episode 64 「かりそめ」
ワルターは悩んでいた。
(んーこのままフェンリーを生かしておくのは危険かな? 彼なら俺の素性も知っているだろうし、リースにばらされるのはなんとしても避けたいしな)
しかしフェンリーはケイトとリースに見張られており、迂闊に手をだすことができない。
(やっぱりあの時強行して殺ってしまうべきだったかな? しかしそれでは無関係のケイト君まで傷つけてしまっていたかもしれないしな)
そんなワルターの悩みをさらに加速させるようにフェンリーがゆっくりと目を覚ます。
「ん? ここはどこだ」
どうやら掌握は解けたようで、自我を取り戻した様子のフェンリー。
「目が覚めたのですね! お体の具合はどうですか?」
「ん、レイアか。なんか頭がボーとするぜ。それとなぜか後頭部が異常にいてぇ。てっフライパンついてやがる!」
フェンリーは頭に付きっぱなしになっていたフライパンをはがす。にやにやするケイト。それを察してかケイトを睨み付けるフェンリー。
「お前か?」
飛びかかろうとするフェンリーを必死に押さえるリース。
「離せ! このくそがきにお仕置きしてやる!」
「やめてください! ケイトは私たちを助けてくれたんです!」
「……どういうことだ」
今までの経緯を話すリース。
「そうか、また俺はお前たちに危害を加えてしまったのか。すまなかったなみんな。ケイト、恩に着る」
「まったく、手間がかかる」
フェンリーは気まずそうなワルターの方を向く。
「ワルター、ちょっと面かしな」
有無を言わせないフェンリーの表情に仕方なく従うワルター。困惑するレイアたちを家に残して二人は裏の森へと入っていく。
「なんだい? フェンリー。俺に言いたいことでも?」
飄々としているワルターの胸ぐらを掴むフェンリー。ワルターも負けじと剣を喉元に突き立てる。
「どうしたんだい? ほら、自慢の加護で俺を凍らせてみなよ。だけど全身が凍りつくまえに君が死ぬけどね」
「ここで何してやがる。その軍服、殺し屋が軍人の真似事か?」
「君こそ元海賊らしいじゃないか。殺し屋も辞めたそうだし、中途半端な男だねまったく」
両者の間にヒバナが散る。
「試してみるか?」
「お望みとあらば」
両者は相手を葬るための動作にはいる。フェンリーはワルター凍らせ、ワルターはそれを間一髪で避けて剣を投げつける。フェンリーが剣をかわす隙に懐に潜り込み、鋭い蹴りを浴びせる。
「ぐふ!」
「は! 既に君の動きは把握済みさ」
が、蹴りを加えたワルターの足にも異常が現れる。フェンリーの硬化された服を蹴ったせいで、骨にヒビが入ったのだ。
「どうした? もうたてねぇか?」
「冗談を言ってくれるな」
ワルターは剣を拾い、杖がわりにして立ち上がる。だが足音はおぼつかず、立っているのがやっとという状態だ。
「今すぐ俺たちの前から消えろ。ゼロにも、レイアにも手は出させねぇ。」
「それは困るな。俺はどうしてもゼロと戦いたいんだよ。あのアーノルトと双璧を成すと言われているゼロとね」
それを聞いて思わず吹き出すフェンリー。
「おいおい、まさかお前もアーノルトにやられた節か?よくお互い生きていたもんだな。」
「なに?それじゃあ君も。」
フェンリーは自分の目的をワルターに話す。
「そうかい、それは気の毒だったね。俺も以前たくさんの家族を失ったから気持ちはわかるよ」
「お前に同情されたくはないけどな」
ワルターは何か思い付いたように手を叩く。
「手を組まないか?」
「は? 何言ってやがる」
「正直俺はゼロと戦いたい。だけどね、アーノルトとはもっと戦いたい。一泡ふかせてやりたいんだよ。」
「だから手を組むと?」
「ああ、そうさ。このまま待っていればイシュタル元帥殿と戦えるかもしれないけど、たぶんまだ勝てない。まだ戦い足りないから死にたくはないんだ。幸い俺の存在はまだ元帥殿にばれてはいない。どうだい?役に立ちそうじゃないかな?」
考えるフェンリー。そして自分の計画を安易にばらしてしまったことを後悔する。どっち道殺すか引き込むかしか道はない。
「仲間にする訳じゃない。わかってるな」
「ああ、もちろんだとも。用が済めばすぐにでも裏切るさ」
二人はかりそめの握手を交わす。




