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スティールスマイル  作者: ガブ
第六章 神々との戦い
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episode 585 「海辺でお食事」

ゼロたちは海岸に居た。戦いとは無縁の平和な世界。静かに風が吹き、心地よいさざ波がゼロたちの心を癒す。罪悪感を感じながらも、レイアはこの幸せな時間を楽しむ。


思えばゼロと出会ってからは、波乱の連続だった。勿論すべてが良い思い出というわけではない。辛いこともたくさんあった。そして一番辛かったのは、その出来事自体ではない。その時にゼロが隣に居なかった事だ。だが今はすべてを投げ出してゼロが隣に居る。たとえどれだけ辛いことがあろうとも、それだけでレイアは満足だった。



「よう! タコだぜタコ! この辺りにも居るんだな!」

「うう、気持ち悪い」



フェンリーが食料調達から戻ってきた。隣に居るケイトが一生懸命タコを抱いている。うねうねとしているタコに苦戦しながらも、逃すまいとしっかりとつかんでいる。



「美味しそうですね。料理、私も手伝います!」


レイアが駆け出し、二人のもとに向かう。


「そうしてくれ、こいつだけじゃ不安でしかたねぇ」

「む、その言葉、後悔することになる」


ケイトはタコを掴みながら、レイアと一緒に調理場へ向かう。




「……」


ゼロは去っていくレイアの背中を見つめている。


(本当にこれで良かったのか?)


勿論ゼロに後悔はない。レイアを危険にさらすことは世界の滅亡に等しい行為だ。たとえそのせいで世界から指を指されようともゼロに後ろめたさは存在しない。


だが、レイアはどうだろう? 避難の嵐に耐えられるだろうか。戦いを挑んだ神やローズたちがそんなことをするとは思えないが、レイア自身はそうは思わないだろう。万が一全員が死亡したなどということになれば、レイアは精神が崩壊するかもしれない。


(そうはさせない。レイアは必ず俺が守る)


ゼロは心からそう誓った。





料理ができるまでの間、フェンリーはタバコを口に咥えて空を見上げる。


「嘘みたいだよな。今この瞬間世界が滅びるかもしれないなんてよ」


空はとても青い。



「ああ、だがそれは紛れもない事実だ」

「はは、案外神たちがあっさり魔女を倒したりしてな!」



楽観的に笑うフェンリー。そうなればどれだけ良いだろうか。この幸せな時間が永遠に続くのだから。



「そういえばワルターはどうしたんだ?」


姿の見えないワルターを心配してフェンリーが尋ねる。


「……」


ゼロは少し呆れた様子で岩影を指差す。ワルターはそこで筋トレをしていた。剣を取り上げられている今、出来ることはそのくらいだった。



「はぁ、あいつは休息って言葉をしらねぇのか?」

「仕方がない。ワルターにとって戦いは生き甲斐なのだろう。それを禁じられたのだからあれくらいは好きにさせてやるべきだ」



ワルターが戦いに生き、戦いに死ぬのを信条といていることは皆わかっている。今回の戦いはワルターにとってまさにベストの戦いだった。その戦いを邪魔してしまったのだから、人目もはばからず上半身裸で筋肉を鍛えているからといって注意するのはかわいそうだ。





「できましたよー!」



レイアとケイトがお皿を抱えながら走ってくる。皿の上にはなにやら丸い物体がいくつも並んでいる。


「あ? なんだそりゃ」


初めて見る食べ物に興味津々なフェンリー。答えを聞く前に口の中に頬張る。



「うわっちゃちゃちゃ!!」

「がっつくから」



激熱の物体を口の中に放り込むフェンリー。慌てて口の中を凍らせて冷却する。



「あっちー!! でもなんだこれ、うまいじゃねぇか!」


騒がしいフェンリーの様子を聞き付けてワルターも近寄ってくる。



「美味しそうな匂いだね。俺にもひとつくれないか?」

「ならまず、服を着て」








五人は砂浜にシートを引き、食事をする。



「これはカグラの食べ物で、たこやきと言うそうです。たまたま立ち寄っていたカグラの方が教えてくださいました」



レイアが料理の説明をする。


「へぇ、でも教わったばかりの料理をここまでおいしく作れるのは流石だね」


ワルターはたこやきが気に入った様子だ。


「ありがとうございます!」

「わたしも手伝った」


張り合うケイト。



「何を手伝ったんだ?」



フェンリーの問いかけにケイトはたこやきの上でヒラヒラと舞う鰹節を指差す。


「あれをふりかけた」


ケイトがそう言うと、フェンリーは思わず吹き出す。




「ぎゃはははは! あんなの誰でもできるだろ!」

「何を言う! あのかつおぶしがたこやきのうまさを引き立てる! おいしくなったのはわたしのおかげ!」



二人のやり取りを見ながらゼロもたこやきを口に運ぶ。



「おいしいでしょうか?」



レイアの問いかけに答えるように、ゼロはもうひとつ口に運ぶ。



「ああ」

「よかったです!!」


その一言だけでレイアはとても幸せな気分になった。


















しかし、その幸せも束の間。





轟音と共に海がめくれあがる。打ち上げられた海水が空から降り注ぎ、海上では大きな津波が押し寄せてくる。魔女の放った一撃がマリンに飛ばされてやって来たのだ。




「ゼロさん!」

「レイア!!」




二人は手を繋ぐ。しかし、海は容赦なくその手とレイアを飲み込む。




「レイア、レイア!!」



海に飛び込もうとするゼロを掴むケイト。



「だめ! 死んじゃう!!」

「離せ!!」



ケイトの手を振りほどき、うねりを上げる海へと駆けるゼロ。




「ど、どうしよう!!」

「落ち着け、俺も行ってくる。お前はその辺りの人たちの避難誘導を頼む!」



慌てるケイトにそう言い聞かせ、フェンリーはゼロを追いかける。







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