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スティールスマイル  作者: ガブ
第六章 神々との戦い
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episode593 「全能」

魔女は焦っていた。


神一人一人の力は魔女には遠く及ばない。ましてただの人間であるゼロや魔族になりたてのアーノルトなど取るに足らない存在だ。だというのに魔女は追い詰められていた。自他ともに認める究極の存在であるはずの魔女が恐れを感じていた。


(なぜ私がこのような感情を抱かなければならないのだ。私はこの世界を支配する存在、そのために産まれてきた筈だ。それをこのような虫けらどもに・・・・・・)


いくら腹を立てようとも、憤怒の力は使えない。怒りよりも恐怖の感情が表に来てしまっているからだ。色欲の力も突破された。傲慢の力も神々が相手では無力だろう。強欲の力を使うには直接手で触れなければならない。手で触れれば魂を吸い取ることのできる魔女にとってこの力は大したメリットにならない。嫉妬の力を使えばたいていの攻撃には対処可能だが、今の残されたエネルギーではハデスレベルの攻撃を何度も受けることはできない。暴食の力も傲慢同様メリットが少ない。


魔女がこの危機を回避するには、何としてでも娘であるマリンの力を手に入れるしかなかった。







「マリン・・・・・・」






魔女が口を開く。警戒して動きを止める神々。万が一のためにマリンの近くに寄るミカエルとルナ。



「マリン、お前の気持ちはよくわかる。なぜだと思う? お前が私の娘だからだ」



マリンは魔女の言葉を黙って聞いている。


「マリン、お前は私を憎んでいるのだろう、恨んでいるのだろう、こんな運命に巻き込んだ私を許せないのだろう。だから私を裏切り、人間たちに力を貸している」



マリンはうつろな意識の中で、その一言一言を感じている。


「耳を貸すでないぞ」


ルナがマリンの体力を回復させながら耳打ちする。


「ルナ、回復はほどほどにしておけ。魔女がマリンに色欲の力をかけるかもしれん」


ミカエルが回復させているルナの手を掴みながら告げる。



「じゃが、マリンはこの世界を・・・・・・」

「構わんさ。それに大分体力も回復した。礼を言う」


マリンはルナに頭を下げ、立ち上がる。万全ではないものの、重力を抑えながらでも行動できるようになる。





「母よ、私はあなたを憎んでいる」





マリンは魔女に向かって語りだす。



「母よ、あなたは世界を滅ぼすために産まれてきた。では、私は何のために産まれてきた? あなたのためか?」

「それは・・・・・・」


魔女はマリンの質問に言葉が詰まる。実際にその通りだったからだ。魔女に愛情などは存在しない。



「答えなくても知っている。無駄な嘘は必要ない」

「お前は私の娘、それは確かだ!」


声を張りあげる魔女。



「母よ、あなたに贈る言葉は一つ。消えろ」




魔女は奥歯を噛みしめる。そしてもう説得が無意味だということを悟る。










「マリン、お前はこれまでいくつも過ちを犯してきただろう。そして今、また一つ犯した。最大の過ちをな!」



魔女の力が増幅する。魔女の背後からは干からびた状態のホルスが転がり落ちる。




「ホルス!」


モルガナの悲痛な叫びが響き、ハデスが前に出る。


「どけ人間ども!」


ゼロとアーノルトを押しのけ、魔女に拳を突き出すハデス。ネスの返り血を浴びた拳だ。拳は見事に魔女の腹をとらえるが、魔女の体はびくともしない。


「な・・・・・・」

「素晴らしい。これが自称神の力か!」


魔女はにやりと笑い、ハデスの拳を掴む。



「隙だらけだ!」

「しまっ!」



掴まれた手から見る見るうちにエネルギーを吸い取られていく。



「その手を離せ!」


アスラが割り込み、吸収は中断されるもハデスの拳はかなりエネルギーを持っていかれてしまった。






「くはははははは!」



魔女の力の上がり方はアスラたちに恐怖を与えるには充分すぎるものだった。







「すまないアスラ」

「下がっていろ今下手に動けば命が危ない」


アスラはハデスを後ろに下げ、じりじりと魔女との距離を広めていく。


「どうした? 怯えたか?」


魔女が見下した目でアスラに告げる。


実際アスラは手が出せないでいた。ネス、ハデス、ルイン、ホルスは戦闘不能。マリンも重力を安定化させるために力を使っている。残された戦力はアスラ、ミカエル、ルナ、モルガナに加えてゼロとアーノルトのみ。そして魔女は自らの力に加えてハデスとホルスの力を吸収している。迂闊に近づき、これ以上エネルギーを吸い取られでもしたら本当に終わりだ。



「皆、集中して隙を伺え」


アスラがそう言う中、その隣を飛び出していく二つの影。



「馬鹿ども! 迂闊に飛び出すな!」


飛び出したのはもちろんゼロとアーノルト。しかし、無謀に飛び出したわけではない。殺し屋としての経験、そして勘。その勘が訴えかけている。攻撃するなら今しかないと。




「ゼロ、お前との共闘は本意ではないが」

「ああ、だが、お前の実力はよく知っている」


二人は二人の実力を認め合っていた。こんな日が来るのではないかと心のどこかで考えていたのかもしれない。





「来るなら来い、人間ども! 蹂躙し、食い尽くし、支配してくれる」


全能感に満ち溢れた魔女が叫ぶ。二人の元殺し屋はいたって冷静に世界最強の生物と殺し合いを始めた。




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