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スティールスマイル  作者: ガブ
第六章 神々との戦い
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番外編 「とある島での殺し合い part3」

ジャックの体力は大幅に削られていた。ただでさえ範囲外に居たせいて必要以上にダメージを受けていたおかげで、ゼロとの激戦の前に体力は底を尽きそうになっていた。一応回復用のアイテムは複数所持しているが、相手がゼロでは使用する暇などないだろう。


しかし、条件はゼロも同じである。加えてゼロにはこの殺し合いにおいての知識が無く、回復という概念すらない。致命傷は死に直結する、それがゼロの中の常識だ。




(さて、このまま様子を伺うのも悪くねぇが、気ぃ抜けばそこでゲームオーバだ)


ジャックは岩影に身を潜め、全神経をゼロに向けながら銃の引き金に手をかけ続ける。冷や汗が頬を伝わり、地面へと落ちる。その僅かな音でさえゼロに届くのではないかと考えると、冷や汗は後から後から流れ落ちてくる。



(ジャックの居場所はおそらくあの岩影だ。だが、もし予想が外れていたら……)


ゼロは正確にジャックの居場所を突き止めていた。が、踏み込むことは出来ない。仮に居場所を間違えていた場合、標的にされるのは自らの方だからだ。素人相手なら後出しでも充分に対処できるが、相手がジャックでは希望すらもてない。



先に動いた方が負ける。そんな予感が二人の頭に浮かぶ。だが、時間はそう残されていない。もうすぐ近くまで死の境界線が迫っている。



生き抜く。生きて二人の待つあの場所へと戻る。それがゼロの唯一であり、最大の望みだった。そのためならば例えジャックが相手でも負けるわけにはいかなかった。


ゼロは銃を握りしめる。そして空に向かって弾を一発発射する。



「なっ! 閃光弾だと!?」


発射された弾の行方に眼を奪われるジャック。飛び出した弾は通常の弾ではなく、赤い光を放っていた。


使い道を知ってから知らずか、ゼロはそれを選択した。ほどなくして輸送機が一台の鉄の塊を運んでくる。しかし、既にゼロの体は安全地帯の外へと飛び出していた。



(ちっ! 今あんなもん持ち出されちゃ勝ち目がねぇ!)



ジャックは、運ばれてきたマシンにゼロが乗り込む前に勝負を着けるつもりだ。輸送機から落とされたそれは完全な装甲を施されており、それにゼロが乗り込めばジャックに破壊する手だては無い。その前にゼロを撃ち殺すため、身を乗り出そうとするジャック。しかし、そこで別の考えがジャックの頭を過る。



(まてよ、アレが降ってきたってことはアイツは範囲外に居たってことだ。当然落下地点も範囲外のはず……そんなん乗りにいく余裕なんてねぇ。ならアイツの目的は飛び出してきた俺を返り討ちにすること……)



ジャックは再び身を隠……しはしなかった。あえてそのまま飛び出し、銃を構える。



「来いやゼロ!」



大声をだし、ゼロに居場所を知らせるジャック。もっともこの距離では声を出さずとも動作だけで充分にゼロに伝わる。


「やはり来たか」


ゼロはジャックの予想通り装甲車へとは向かっていなかった。両手にリボルバーを持ち、ジャックへと銃口を向けている。



ドドドドド。


銃口から放たれた弾は正確にジャックへと命中していく。しかしジャックは倒れること無く、ゼロに向かってくる。



「こちとら両方レベル3だ! そんな攻撃屁でもねぇ!」

「そうか、ならこれでどうだ?」



叫ぶジャックに対して、背中に隠していたフライパンを振り下ろすゼロ。


「ガッ!」


鈍い音を立てて倒れるジャック。


「なぜこんなものが落ちていたかは知らんが、威力は充分のようだな」


フライパンを投げ捨て、再びリボルバーを構えるゼロ。倒れたジャックの眉間に銃口を当てる。



「どうやらここでは殺しても死なないらしい。ならば心置きなく殺させてもらおう、去らばだ」


ジャックを睨み付け、引き金を引こうとするゼロ。そのゼロに対して不適な笑みを浮かべるジャック。


「……何がおかしい」

「へへ、いやな、自分が情けなくてよ。こんな方法で勝っちまう事がな!!」



ジャックは何かの栓を抜く。それが手榴弾だと気がついた時にはもう遅かった。



「な! 自爆する気か!?」

「いいや、生憎俺は死なねぇ! この体力なら生き残れるはずだ。だがお前は耐えられねぇ!!」



大爆発が巻き起こり、ゼロとジャックに激しい衝撃が走る。ゼロの銃は彼の指ごと吹き飛ばされ、ジャックの装備も粉々に弾け飛ぶ。


「く……そ……」


ゼロの意識が途切れる。最後に伸ばした手のひらは、何もとらえること無く空をさ迷う。




バチン!!


次の瞬間、激しい痛みがゼロの頬を貫く。思わず目を開けるゼロ。その目に映ったのは、顔を真っ赤に腫らしたレイアだった。



「ゼロさん!」



ゼロが目を覚ましたのを確認し、彼の頬に振り下ろされたであろう手のひらを背中へと隠すレイア。目尻にたまった涙を撒き散らしながらゼロの懐へと顔を埋まらせる。



「もう! 急に倒れたと思ったら目を覚まさないんですから!! 本当に心配したんですよ!!」



怒りと悲しみと安堵が入り交じった声でゼロに叫びかけるレイア。ゼロはあの島での出来事が全て幻想だったことを確認し、胸を撫で下ろす。



「そうか……」

「そうかじゃないですよ!! わたくし、本当に……!」



なおも騒ぐレイアの口を無理やり塞ぐゼロ。レイアは一瞬で騒ぐのをやめ、一時の幸せを噛みしめる。



「済まなかった」

「はい……」



すっかりおとなしくなったレイアに背を向けるゼロ。



(いくら幻想とはいえ、俺が敗れたのは事実……)



ゼロはあの島での最後の記憶を思い出す。あと一歩のところでジャックに敗れたあの苦い記憶を。



(俺は守らなければならない。レイアを、そして……)



振り返り、レイアの膨らんだお腹に目を向けるゼロ。もう何週間もしない内に、ゼロの守るものは二つに増える。



「レイア、俺はもっと強くなる。お前たちを悲しませないために」



「たち」という部分を強調するゼロ。それを聞いたレイアには笑顔が溢れる。



「はい! 勿論わたくしも強くなります!」



ゼロとレイアは互いの大切なもののため、強くなることを誓った。






その頃……




「んにゃ」


ジャックが重たいまぶたを擦りながら目を覚ました。


「なによ、情けない声出して」


家事をこなすクイーンが、旦那の寝ぼけ顔に反応する。



「ふ、聞いて驚け。俺は今、ゼロに勝利したのだ!!」


鮮明に残る記憶に酔いしれながら、クイーンに自慢するジャック。



「あっそ。じゃあ洗濯物とってきて」

「あ、はい」



完全に尻にしかれているジャックは、自分の話を簡単に聞き流される。そんな二人の様子を眺めながら、サンはにっこりと笑顔を浮かべた。この幸せが永遠に続くように祈りを込めて。





今回でこのシリーズもおしまいです。また会う日まで、皆様お元気で。

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