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スティールスマイル  作者: ガブ
第六章 神々との戦い
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last episode

(く……)



目にも止まらぬスピードで何かが動いている。それは地面だけに止まらず、ついには木々の上にまで到達し、更にその速度をあげていく。


(何故だ、奴め……俺に嘘の情報を!)


ゼロ。かつて最強の殺し屋と呼ばれたその男は全速力である場所へと向かっていた。


高速で触れあう木々によって、彼の衣服は切り刻まれていく。最愛の妻にプレゼントされた大切な服だったが、今の彼にそれを気にする余裕は無い。


(もし、間に合わなかったその時は……)


魔女を封印し、平和が訪れたこの世界において必要の無かったものがゼロの体の奥底から呼び覚まされる。



大幅に道をショートカットし、目的の場所へと辿り着くゼロ。その衣服と形相に対して畏怖する通行人を退けながらその建物へと押し入る。そこには見慣れた顔が複数あった。



「よう、ゼロ! って何だその格好。まるで昔のケイトみてぇだな……おぐっ!」



タバコが吸えないせいか、少しそわそわした様子のフェンリーがあられもない姿になってしまったゼロを発見して声をかける。



「あんなにボロボロじゃない!!」



すっかり年頃の格好をしたケイトがその横でフェンリーのスネに蹴りをいれる。


そんな二人のじゃれあいをスルーし、受付へと直撃するゼロ。



「どこだ!?」

「ひぃ!!」



鬼の形相のボロボロ男に突撃された女性は、思わず通報用の端末に手を掛ける。今にも泣き出してしまいそうだ。


「バカ! 殺意なんかだしてんじゃねぇーよ!」


完全に頭に血が昇っているゼロの頭を、加護の力で凍らせた拳で殴り付けるフェンリー。


「貴様……」


頭から血を流しながらフェンリーをギロリと睨み付けるゼロ。今にも戦いに発展しそうな勢いだが、押し出されたフェンリーの腕時計が目に入ると、殺意は引っ込んでいく。



「悪かった。どこだ?」

「お、おう。俺たちも今から行こうと思ってたんだ」



もう少し手荒な真似をしなくてはと考えていたフェンリーは少し拍子抜けしながらゼロを案内する、最愛の女性と新たな命が生まれる場所へ。





ゼロがそこへ飛び込んだと同時だった。甲高い声が響く。自分はそこに居るんだぞと、この世界に主張している。


「あ……」


ゼロは一気に力が抜け、その場へとへたり込んでしまった。


「おいおい、しっかりしろよ」

「ぱぱ」


フェンリーとケイトがゼロの腕を持って立ち上がらせる。しかし、ゼロは脱力したままだ。



「ずっと考えていた。これまで奪い続けていた俺が、いいのかと。許されないことなのではないのかと」



新たな命を目の前にし、一気に罪悪感が押し寄せていく。


「許されるわけねぇだろ」


うなだれるゼロの背中を叩きながら告げるフェンリー。



「お前のやったことはきえねぇ。だけどな、あいつの父親はお前なんだ。許される許されないの問題じゃねぇ。行けよ、守りたいんだろ?」



押し出されたゼロは、かつての戦友の言葉に背中で返事をする。今、振り返るわけにはいかない。



一歩、また一歩進むゼロ。その歩み一つ一つに重圧がかかる。だが、歩みを止めることはない。道しるべもそこにある。



「ゼロさん……来てくれたんですね」



満身創痍だが、やりきった表情のレイアが生まれたばかりの命を抱えながら、最愛の夫に声をかける。その顔と言葉に触れるや否や、抑えていたものが飛び出すゼロ。



「ありがとう! ありがとう! ありがとう!」

「ゼ、ゼロさん?」



涙と言葉を全て吐き出すゼロ。レイアは初め戸惑いを見せるも、ゼロの全てを優しく包み込む。


「赤ちゃんが二人」

「ちげぇねぇ」


ケイトとフェンリーが笑い合う。



「おぎゃああ!!」


生まれたての命が、父からレイアを取り戻そうと必死に叫ぶ。


「ああ、すまない」


ゼロはレイアから半分手を離し、その分赤ん坊を抱きしめる。


「お前もありがとう。生まれてきてくれて」


ゼロの優しい言葉を聞くと、赤ん坊はすっかりおとなしくなる。




「ゼロさん、頑張りましょうね?」

「ああ」


二人は改めて愛を誓い合う。思わず目を反らすフェンリーとケイトのことなど一切気にせずに。





ゼロとレイア、二人の物語は幕を閉じた。そう、これからは彼ら三人の物語が始まるのだ。








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