表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スティールスマイル  作者: ガブ
第六章 神々との戦い
609/621

episode 592 「ネスVSマリン」

マリンは果敢に魔女に向かって行くアーノルトの背中を見つめていた。


「大きくなったな、アーノルト」


マリンはアーノルトを信じていた。自分がもう居なくても、大丈夫だと。



「さて、母は彼らに任せるとして、私は私の役目を果たさねばな」










ある宿屋でローズたちは目を覚ました。正確には覚まされたと言うべきだが。




「うわっ! わわわわわぁ!!」




シオンが大きな叫び声を上げる。


「何だ?」


目を擦りながら呟くジャック。すぐに体の異変に気がつく。


「な、なんだこりゃ!」



ジャックの体はふわふわと浮かんでいた。


「うわ。楽しい!」



ジャックのとなりで無重力状態を楽しむロミー。


「おいおい何の冗談だよこれは!」


そんなロミーを見ながら頭を抱えるレックス。


クイーンとパーシアスは状況に対応できず、再び気絶する。リラは何とか冷静になろうとぶつぶつ何か言っている。




「皆! 外を見ろ!!」


混乱する全員に声をかけるローズ。すでに窓の外の風景に絶望しているリザベルトの後ろから外を覗きこむ。その風景を見て、リザベルト以外の全員も同じ表情となる。



「な……」


言葉を失うジャック。彼らは建物ごと宙へと浮かび上がっていた。


「姉上、このままでは……」

「ああ、おそらくあと一時間もしないうちに大気圏を越えるだろう」



ローズの言葉を受けて、楽観的な表情をしていたロミーやシオンにも焦りの表情が見え始める。



「え、宇宙!? 死んじゃうじゃん!!」


事の重大さを理解したロミー。地面に戻ろうとじたばたするも、体が思う方向に動いてくれない。



シオンは覚悟を決める。



「皆さん! 私の体を支えていてください!」


そう叫ぶと、シオンは拳を床に向けて突き出す。




『氷槍!』



シオンの拳の先端からは氷の槍が出現する。その槍は宿屋の床を突き抜け、地面に向かって伸びていく。その反動でシオンの体は宿屋の屋根めがけて飛んでいく。



「おっと!」


シオンの体を受け止めるレックス。レックスだけではない。気を失っているクイーンとパーシアス以外の全員がシオンを支える。



「ありがとう皆! いっけぇー!!」



シオンの氷は数十メートル離れた地面へと見事に突き刺さる。そして宿屋はそれ以上上昇しなくなる。



「ふぅ、これで一安心だね」


汗をぬぐうシオンだったが、ローズの顔はまだ曇っている。



「いや、まずい……」



地面がうねりをあげ始める。地響きを起こし、地割れを誘発し、氷の突き刺さった大地ごと宇宙を目指して浮き上がる。



「や、ヤバイってこれ! 死ぬやつだ!」


シオンに抱きつきながら涙を浮かべるロミー。そこに居た誰しもが死を予感していた、その時だった。



ふと、上昇が止まる。シオンたちの体はゆっくりと床に着地し、宿屋自体もプカプカと宙に浮かんではいるがそれ以上上昇はしなくなる。



「一体、何が起きているんだ」


ローズが窓の外を覗く。すると異変はここだけではなかった。巻き上げられた植物や動物、建物や地面、そして人間たちがゆっくりと地面に降りていく。



「重力が戻ったんだ!!」


ジャックが喜びの声をあげる。が、どうやらそうではないらしい。










「さすがに……骨がおれる」



マリンが地面に横たわりながら呻く。マリンは自らの怠惰の力でこの世界全体を覆い尽くし、重力の影響を怠惰させていた。それにより、崩壊寸前だった大地は何とか持ちこたえることに成功する。



「マリン、お前……」


大地の崩壊が止まったことに気がついたアスラが声を漏らす。



「悪いがお前たちを助けてやるだけの力は残されていない。自力で何とかしてもらおう」


マリンは歯を食い縛りながら、この星の遠心力と戦い続ける。



(いつまでもこうしているわけには、いかないな)




「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」



アスラは力を振り絞り、立ち上がる。



「お前たち! 世界を守るのが我々の仕事だ! それをマリンに任せ、いつまでそうして寝ているつもりだ!! そんな事でアレスに顔向け出来るのか!?」


アスラの叫び声で、全員の目の色が変わる。




「そうだ! 我々は、この世界を託された!」


ミカエルが数枚の羽を犠牲にしながら立ち上がる。



「うむ、ここで折れていては、倒れていった者たちにどうやって詫びるというのかの?」

「そうだ! 私たちは神様だ!」


ルナはモルガナを庇いながら重力を克服する。



「たく、アスラも人が悪いぜ。そんなこと言われたら足の一本や二本でダウンできねぇな。なぁ、ハデス!!」


ルインは残された足と手で何とか立ち上がる。明らかに疲労困憊だが、魔族と人間に遅れをとるわけにはいかなかった。



「無論だ」


神々が立ち上がると、地中奥深くに沈められたハデスも勢いよく姿を現す。





「そんな、そんな! 僕の力が通じないわけないだろ! 僕は神様なんだ! あれ……僕はお母さんの……」


ネスの記憶に混濁が生じる。だが、魔女を守りたいという気持ちは変わらない。


「ネス……俺たちは、仲間だ……」


ネスの一番近くで重力に縛り付けられているホルスが声をあげる。


「うるさいうるさい!」


明らかに様子がおかしいネスがなりふり構わず力を使い始める。ネスの周りはマリンの力を凌駕し、滅茶苦茶に歪み始める。




ガコ!!



そんな圧倒的な力を見せるネスを正面から殴り飛ばすハデス。重力の力も、ハデスの威力の前では役に立たない。


「かっ……」


小さく声を出して倒れるネス。そのまま意識を失ってしまう。



ハデスはネスの血に染まった拳を静かに見つめる。





「この代償……必ず貴様に払わせる」



ハデスはその拳を魔女に突き出し、怒りに身を震わせた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ