もう聞こえてはいないだろうがな」
そして脳天に追撃のかかと落としを食らわせる。リンは倒れ、意識を失う。
「見事だ」
聞き覚えのある声の方を向くゼロ。
「いい加減貴様の顔も見飽きたな」
「リンを倒したからといい気に成るなよ。指はまだ三本残っている。」
「貴様こそのこのこ出てきていいのか? 貴様を倒せばそれで終了だろう?」
「いいのだよ。ワシの方が遥かに強いのだから」
再びまみえる両者。最強同士の戦いが再び始まる。




