episode 62 「W対F」
慌ててレイアとケイトも外に飛び出すが、既に戦闘を回避することは不可能だった。
「フェンリーさん!どうしてしまったのですか!」
「このアホ!」
フェンリーは二人の言葉に耳を貸す様子もなく、ワルターに向かって腕を伸ばす。
「レイア君、君は妹を連れて家の中に戻っていたまえ。ケイト君、君もだ。」
「ワルターさん!その方は知り合いなのです、」
「何だって?」
レイアの言葉を聞いてフェンリーに向けた剣を引くワルター。
「だがしかし、彼は我々に敵対しているようだが?」
「きっと元帥殿です。元帥殿が何かしたに違いないです。」
目を覚ましたリースが答える。
「ハ!リン君が居なくなったからって、もう新しい弟子を雇ったのかい。全く、俺の番はいつになるのか。君を倒したらなれるのかな?」
ワルターは剣をリースに預ける。
「に、兄さん?」
「持っていてくれリース。そして下がっているんだ。この男、なかなかやりそうだからね。」
拳を構えるワルター。
「君は全く俺と会話をしてくれないね。ならもういいよ。拳で語ろう。」
ワルターは鋭い突きを放つ。それは見事突進してくるフェンリーに命中するが、顔面に触れたとたんに拳が凍りはじめる。
「うわぉ!なんだい!手以外からも力を使えるのかい!シオン以上じゃないか!」
ワルターは六将軍少佐、シオン・ナルスと手合わせしたときの事を思い出す。
「肉弾戦は圧倒的にこちらの不利か、ズルいねまったく。」
狙いを肌が露出していない服に絞るワルター。蹴りを繰り出すが、フェンリーの服は瞬時に凍り、分厚い壁を作る。
「いたたた。防御も硬いね。やっぱり剣使っちゃダメかい?」
リースの方を振り向くワルター。リースは心配そうにこちらを見るだけで、何も答えない。
(・・・まさかリースもこの男に惚れているのわけではないよね?)
フェンリーの手は容赦なくワルターを襲う。
(実際とてもヤバイ。俺の攻撃は決定打にならず、彼の攻撃が当たれば負けは濃厚。どうしたものか。)
ワルターはフェンリーに向かって語り始める。
「フェンリー、君はそれでいいのかい?元帥の言われるままに動き、かつての友に牙を向く。男としてそれはどうかな?」
フェンリーは黙ったまま落ち葉を集めている。
「ん?なんだい?村の掃除でもしてくれるのかい?」
フェンリーは集めた落ち葉を棒状に一列に並べ、手でなぞる。するとそれは剣の形をなす。
「はぁ。せめて拳で語らないかい?」
リザベルトはセルフィシー王国王子、クレアをつけていた。
(しかし、にわかには信じられない。あの温室育ちの小僧がセルク兄妹を打ち破ったというのは。)
ゼクスはセルフィシー侵攻の際、至るところに部下を派遣していた。たまたま王都を離れていた王子を襲ったのがそのセルク兄妹だった。
兄ベルク・セルク曹長は二メートルは在ろうかという巨漢だ。そのベルクは再起不能になり、妹シャム・セルクも心に深く傷を負わされた。
(しかし、ゼクスは何を考えているんだ。そんな危険人物を私一人で監視するなど。ヤツのことだ、決して私の実力を見込んでの事ではない。)
リザベルトはローズの任務を放棄し、連絡もしていないことが非常に気がかりだった。
(申し訳ありません姉上。レイア、どうか無事でいてくれ。)
そのレイアがまさか元帥相手に戦いを挑んでいることなど想像すらしていないリザベルトは、目の前の危険人物の監視を続ける。




