episode 583 「ルイン&ハデスVS魔女」
2000年前、ハデスは魔女の力に耐えきれず暴走し、多くの仲間を傷つけた。そしてその破壊衝動は2000年たった今でも抑えきれていない。その度に大量の命を奪ってきた。
それもこれも、今目の前に居る魔女が原因だ。
「2000年の怨み、辛み、すべて貴様に返してやる」
ハデスが魔女に告げる。魔女など二度と復活しない方がいい、誰もがそう思っていた。だが、このハデスだけは心のどこかで魔女の復活を望んでいた。封印などという生ぬるい方法ではなく、確実に息の根を止めることを望んでいた。
「ハデス、油断すんなよ。こいつは魔族どもの力を吸収してる。少なくとも魔族連中分だけは力が上乗せされてるはずだ」
ルインが頭を使っていなさそうなハデスに忠告する。むやみに突っ込んでも無駄だと伝える。が、復讐以外何も考えていないハデスには伝わらない。拳を握りしめ、力の限り魔女を殴り付ける。
「あ、おい、言ってるそばから!」
慌ててルインも後に続く。万が一ハデスが強欲か色欲の力で操られでもしたら大問題だ。
ハデスの攻撃力は魔女の防御力を軽く凌駕し、拳を突き出す度に魔女の体を抉っていく。しかし、魔女にとって肉体とは有って無いようなものだ。いくら攻撃をしたとしても何度でも再生されてしまう。
「単調な攻撃、何か狙っているのか? いや、そうではないな」
早くもハデスの攻撃は見切られはじめる。いくら効かないからといって、無防備に殴られ続けるのも魔女の趣味では無いらしい。だが、ハデスの攻撃になれてくると、今度はそれよりも数段速いルインの攻撃が魔女を襲う。ハデス同様にダメージはないが、執拗に顔面を狙ってくるルインの攻撃にだんだんと腹が立ってくる。
(顔など私には無いようなものだが、随分とコケにされている気分だな)
魔女はルインの攻撃を受けながらマリンをちらりと見る。マリンは特に行動を仕掛けてこないが、魔女からは一切目を離していない。一番狙われているのは自分だとちゃんと理解しているようだ。
(流石は私の片割れだ。可愛らしいほど憎たらしい。強欲と色欲が届かない絶妙な立ち位置を保っている。だてに生き残っているわけでは無いようだな)
「無視してんじゃねぇぞ!」
考えにふけるがら空きの魔女の顔面目掛けて、ここ一番の蹴りを繰り出すルイン。蹴りは見事に顔面に当たり、魔女の顔面は大きくへこむ。
「よしゃ! ってあれ?」
魔女の顔面はスライムのようにうねうねと動き回り、ルインの足をガッチリと包み込む。
「迂闊に近づいてはいけないのでは無かったのか?」
「う、うるせぇ!」
魔女の言葉に反論するルイン。早く抜け出さなければハデスに対して言っていた事が自分の身にふりかかる。
「ハァァァァ!!」
全神経を足に集中させ、力を爆発させるルイン。スライムのような魔女の体は完全に消し飛び、ルインは体の自由を取り戻す。
「ど、どうだ!」
「おみごと。後少し判断が早ければな」
ルインは魔女の言葉に恐る恐る足に目を移す。その足にははっきりと例の紋章が浮かび上がっていた。
「あ……」
「さあ、その足を切断でもしない限りそれは私の所有物だ」
ルインの足はピクリとも動かない。アスラやモルガナは悲痛な表情を浮かべている。
「ちっくしょう! おいハデス! 早くアタシの足をぶち折りやがれ!」
ルインは覚悟し、ハデスに叫びかける。ハデスはすぐに駆けつけ、ルインの体を掴む。
「なるべく手早くやってくれよ、痛いのは嫌いなんだ」
「その心配はない」
ハデスはルインの体をひょいっと持ち上げる。
「お、おい!」
ハデスのまさかの行動に動く方の足をばたつかせるルイン。ハデスは一切それに構わず、ルインの体を思い切り魔女に向かって投げつける。
「どわぁぁぁぁぁ! なに考えてやがる!」
「動けないのなら武器として使ってやる」
槍のように飛んでいくルインは魔女の体を貫く。が、その勢いは一切収まらない。このままでは前方の岩山に当たるまで止まることは無いだろう。そんなことになれば衝撃で全身ズタズタになってしまうだろう。
「どどどどうすんだよ!!」
叫ぶルイン。自分の力ではどうあがいてもピンチをきりぬけられない。
「マリン!」
「まったく、この私を顎で使うとはな」
ハデスの呼び掛けに応え、マリンがゲートを開く。超スピードで飛んでいったルインはマリンのゲートへと吸い込まれていき、体を回復させた魔女の頭上から突き刺さる。
「ごっ!」
叫び声を上げながら地面に突き刺さるルイン。その衝撃で魔女もろとも地割れの中に落ちていく。が、またルインの背後から現れたゲートによってルインの体はハデスの足元に転送される。
「てめぇ、後で必ずぶっ殺す……」
ルインは憎悪の眼差しでハデスを睨み付けた。