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スティールスマイル  作者: ガブ
第六章 神々との戦い
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episode 589 「キスと人工呼吸」

ルナはすぐさま倒れているレイアのもとに向かう。



「頼む、頼む! レイアを助けてくれ!!」



必死に懇願するゼロ。ルナの服をつかみ、すがり付く。


「ええい、離れんか! 気が散るわ!」


ゼロを突き飛ばし、レイアの様子を見るルナ。心臓と呼吸は既に止まっている。



(まずい状況じゃな。じゃが、まだ死んではおらん)



ルナは両手をレイアの胸に当てる。そして自らの力を少しずつ送り込んでいく。










「ここは、どこでしょう?」


レイアは草原に居た。風も草も太陽もまるで作り物のようだったが、それでもそれが心地よい。ここにあるすべてのものがレイアの機嫌をとっているようだ。


レイアの頭がだんだんとボーとしてくる。余計な事がすべて抜け落ち、気持ちの良い事だけが頭に残る。体は軽く、お腹も空かない。ハッピーな気持ちが溢れてくる。




「レイア?」



懐かしい声がレイアの耳に心地よく響く。振り向くと、そこには友人が元気な姿で立っていた。



「エレナ? エレナなのですか!?」


友人のもとに駆け寄るレイア。そこに居たのは紛れもなくエレナ・メルだった。



「どうして? あなたは死んだはず……」


驚愕を顔に表すレイア。確かにエレナは死んだ。組織の殺し屋であるムースとレイリーとの戦闘中、姉であるムースによって殺された。



「そう、私は死んだわ。そしてあなたもね、レイア」


レイアにそう告げるエレナ。レイアは特に驚くでもなく、小さくため息をつく。



「つまらない……予想外の反応だわ」


少しレイアが驚くのを期待していたエレナは残念そうな顔を見せる。


「予想はしていましたから。あなたに会えてその予想も確信に変わりました」


レイアは笑顔でエレナの手を握る。その眩しすぎる笑顔にエレナは思わず顔をそらしてしまう。



「相変わらずね、あなたは」




エレナは握られたその手を引っ張る。


「エレナ?」

「さぁ、行きましょう? 皆待ってるわ。あなたのお父さんもお母さんも」




父と母。レイアが会いたくてたまらない存在だ。だが、レイアはそのレイアの手を離す。



「どうしたの?」

「わたけしはそちらには行けません」



拒むレイア。エレナの表情が少し変化する。



「どうして?」

「まだ、あの方の笑顔を見ていませんので」



エレナの誘いを完全に拒むと、レイアの背後に黒い塊が出現する。レイアは迷わずその方向に向かって進み出す。



「今帰ったってどうせまた殺されるわ!? あんなに苦しい思いはもうしたくないでしょう?」



エレナが顔をひきつらせながら叫ぶ。確かに溺れた時のあの感覚、あれは死んでも忘れられない。



「それでも、わたくしはまだ死にません」

「行かないで! 私を置いていかないで! 寂しいのよ!」



エレナは泣きじゃくりながらレイアに訴えかける。それでもレイアは歩みを止めようとはしない。



「また会いましょう、エレナ。お元気で!」



エレナに手を振りながら塊に飛び込むレイア。







「はぁーあ」


暫く泣く演技を続けた後、エレナはスッキリと泣き止む。そしてエレナの姿は別の男性の姿に変貌する。



「だからいったでしょうロキ。あの子はとても優しいけれど、自分の芯をきちんと持っているって」


ロキと呼ばれた男性の後ろから本物のエレナが歩いてくる。理解しがたい顔をしたロキの肩に手を乗せ、去っていったレイアの背中を思い出す。



「本当に変わらないわね、あなたは」
















ルナはレイアがこちら側に戻ってきたことを感知する。


(うむ、これで一安心……しかし)


ルナは隣で死にそうな顔をしているゼロに視線を移す。あれほど凛々しかった青年の顔にその面影はなく、雨に濡れてブルブルと震えている子犬のような可愛さがある。




「……出来ることはすべてやった。もうわらわに出来ることは無いの」

「ではレイアは!?」


絶望をはらんだ声で叫ぶゼロ。ルナは噴き出しそうなのを必死でこらえる。



「あとは主とこやつ次第じゃ。人工呼吸は続けた方が良いの」


その言葉を聞くや否や、ゼロは全力でレイアに口づけする。必死で空気を送り込み、レイアをこちらへ引き戻そうとする。


一方、とっくにこっち側へ戻ってきているレイアは唇に暖かさを感じていた。まるでゼロを甦らせたときのような暖かさだ。



(なんでしょうか、この感覚は……)


目を開けるレイア。目を開けても直ぐにはなんだかわからない。だが、言い様のない心地よさが全身を駆け巡る。先程まで居た草原と似たような感覚だ。



(ああ、わたくし、やっぱり死んでしまったのですね)



ふたたび目を閉じるレイア。が、直ぐにレイアの耳に飛び込んでくる。聞き間違えるはずもない、あの人の声が。





「レイア! 死ぬな! 俺の側を離れないでくれ!!」





ぱっと目を開けるレイア。何かを言い返そうとするが、口が塞がれていることに気がつく。そしてそれがゼロの唇だということに気がつくまで、そう時間はかからなかった。






「んんーんんんんんん!!!??」




じたばたと暴れるレイア。それでもゼロは口づけをやめない。レイアが目覚めたことに気がついていない様子だ。そんなゼロの肩を叩くルナ。



「何だ! 邪魔をするな!」



ルナに向かって振り返り、睨み付けるゼロ。



「ほう、命を助けてやったというのに、そんな口の聞き方をするとはの。それにみてみぃ、主がやっておるのは嫌がる少女を無理やり押し倒し、唇を奪うというなんとも猥褻な行為じゃぞ?」



ルナの言葉を受けて、レイアの顔をふたたび見るゼロ。そこには真っ赤に顔を腫らせ、両手でそれを必死に押さえているレイアの姿があった。




「レイア!」

「ぜ、ゼロさん……わたくし……」




何か言いたそうなレイアを強く抱き締めるゼロ。レイアの言葉は止まってしまう。



(息をしている、心臓も動いている)



レイアが生きていることを改めて確かめるゼロ。強くレイアを抱き締め、戻ってきたその温もりを全身に感じている。



「い、いたいです」

「すまない」



ゼロは我に返り、レイアを離す。暫く見つめ合う両者だったが、再開を喜ぶ時間はそれほど残されていない。






「hbbbbbbbbb!!」

「うわっ!」




ついに魔女がモルガナの力を上回り、水の牢獄から脱出した。










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