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スティールスマイル  作者: ガブ
第六章 神々との戦い
617/621

episode 600 「笑顔」

魔女との激闘から一年が経過した。



フェンリーとケイトは花束を手に一軒の家を訪れていた。二人とも緊張と喜びで手が震えている。


「なぁ、変なとこ無いか?」


フェンリーは普段着ないフォーマルな服装に不安なようだ。


「大丈夫。むしろ心配なのはわたし」


ケイトもつぎはぎの服を脱ぎ捨て、かわいらしい格好をしている。そんな格好をしたことなどもちろん無いので、念入りに全身をチェックしている。



「よ、よし。開けるぜ」




フェンリーが扉をノックする。すると中からは元気のいい返事と共にレイアが姿を現した。何だか少しお腹がふくれているようだ。



「皆さん! 来てくれたのですね!」



さらに明るい声で喜ぶレイア。



「ゼロさん! ケイトちゃんとフェンリーさんが!」



家の中に叫びかけるレイア。すると奥からいつものムスッとした表情のゼロが現れた。



「よ! 相変わらずだな」



二人は熱く握手を交わす。




「ワルターは見つかったのか?」


ゼロがフェンリーに問いかける。ワルターはあの戦いから目覚めた後、戦いが終わっていた事を知ると何処かへと消えていった。リースを含めた数人で探索にあたったのだが、結局見つからなかったのだ。



「ああ、あいつか。見つかったは見つかったんだけどよ」


フェンリーはゼロに事情を話す。








「了解。引き続き警戒せよ」


薄暗いジャングルの中、男が小型の端末に話しかける。髪型が少し変化したようだが、その男はアーノルトだった。


「兄上、追い詰めました!」


アーノルトの持つ端末からするのはマークの声だ。しばらく戦闘音が続いたあと、今度は別の人物の声が流れてくる。


「アーノルト! こちらは処理した」

「了解」



聞こえてきたガイアの声に応えるアーノルト。もう一人の報告を待つ。すると背後から近づく音が。


警戒するアーノルト。いつでも迎え撃つ準備ができている。




「やぁ!」



近づいてきたのはワルターだった。両手には抱えきれないほど魔獣の死体を抱えている。


「……なぜ報告をしない」


アーノルトは握りしめたクナイをしまいながら尋ねる。


「ごめんよ、どうも機械は苦手だよ」


ワルターはポケットから粉々になってしまった端末をアーノルトに見せる。


「……」


アーノルトは頭を抱えながらガイアとマークの到着を待つ。








「そうか、アーノルトの元で働いているのか」


ゼロが少し驚いた口調で頷く。


アーノルトはあの後、残された魔獣たちの駆除を生業としていた。ガイアやマークら軍人も民間人を救うためと協力していた。リラやパーシアスも度々手伝ってはいるようだが、なかなか魔獣の数が減らずに苦戦しているようだ。



ジャックはクイーンと結婚した。そしてクイーンの弟であるサンを引き取り、三人で仲良く暮らしているそうだ。



セシルはオイゲンを探すために旅立った。そのボディーガードとしてシオンも同行している。



ローズとリザベルトはジャンヌの遺体を回収し、屋敷のすぐ近くに埋葬した。そして帝国の復興のため、日々勤しんでいる。





「じゃ、そろそろ行こうぜ」


フェンリーが二人を連れ出す。


「レイア、あしもと気を付けて」

「ありがとう、ケイトちゃん」


ケイトはレイアの体を気遣い、手を貸す。レイアのもう片方の手は勿論ゼロが握っている。




四人が向かうのはレストランだ。レイアのおめでたを聞いた時から計画していた。



「お、ようやく来たか! ようこそリストランテレックスへ!」


レックスが似合わないコック帽を被りながら出迎える。あの後レックスは料理人を目指して修行した。そこで思わぬ才能が開花し、わずか一年で店を持てるほど成長したのだった。



「約束通り今日は貸しきりだ! 腹一杯食って元気な子を産めよ!」


ゼロとレイアに手を乗せるレックス。



「ありがとうございます!」


笑顔を溢れさせながらお礼を言うレイア。


「感謝する……が、貸しきりではなかったのか?」



ゼロが、大きなテーブルで大きな音を立てている人物を指差しながら尋ねる。そこではたくさんの料理に囲まれながら嬉しそうに口に頬張っているロミーの姿があった。


「……しょうがねぇだろ。おごるって約束はあいつともしちまってんだから」


ゼロに耳打ちするレックス。






「あ、来た来た! こっちにおいでよ!」



ゼロたちに気がついたロミーが叫ぶ。ゼロたちは誰一人嫌がること無く、そのテーブルに向かう。








「あー楽しかったですね!」


レックスの店を後にし、フェンリーとケイトとも別れた帰り道、レイアはお腹をさすりながら思い出に浸る。



「結局ロミーさん一人でほとんど食材を食べてしまって、あのレックスさんの顔見ましたか? 凄くこまってらっしゃいましたね」


ニコニコと隣のゼロに話しかけるレイア。


「料理もとっても美味しかったですし……」



ゼロからの反応はない。確かにもともと無口な方ではあったが、こうも反応がないと不安になる。




「ゼロさん、もしかしてわたくしと居ても楽しくないですか?」


舞い上がっているのは自分だけなのかと思ってしまう。その不安を払拭するようにレイアに抱きつくゼロ。



「ぜ、ぜぜゼロさん!? こんな外で!!」



動揺が隠せない。




「レイア。俺はお前と共にいて、つまらなかったことなど一度もない。昔も、そして今も、お前が居てくれて本当に嬉しい」


ふくれるレイアのお腹と、レイアの頭を撫でながら告げるゼロ。恥ずかしくて顔から火が出そうだ。だがそれでもレイアは引き下がらずに前に出る。



「なら笑ってください」



その言葉にゼロの動きが止まる。これが初めてでは無かった。今まで何度もレイアからその言葉を聞いてきた。その度に笑顔に挑戦したのだが、一度も成功したことは無かった。


「どうせ不可能だ」


下を向くゼロ。



「じゃあ真似してください!」



レイアはゼロを下から覗きこみ、にっこりと笑う。本当にうらやましい。



顔をむずむずとさせるゼロ。レイアの期待に応えようと必死だ。しかし、うまくいかない。それでもレイアは少しも悲しそうな顔をしない。




「大丈夫! わたくしはいつまでもあなたのそばに居ます。この子と一緒にあなたを待ちます」


お腹を撫でながら再び笑うレイア。ゼロは心のそこから本当に嬉しかった。


掃き溜めのような生活から救いだしてくれた少女と、その少女との結晶。それがゼロにいきる力を与えてくれる。




その時だった。




ゼロの口もとがわずかに緩む。レイアはそれを見逃さなかった。そして今まで見せた中で最高の笑顔でこう問いかける。







「どうですか? 今の気分は」








ゼロは空を見上げ、こう答えた。









「ああ、悪くない」








そのとき見た綺麗な夕焼け空を、ゼロは一生忘れないだろう。






スティールスマイル 完



これにてスティールスマイルは完結です。


1年と8ヶ月、長いようで短かったですが、とても充実した時間でした。


ゼロたちの物語はここで終わりですが、また別の形で作品を発表できたらなと思っています。本当に今までありがとうございました。


感想などいただけましたら、嬉しいです。

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