episode 590 「元最強の殺し屋たち」
「レイア、少し待っていてくれ」
「ゼロさん?」
ゼロはレイアから手を離し、魔女の方を向く。
「マリン、あいつが魔女だな?」
ゼロは後方で観察していたマリンに確認をとる。
「ああ、あれが母だ」
「わかった」
ゼロは銃に手をかける。しかし、先程の攻撃で弾はすべて使いきってしまった。それを見たルインは落ちていた石ころを拾い、握りつぶす。
「おい待てガキ」
後ろから声をかけてくるルイン。ゼロが振り返ると、ルインは何かを前に突き出してくる。
「いまアタシに出来んのはこれくらいだ。受け取りな」
ルインは手のひらを開く。するとそこには弾の形に加工された石ころがあった。それを少し見つめ、無視して歩き始めるゼロ。
「おいこら待てや!!」
再び後ろを振り向くゼロ。
「素人が。そんなものは弾の代わりにはならん」
「んだとこら!! 素人はてめぇーだ! これがただの石ころなわけねぇだろが!!」
そう言われてもゼロには石ころ以外の何にも見えなかった。
「ゼロさん、神様の言うことは正しいと思います」
「レイア?」
レイアは目を凝らしてその石を見ている。僅かにだが、石に魔の力が宿っているように見える。
「そういえばお前はメイザースの力を一部受け取っていたな。もうほぼなくなったと思っていたが、まだ僅かに残っていたらしい」
マリンが呟く。
「そうだ。これにはアタシの力を込めてある。こんななりだけどよ、威力は絶大だぜ?」
レイアに言われて弾を取りに行くゼロ。ルインから受け取り、銃に込めるもその絶大な力とやらは感じられない。
「一応礼は言っておく」
そう言って再び魔女のもとに向かおうとするゼロを今度はマリンが引き留める。
「待て。私の力も込めてやろう」
ゼロの銃に手をさしのべるマリン。
「貴様の力は魔女に吸いとられてしまうのだろう?」
「その通り。母はお前たちで言うところの口と手にエネルギーを吸収する器官がある。そこに少しでも触れれば母は力を取り戻し、我々の今までの努力はすべて水の泡だ。そして世界は侵略され、人類は滅びる」
ゼロを脅すマリン。しかし、ゼロは一切臆さない。
「誰に言っている? 俺は元最強の殺し屋だ。狙いを外す訳がない」
「ほう?」
マリンから力を受け取り、今度こそ歩き出すゼロ。前方ではネスたちが魔女を押さえ込んでいる。
「おい、良いのかよそんな危険な力を渡して」
ルインがマリンに尋ねる。さすがに少々冷や汗をかいている様だ。
「ふ、この私がそんなリスクを犯すと思うか? あんなものはでまかせだ。力など渡していない」
マリンの言葉に胸を撫で下ろすルイン。
「だが、渡したとしても問題はなかっただろうな。あの男なら」
「……ああ、そうだな」
そう答えたルインは後方から迫ってくる気配を感じとる。それは完全なる魔の気配で、新たな魔族の登場を危惧したルインだったが、隣にいるマリンがそんなルインの予感を払拭する。
「案ずるな、あれは私の同志だ」
アーノルト・レバー。マリンより力を授かり、魔族の一員となった男が、ようやく居るべき場所へとたどり着いた。
「遅かったじゃないか」
「すまない。状況は?」
アーノルトはマリンから手短に状況の説明を受ける。
「つまり、俺の体を魔女に掴まれたら終わりと言うわけか」
「ああ、そうだ。特に問題は無いだろう?」
アーノルトもまた、魔女に向かって歩き出す。
「当然だ。俺は元最強の殺し屋だ」
「大分弱ってるけど、それでも一人じゃ押さえられないよ!」
「踏ん張れネス。我が支える」
ネスが超重力で魔女の体を押さえつけ、ネスの力にほころびが生まれないようにミカエルが支える。
「あっ!」
それでも魔女の肉体の一部がネスの重力をくぐり抜け、外へと出る。その一部をホルスが鋭い一撃で排除する。
「こちらは任せろ」
神が三人がかりで魔女を制圧し、その周りにはアスラとハデスも控えている。いざとなれば待機中のモルガナも戦いに加わるだろう。
このままいけば勝てる。誰もがそう思い始めていた。
だが、魔女は虎視眈々と狙っていた。逆転するその絶好のタイミングを。
魔女はまず自分の周りを絶えず飛び回っているホルスに目をつける。自らの体をわざと外へと飛び出させ、ホルスを誘う。そしてホルスが飛びかかると同時に重力の中へと引きずり込んだ。
「がっ!」
「ネス、ホルスが巻き込まれた! 一度力を解除しろ!」
それを見たミカエルネスの体を揺らすが、ネスには一切の反応がない。
「ネス!!」
再び体を揺らすと、今度は重力がミカエルを襲う。
「がっ!!」
異変に気がつくアスラたち。
「マリン、何か問題が……」
そこまでアスラが口を開くと、アスラたち神々全員をネスの重力が襲う。
「きゃっ!! ネス、なにするの!?」
叫び声を上げるモルガナ。
「まずいの、ネスはもう……」
モルガナを庇いながら呟くルナ。いつの間にか魔女に対する重力は解除されている。
「tpv、tvefojoftvibxbubtjoplpnbeb」
(そう、既にネスは私のコマだ)
ネスは操られていた。魔女の持つ色欲の力によって。