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スティールスマイル  作者: ガブ
第六章 神々との戦い
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episode 598 「母と娘」

魔女は暖かい何かに包まれる感覚に陥る。体に命が戻ってくる。




「マリンを止めろ! 裏切り、もしくは色欲の力によって支配されている!!」



必死に声を張り上げ、マリンを止めようとするアスラ。最後の力を振り絞り、全力でマリンを攻撃するもその拳は怠惰の力によって遮られる。


「はぁぁあ!!」


ガイアがアスラの横からマリンに向かって斬りかかるが、いかに加護を断ち切る剣といえどもマリンの力は打ち消すことができない。


「くっ、その剣はあくまでも我々の力を無効化する剣だ。上位互換である魔族の力には効果が薄い」


アスラが悔しそうに告げる。




「マリン! 信じてたのに!」





容赦ないモルガナの魔術がマリンに降り注ぐ。だが、どんな強力な魔術といえどマリンの前では無力だ。


「やだ、やだ! ここまで来たのに!!」



目尻に涙を浮かべながら叫ぶモルガナ。マリンの力が魔女に吸収されてしまえばどうなるかは明白だ。今度こそ、本当に手がつけられなくなってしまう。




そんな絶望的な状況の中、アーノルトだけが動かずにマリンの動向を見つめていた。




「アーノルト、マリンは何をしている?」


その様子に気がついたゼロがアーノルトに尋ねるが、アーノルトは首を横に振る。


「わからん。だが俺はマリンを信じる」


アーノルトにマリンが裏切っていないという確信は無かった。だが、万が一マリンが裏切っていたとしてもそれについて行くと決めていた。



「そうか」



ゼロはマリンに対する攻撃を中止する。ゼロにはアーノルトの気持ちが痛いほどわかるからだ。もし、自分とアーノルト、そしてマリンとレイアの立場が逆だったら自分もきっとそうしただろうと確信できるからだ。




神々の攻撃が続く中、マリンは魔女に手を乗せ続ける。魔女はそこからぐんぐんとエネルギーを吸い取っている。枯れ葉のような肌にも生気が戻り、遂には立ち上がることに成功する。



「クハハハ」



小さく笑う魔女。



「クハハハ!」



笑い声は次第に大きくなっていく。それと比例してアスラたちの絶望も増幅していく。



「おしまいだ……何もかも」




攻撃をやめ、地面に伏す神々。




「よくやった我が娘よ。やはりお前は魔族だ」


マリンの頭を撫でる魔族。体に漲る力に酔いしれている。マリンから目線を神々に移し、勝利に酔いしれる。



「膝ま付け! 下等生物どもよ! 今この瞬間から再びこの地は我ら魔の物だ! 貴様らに残された選択肢は命乞いしか無いと知れェェェ!!」



アスラたちに抵抗する力は残されていなかった。もう、死を待つ以外に道は無かった。




「母よ」

「ん? 何だ?」



マリンの声に振り向く魔女。そこで突如違和感に襲われる。



(な、なんだこれは)



目が見えない。耳も聞こえない。呼吸ができない。何も感じない。まるで宇宙空間に投げ出されたような感覚だ。





「もう聞こえてはいないだろうが、それが私の受けた苦痛だ」






マリンは再び魔女の頭上に手を当てている。怠惰の力を使い、魔女のすべてを怠惰させたのだ。



(く、くる……し)



やがて言い様の無い苦痛が魔女を襲う。もがき苦しみ、動かなくなる。が、次の瞬間、その驚異的な再生能力によって目を覚ます。




「マリン……貴様何をして……!!」



起きてすぐさまマリンに飛びかかろうとする魔女。しかしその手がマリンに触れるよりも早くまたあの絶望が始まる。



(ふざけるな……なんだこれは! なぜこのようなことが!!)


マリンは無表情で魔女を見つめている。様子がおかしいことに気がついた神々も魔女の動向を目に焼き付けている。



(ああ、またか……)



魔女は息絶える。







「もう、止めてくれ」



何度か目の蘇生で魔女が呟く。マリンに対して頭を下げ、許しを乞う。しかし、マリンは容赦しない。





「10年もすれば克服できるだろう」

「ま、待て!!」





魔女の叫びは受け入れられず、再び暗黒世界へと堕ちていく。




「マリン、なぜそのような事を……」


アスラが尋ねる。マリンはちらりとアスラを見て、再び魔女に視線を移す。




「母を殺すことは不可能だ。たとえ殺そうとも世界に憎悪が存在する限り、何度でも生まれ変わる。ならば封印するしかない」


神々の視線がマリンに集まっていく。



「しかしお前たちのちんけな封印ではまた何千年後かに解かれてしまうだろう。だが、私の怠惰の力は違う。封印とは少しかけ離れているが、母はここから抜け出せず、死に続けるだろう」



アーノルトがマリンに近づいていく。何か嫌な予感を感じ取ったのだろう。


「マリン、だがそれにはあなたが不可欠なはず。永遠に魔女と寄り添い続けるつもりなのか?」



アーノルトの言葉を受けてマリンが振り返る。マリンは笑みを浮かべていた。



「ああ、それが娘の責任だ」



マリンと魔女を黒い塊が覆っていく。




「おい待てよ! 何がなんだかわけわかんねぇ!」


ルインが声を上げる。




「心配するな。お前たちのもとに魔族が現れることは永遠に無い。迷惑をかけた」




段々とマリンの姿が見えなくなっていく。




「アーノルト」



僅かな隙間からマリンの声が聞こえてくる。




「私は2000年生きてきたが、お前と過ごした十数年、悪くなかったぞ」



その言葉を最後に、マリンの気配が消える。魔女とマリンを包み込んだ黒体もきれいさっぱり消えてなくなる。



「ああ、俺もだ」




そう答えたアーノルトの背中には言い表せない悲しみがあった。







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