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スティールスマイル  作者: ガブ
第六章 神々との戦い
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episode 599 「告白」

「はぁ、はぁ、こ、この先に魔女が」



ケイトはロープを握りしめる。ようやく戦場にたどり着いた。ここに到着するまでに相当な爆発音を聞いてきた。どれだけの戦いが繰り広げられているのか、想像もつかない。


果たしてこの手に握るロープでその戦いに割り込むことができるのか。いや、できない。そんなことは人に言われずとも自分自身でよくわかっている。


そもそもこんな世界において今まで生き残ることができた時点で奇跡なのだ。もう一度くらい奇跡が起きてもいいんじゃないだろうか。



「私はやる! ゼロを、レイアを! ついでにワルターを助ける!」



勇んで戦場に突っ込むケイト。血で血を洗う戦場。死の空気。もしかしたらここで死ぬかもしれない。しかし、ケイトがそこへ到着したときには既にその空気は消えていた。



「え?」



そこに居た全員が言い様の無い顔をしている。勝ったのか、負けたのか、その表情だけでは読み取れない。


キョロキョロと見渡すケイト。ゼロの姿を発見し、駆け寄ろうとするが、ケイトよりも早くレイアがゼロに飛び付く。





「ゼロさん!」






大粒の涙を撒き散らしながらゼロにしがみつくレイア。ゼロの体温を全身に感じながらさらに涙を流す。


「ゼロさん、ゼロさん、ゼロさん! もう、離れません! もうどこにも行かせません!」



泣きじゃくるレイアの頭にそっと手を乗せるゼロ。




「ならば、顔をあげてくれ。泣き顔ではなく、レイアの笑顔を俺に見せてくれ」


その優しい言葉を受けて、レイアは涙を拭く。そして顔を上げ、精一杯の笑顔をゼロに向ける。




「ゼロさん、大好きです!」

「ああ、俺もだ」




二人は再び抱き合った。






ケイトはそんな二人の様子を眺めながらとぼとぼとフェンリーの方へと歩いていく。



「よ、なんとか皆生き残ったな」

「うん」



フェンリーは、がしがしとケイトの頭を撫でまわす。いつもは嫌悪感すら抱くその行動が今は心地よかった。




魔女が完全に消え去ったことを確認したマークとガイア。このまま勝利に酔いしれたいところだがそうもいかない。残してきたシオンたちが心配で仕方がないとマークが主張するからだ。



「アーノルト。俺たちは一足早く行く。お前たちと神々、そしてマリンには礼の言葉も見つからない。だが言わせてもらう。ありがとう」


ガイアがアーノルト、ゼロ、フェンリー、神々、そして消えてしまったマリンに対して頭を下げる。隣で同じようにマークも感謝を形にして表す。



「気を付けてな。また今度飯でも食おうぜ」

「ああ、その時はご馳走させてもらおう」


フェンリーと握手するガイア。


アーノルトにも握手を求めると、応じはしてくれたもののその顔は暗い。原因は間違いなくマリンだ。



「マリンは俺たちの恩人だ。それだけは間違いない」




何も答えないアーノルトにそう言い残してガイアとマークは去っていった。




アーノルトの隣にアスラが寄ってくる。



「お前はこれからどうするつもりだ? お前には借りがある。その魔の力を悪用しないというならば俺たちはもう干渉しない。だが、その力で人間を苦しめるというならば、俺は今ここでお前を排除しなければならない」


アスラの言葉をじっと聞くアーノルト。



「安心しろ。そんな気分ではない。それに、マリンに救ってもらったこの命、無駄にする気はさらさら無い」



そう言い残してアーノルトもどこかへと消えていった。





「さ、じゃあアタシらもそろそろ帰るかね。しばらく休息が必要だぜ」


ルインがハデスに肩を貸してもらいながら立ち上がる。重荷が降りたようなとてもスッキリした顔をしている。



「そうだね。僕も少し眠るとするよ。あ、安心して。眠ってても重力はなんとかなるから」



ルイン、ハデス、ネスの姿が消えていく。自分たちの国へ帰ったようだ。



「さて、わらわはもう少し働くかの」


そう言って干からびたホルスを掴み上げるルナ。とても生きているようには見えないが、そこはさすがの神と言ったところか。



「ぶー。私も働かなきゃ。ここを何とかしないと崩壊しそうだしね」

「我も手伝おう」


文句を垂れながら周辺の大地の修復にあたるモルガナとミカエル。




一人残ったアスラが今度はゼロに近づいてくる。




「……いつまでそうしているんだ」



抱き合い続けるゼロとレイアを少し呆れた表情で見下ろしながら呟くアスラ。


「お前には関係ない」


ぎろりとアスラを睨み付けるゼロ。アスラは困った顔で頭を掻く。



「確かにそうだな」


立ち去ろうとするアスラ。すると今度はゼロがアスラを呼び止める。



「待て」

「ん?」



アスラが振り返ると、ゼロはレイアから手を離して頭を下げていた。



「俺は神など信じていなかった。当然祈ったこともない。だが、今は感謝している。ありがとう」



ゼロの心からの言葉だった。アスラはいろいろと言いたいことがあったが、その言葉だけで満足だった。また何千年でも人間たちのために生きようと決心した。




アスラ、モルガナ、ミカエルが去り、残ったのはいつもの五人だった。ワルターはまだ目を覚まさないが。




改めてレイアを見るゼロ。初めてあったその日から変わらない笑顔がそこにはあった。



「レイア」



頭で考えるよりも先に口が動く。



「なんでしょう?」



レイアが緊張しながら聞く。ゼロの表情がいつもと少し違うからだ。



「この世界に平和が戻ったら言おうと思っていたことがある」


ゼロの表情が固くなる。見たことの無いその顔にレイアの緊張はピークを迎える。





「俺と、結婚してくれないか?」






レイアは返事ができなかった。泣き顔はもう見せたくなかったが、あふれでる涙を止めることができなかった。




スティールスマイルは次回で最終回となります。皆様、長い間ありがとうございました。

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