episode 65 「次なる試練」
ワルターとフェンリーは家に戻っていった。出ていったときのような険悪な雰囲気はなく、ホッとするレイアたち。だが二人とも怪我をしているようで、特にワルターは重症だった。
「兄さん! どうしたのその足!」
リースがワルターの引きずっている足を見て叫ぶ。
「ああ、ちょっと木登りをしていたら落ちてしまって。フェンリーがいてくれて助かったよ」
「もう! 気を付けてよ! ありがとうフェンリーさん」
「あ、ああ」
ワルターは目覚めないリンの方を向く。
「話はフェンリーから聞いたよ。君たち、ゼロ君を助けたあとはアーノルトという殺し屋と戦うんだって? 乗り掛かった船だ、よかったら俺も協力させてもらえないだろうか」
「に、兄さん。兄さんを巻き込むわけには」
「何を言ってるんだいリース。それとも俺を事情を知っておきながら見て見ぬふりをする薄情な男にしたいのかい?」
「そんなことは……」
「じゃあきまりだ」
そう言ってワルターは全員と握手を交わす。もちろん気絶中のゼロとも。
(ゼロ、待っていてくれ。必ず君を救いだし、必ず君を殺してみせよう)
この先どうするのか作戦会議に入る五人。まずはどうやって掌握を解くのかが議題に上がる。もちろん注目はフェンリーに集まる。
「ぶっちゃけほとんど覚えてねぇんだ。右手を頭の上に乗せられたとたんになにも考えられなくなっちまった」
「そうですか、ですがフェンリーさんのお話のお陰で、ゼロさんの記憶喪失はイシュタルさんの加護によるものだという可能性が高まりました。ならばきっとフェンリーさんのように記憶を取り戻す方法も存在するはずです!」
ようやく光が見えてきたことで希望に満ち溢れるレイア。
「なら簡単じゃないか、ゼロ君の頭も叩いてみればいい。それで解決さ」
フライパンを持ち出すワルターを止めに入るリース。
「やめましょう兄さん。さっきはたまたまうまくいっただけかも、一歩間違ったらそのまま殺してしまいます!」
「そうかい?」
フライパンを引っ込めるワルター。
(ま、確かにそれじゃもったいないな)
「そういえば、何であんたはここがわかったの?」
何で気がつかなかったのかと、ケイトが口にした当たり前の疑問の答えに耳を澄ませるレイアたち。が、記憶のなかったフェンリーにその答えはわからない。
もしかしたら術をかけられた者同士引き合うのかもしれないとリースが考えるも、それなら元帥がついてこないのがおかしいという結論に至る。結局のところ答えは見つからなかった。
「とにかくここから移動しないかい? 元帥殿にこの場所を探し当てる力があるのだとすれば、ここに留まっているのは正に自殺行為だからね」
ワルターの提案に反対の者は当然居らず、五人はすぐに出発の準備を始める。
ワルターが危惧していた通り、イシュタルは村のすぐ近くまでやって来ていた。
(あの男の術が解けたのはこの辺りか。しかしどうやって解いたのだ。自力で解いたとは考えにくい。だがそう簡単に掌握したあの男を気絶させられるとは思わん。ましてやあの女共には到底不可能だろう。いったい何があったのか、確かめる必要があるな。)
イシュタルの加護、掌握の弱点の一つが術の解けやすさである。
術に掛かった者、もしくは掛けた者を気絶させることで術は解ける。もちろんそれは重ね掛けした指の数や、術者との距離によって差異が生じる。
ゼロの掌握はフェンリーのように簡単に解けはしない。
レイアたちが出発の準備をしていると、ゼロがゆっくりと目を開けた。
「ここは……」
「目が覚めたのですか!」
レイアが真っ先にゼロのもとに向かう。
「貴様は誰だ……」
ゼロの掌握は解けてはいなかった。それどころかリンだった頃より狂暴性は増し、レイアに向けて殺意を抱いていた。




