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スティールスマイル  作者: ガブ
第六章 神々との戦い
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番外編 「とある島での殺し合い part1」

(何だ……ここは)




ゼロは見知らぬ空間に閉じ込められていた。ゼロだけではない、他にも数十人この空間に閉じ込められている。揺れと音からして何らかの乗り物の中らしい。



(何者かの加護か? 忌々しい……)


ゼロは苛立ちが隠せなかった。レイアの出産予定が近づいており、既にまともな精神状態では無かった。殺しはしないと誓ったが、今ならその誓いを破ってしまいそうなほどだ。



(とにかく、状況を把握しなければ)



そう考えていた矢先だった。突如空間に光が差し込む。どうやら扉が開いたらしい。警戒しながら扉へと向かうゼロだったが、そこから見えた景色に思わず言葉を失う。






「な……!」






ゼロたちが居たのは空の上だった。乗り物は空を飛んでいたのだ。建物や木々がとても小さく見える。ここから落ちたら間違いなく死ぬだろう。


(メディアの住処、いやそれ以上の高さだ。一体何のために……)


ゼロが考え込んでいると、一人、また一人とその扉から人々が飛び降りていく。それを冷たい目で見下ろすゼロ。


(錯乱したか、無理もない)


が、次の瞬間、ゼロはまたしても目を疑う。飛び降りた人々は背中に装備した何かから何かを放つ。すると人々の落下速度は急激に低下し、ゆっくりと地面に向かって降りていく。


背中を触るゼロ。いつの間にかそこには他の人々と同じような装備が施されていた。ゼロは息を飲み、決意する。



(やるしかない)



他の人間たちに続いて外へと身を投げ出すゼロ。死の予感を体全体に感じながら背中の紐へと手を伸ばす。


もしこれが他の人間たちと違うものだったら? 何か特殊な使い方が存在したら? この道具がうまく作動しなかったら? 考えれば考えるほど不安は溢れてくる。それでもやるしかない。レイアと生まれてくる子供のためにも、ここで死ぬわけにはいかない。



紐を引く。するとゼロの体は落下することを止め、他の人間たちと同じように降下していく。



(よし……)



最大の問題を解決したゼロだったが、問題は次から次へと押し寄せてくる。





ダダダダダダダドドドドドドド!!





聞きなれた音がゼロの耳へと届く。ゼロがそれを聞き間違える筈もない。それは紛れもなく……




(銃声!!)




のどかな風景には決して似合わない死を運ぶ音。しかしそれはこの不可思議な空間に確かに存在していた。


地面へと降り、すぐさま物陰に隠れるゼロ。魔女を滅し、平和が訪れた今では当然銃など持ち歩いていない。そもそも最初の乗り物の中に武器を持った人物の気配は無かった。



(原住民か? しかしこの数は……)



一人や二人の戦闘音ではない。まるで戦争だ。



人々の殺気を関知し、気配を消すことで戦禍を逃れるゼロ。朽ち果てた廃墟のような住居にひとまず身を潜める。そこでゼロはさらに異変に気がつく。





(なるほどな。この状況を用意し、楽しもうとしているヤツが居る)




ゼロは足元に転がっていたリボルバーを手にする。廃墟の中には何故か大量に武器や防具が散乱していた。



(素人を拉致し、武器を配給し、殺し合わせる。どこかで見たやり口だ。気に食わん)



ゼロは初めて人を殺した日の事を思い出していた。あの時と今、どことなく状況が似ている。




(組織の生き残りが居るのだとすれば、それは俺やレイアの驚異となり得る。ここで潰しておかなければな)



ゼロは銃に弾を込め、ホルダーにセットする。他にも殺傷能力の高そうな武器はいくつか有ったが、それらには手をつけない。他の武器が扱えないわけではないが、使い慣れたリボルバーが一番勝率があると信じていた。



臨戦態勢に入ると、またしても銃声が聞こえてくる。


(近いな。よし)



ゼロは気配を殺しながらゆっくりと近づいていく。そしていくらもしないうちに二人の人物を視界に捉える。


(両者共に素人丸出しだな。そもそも正面から撃ち合うなど愚の骨頂。しかし……)


足の運び、気配、警戒、どれをとってもゼロから見たら赤子同然だ。しかし銃の扱いだけはゼロにも引けをとらなかった。


(並大抵の訓練ではあそこまでは到達できない。リロードも流れるようにスムーズだ)


二人の戦いに目を奪われるゼロ。そして終わりは唐突に訪れる。一方の弾がもう一方の頭に命中する。撃たれた方はヘルメットをしていたが、弾はそれを貫通して脳まで到達する。



(決まりだな)



ここでの戦いを目に焼き付け、この場を去ろうとするゼロ。しかし、撃たれた男が突如跡形もなく消えてしまったことで、ゼロはこの場から動けなくなる。


「な……!」


男の死体は木の箱に変化し、男を撃ち殺した男はその木の箱を躊躇無く開ける。その箱には撃ち殺された男の装備が入っており、戦いに勝った男はそれを漁ってその場を後にした。



(どうやらここは現実では無いらしい。イシュタルの清新世界に近いだろう)



事の重大さに気がついたゼロが腰を上げようとすると、先ほど勝利した男が目の前で撃ち殺された。



「な!!」



すぐさま身を潜めるゼロ。




(スナイパーか!! 気配が全く感じられなかった。一体どこから撃ってきている!?)



男は一撃で脳天を撃ち抜かれており、先ほど男のように今では木の箱に変わってしまっている。



(間違いなく居る。俺と同等、いやそれ以上の使い手が)




ゼロはまだ見ぬ暗殺者に身を震わせる。だがそれは恐怖から来るものではない。久しく忘れていた感覚がゼロの神経を激しく駆け巡る。



「来い。勝つのは俺だ」



ゼロは静かに高揚した。




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