episode 63 「会心の一撃」
フェンリーの氷剣が容赦なくワルターを襲う。辛うじてそれを回避するワルター。氷剣は空を切り、地面に突き刺さる。すると刺さった先から冷気が発せられ、地面が凍り出す。その剣は触れた物を凍らせる正に一撃必殺の剣だった。
「はは。手どころの話では無いのかい。まったく君強すぎない?」
焦りが見え始めるワルター。こちらは相手を傷つけることが許されず、相手はこちらを殺す気で襲い来る。ただでさえ辛い状況の上、平等の条件でも勝てるか怪しい相手。
何とかフェンリーの自由を奪おうと考えるワルターだったが、物騒な考えしか思いつかない。
(うーん。殺すのが一番だと思うけどな。でもこの人強いし勝てるかな。それにそんなことをしたら確実にリースに嫌われてしまうだろうし。困ったねどうも。)
そんなワルターの心境を察してか、リースが剣を持って近づいてくる。
「リース!危ないから下がっているんだ。冷凍保存されたくは無いだろう?」
「兄さん。これを。」
リースはワルターに剣を渡す。
「いいのかい?俺は彼の知り合いでもないし、いい印象も持っていない。勢いあまって殺してしまうかもしれないよ。」
「私は兄さんを信じてる。兄さんならきっとうまくやってくれるって。」
剣を受け取るワルター。
「もちろんだ。兄さんに任せておきたまえ。」
ワルターが剣を手にしたことにより、戦局は一気に拮抗しだした。素早い動きでフェンリーを翻弄し、少しずつ足にダメージを与えていく。
「ハハ。どうだい俺の剣技は。避けられないだろう、目にも止まらないだろう。さあさあその自慢の氷で何とかしてみてくれよ。時でも凍らせてみてくれよ。」
上機嫌のワルター。その様子を見て少し怯えるレイア。
「ワルターさん、何かおかしくないでしょうか?その・・・少し怖いというか。」
「剣を握ると兄はいつもあんな感じです。」
リースはやれやれという感じでワルターを見つめる。
フェンリーを徐々に追い詰めるワルター。するとフェンリーは地面に手をあて、自分の周辺を凍結させる。ワルターもそれに巻き込まれ、身動きを封じられる。
「な、しまった!」
身構えるワルター。だがフェンリーはワルターから視線をそらし、レイアとリースに向かって突進する。
「⁉」
「レイアさん下がって!」
レイアを自分の後ろに隠し、剣を構えるリース。その手は恐怖と緊張で震えている。
ゾっ!
どこからか強烈な殺気が発せられる。なぜかリースは全く感じていないようで、フェンリーの攻撃に備えている。
「いい加減に、しろ!」
ケイトはリースの家から持ち出したフライパンで、フェンリーの後頭部を強打する。フライパンは瞬時に凍り付いてしまってが、その衝撃によってフェンリーは気を失う。
ホッとするリースとレイア。
(今の殺気はケイトちゃん?それとも・・・)
いつの間にかワルターは氷を脱し、レイアたちのすぐ近くまで来ていた。
「いやぁ。お手柄だよケイト君。さすが妹が選んだ友なだけはあるね。」
「あ、うん。」
ワルターの表情は落ち着いていたが、なぜかその顔を直視できないレイア。
(先ほどのはいったい・・・)
ケイトは肌に触れないように気を付けながらフェンリーを縛り上げる。レイアはワルターに疑問を抱き始めていた。
(あの殺気はまるで殺し屋さんたちのようでした。あれがワルターさんから発せられたものだとするなら、ワルターさんはいったい・・・)
「ん?どうしたんだいレイア君。俺に何か用かな?」
レイアの視線を感じてワルターが声をかけてくる。
「い、いえ。先ほどはありがとうございました。ワルターさんが来てくれなければどうなっていたか。」
「はは。構わないよ。間に合ってよかった。」
ワルターに特に変わった様子はない。
(わたくしの考えすぎでしょうか。)
ワルターはリースに臭うと指摘され、体を洗うために川に来ていた。
「ふう。さっきは危なかったな。ケイト君の活躍がなければリースに見られたくない一面を見せてしまうところだった。」
川で体を洗っていると後方からガラの悪い男たちが騒ぎながらやってきた。
「お、こんなところで何やってんだニイちゃん。」
「なんだい君たちは。」
男たちは刃物をちらつかせ、ワルターを脅しにかかる。
「ワリィけどよ、少しばかり小遣いくれねぇかな?子分たちがおなかをすかせちまってよう。」
男たちはげらげらと笑っている。ワルターは小さくため息をつき、有り金を差し出す。
「ほら、持っていくといい。」
「お、物分かりがいいな。出世するぜぇ。」
男たちは金をぶん取り、その場を去ろうとする。
「待ってくれないか。」
「あ?今更返せったってそうはいかねぇぞ。」
村がある方向に歩き出す男たちを呼び止めるワルター。
「そうじゃないさ。いったいどこへ向かっているんだい?」
「ああ。地図によるとこの先には村があるそうじゃねぇか。だから襲ってやろうと思ってよ。」
その言葉を聞くや否や男に剣を突き立てるワルター。
「はい?」
「ハハ。感謝するよ。おかげで殺しの口実ができた。」
ワルターは男たちを皆殺しにし、川へと投げ捨てる。そして何食わぬ顔でリース達のもとへと帰っていった。
「ふう。さっぱりした。」




