episode 597 「決着」
氷で魔女の進撃を止めようとするフェンリーだったが、先程同様に消されるのがオチだ。無駄な被害が出る可能性もある。
「俺はサポートする! 存分にやっちまえ!」
ガイアとマークの背中を押すフェンリー。二人は深く頷き、剣を構える。この世に日本と存在しない聖剣エクスカリバーだ。それを最強の剣士であるジャンヌとイシュタルから受け継いだ二人が、魔女の突進を迎え撃つ。
「怖いか? マーク」
「はい。怖いです。だから勝ちます」
二人は笑い合う。
「そうだな」
「そうです」
右手に剣を持つガイア。左手に剣を持つマーク。二人は目の前で剣を交差させる。
「協力技といくか?」
「協力技? なんですかそれ」
ガイアをちらりと見るマーク。
「ナルス少佐とやったって聞いてるぞ? 南十字星だったか?」
シオンの話題がでて途端に顔が赤くなるマーク。
「し、シオンのことは今関係ないじゃないですか!」
「ん? シオン? いつからそんなに発展してたんだ?」
マークは黙ってしまう。
「……もう、いいです」
「そうだな、名前はあとで考えよう」
全く話が噛み合わないが、長く話し合っている余裕は無い。
「呑気な男どもだ。だが、今魔女に対して決定打を持っているのはお前たちだ。横には俺たちがついている。後のことは何も考えるな。ただ、突き進め」
「ああ、任せてくれ」
珍しく感情を込めて告げるアーノルト。ガイアはそのアーノルトの熱意に応えるように拳を突きだす。
「あああああああアアアアアア!!」
奇声を上げる魔女。その魔女の突進を受け止めるガイアとマーク。だが、魔女の勢いは多少弱まる程度だ。
「兄上、このままでは……!」
「ああ、これが魔女の力か。長くは、持たない」
じりじりと後方に追いやられていく二人。一瞬でも気を抜けば剣を弾かれ、すりつぶされてしまう。ゼロとアーノルトが両脇から魔女に攻撃し続けているが、魔女の進行は止まらない。
「くっ!」
いくら冥界で修行したとはいえ、肉体は人間だ。急激な変化に耐えきれるわけではない。魔女の突進によって二人の肉体は悲鳴を上げていた。あと数秒で弾かれる、その時だった。
「ぐが!!」
魔女の動きが鈍る。ガイアはたちではない何かによって攻撃を受けているようだった。
「ごめん、みんな」
その力の正体はネスだった。ハデスの攻撃から目覚め、頭を抱えながらも立ち上がる。
「おそいわ……このたわけが」
マリンが力を解く。重力はネスの力によって安定する。マリンに付いていたルナはすぐさまネスのもとへと駆け寄っていく。
「ネス、もう良いのかえ?」
「うん、ありがとう」
ルナはネスの回復を始める。
ハデスは気まずそうにネスを見ている。
「ありがとうハデス。僕を救ってくれて」
そんなハデスににこやかに話しかけるネス。ハデスもその顔を見て少しは心が安らいだようだ。
「ネス、休んでいろ、と言いたいところだがそうはいかない。お前の力が必要だ」
アスラの言葉に頷くネス。
「僕は神様だよ?」
ネスは超重力を魔女に浴びせる。魔女の動きは明らかに遅くなり、大きな隙が生まれる。
「今だよ! 皆!」
ネスの掛け声と共にアスラ、ミカエル、モルガナ、ゼロ、アーノルト、ガイア、マークの7人が一斉に魔女に攻撃を仕掛ける。
「長かった……だが、これで終わりだ!!」
アスラの拳が魔女に直撃する。重力に縛られているせいでいまいち効いているのかどうかわからないが、魔女の呻き声から察するに相当のダメージだろう。
「犠牲は決して少なくはない。だが、それももう最後だ」
ミカエルの手のひらから高密度の光が放たれる。それは魔女の肉体の一部を完全に吹き飛ばす。
「これがスサノオの、アテナの、アレスの、そして私たちの思いだ!!」
上空から隕石を魔女にぶち当てるモルガナ。魔女の体は押し潰され、重力がなくとも起き上がることはできないだろう。
(ふざ、けるな……私がこの私が……)
魔女は向かってくる四人の人間を視界にとらえる。
「ここがお前の限界だ。レイアに手を出そうとしたことを永遠に後悔しながら死ぬがいい」
ゼロの弾丸が魔女の脳天を撃ち抜く。もう回復する力は無く、魔女の体は完全に地面に伏す。
「去らばだ」
その魔女の体に無数のクナイが突き刺さる。魔女はもう、悲鳴を上げることすらできない。
「マーク! 決めるぞ!」
「はい! 兄上!」
二人の聖なる剣が魔女に止めを指す。
(なぜ、私はこうしている? なぜ、私は……)
ネスが重力を解く。魔女は動きを完全に停止していた。
「勝った?」
モルガナが呟く。
「勝ったんだ! やった! 私たち、ついにやったんだ!」
飛び上がるモルガナ。他の神々も力が抜け、地面に倒れれ込む。そんな神々の間を通りすぎていくマリン。
「おい、何処へ行く?」
アスラが声をかけるが、マリンは答えない。
「おい!」
不吉な予感がする。マリンは魔女のすぐ目の前まで近づいていく。魔女はもう虫の息だ。
「あの女……まさか魔女に力を」
ハデスの言葉で全員がマリンに飛びかかる。が、怠惰の力によって全く近寄れない。マリンだけではない、魔女にまでその力が及び、手出しができない状況となる。
「てめえ、裏切ったのか!!」
声を上げることしかできないルイン。それでもマリンは沈黙する。
「ま、りん。たすけ……しにたくない」
魔女の声だけがマリンの耳に入る。マリンは魔女の体にそっと手を乗せた。