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スティールスマイル  作者: ガブ
第一章 ゼロとレイア
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episode 6 「本心」

ゼロの両手は、握りしめたフォークごと地面に凍りつけられている。満身創痍の青年に勝ち目は無かった。が、そんなことは関係ない。心にぽっかりと穴が空いてしまったような虚無感を拭うには、こうするしかなかった。


「これが最後だ。組織に戻れ」


ゼロの顔面に手をかざすフェンリー。あと数センチ近づけば、ゼロの顔面は凍りついてしまうだろう。しかし、ゼロの目線はフェンリーではなく、彼がポケットから覗かせている金色の髪に向かっていた。


「まだこの女に未練があんのか。優しくされて日和っちまったのか? 俺の氷よりよっぽど冷たかった男が」

「黙れ。その女は俺の獲物だった、それだけだ」


両手の感覚は既に無い。


「そいつは悪かったな。まぁ過ぎたことだ気にすんな」


レイアはもういない。二度とあの笑顔を見ずに済む。……いや見ることができない。もう、心底どうでもいい。ゼロの顔は死を受け入れていた。


「お前そこまであの女の事を? ただのガキじゃねぇか」


フェンリーの顔に初めて動揺が現れる。フェンリーはゼロから離れる。


「貴様に何が分かる」


ゼロから殺気が溢れ出す。少しずつ凄みを増していく。


「俺は何度もあの女を殺そうとした」


フェンリーは黙って話を聞いている。


「何度も何度も銃を向けた」


ゼロは今までにないほど興奮していた。今まで押し殺していた何かが溢れ出す。


「だがあの女は俺を救い、微笑みかけた!」


叫び、心の内を訴えた。


「一度も俺を拒絶しなかった!」


言い終えると、ふとゼロは口を閉じる。殺せ、そう言うと目をつぶる。すると黙って聞いていたフェンリーが口を開けた。


「それがお前の本心か」


ゼロはもう、なにも答えない。代わりにフェンリーが喋り続ける。


「実を言うとな、俺は組織からなんの指令もうけてない。俺は組織を抜けた身だからな」


やれやれ、といった感じで椅子に腰かけるフェンリー。


「お前の噂は聞いてたよ。たまたまお前を見つけてな、どうやら仕事に行く様子なもんだから伝説と言われたその腕前を一目拝んでおこうと思ってな、後をつけたわけよ」


タバコに火をつける。フェンリーの言葉は止まらない。


「そうしたら実に面白いもんが見れたよ。最強とまで言われた殺し屋が、一人の女をめぐって他の殺し屋と争ってたんだもんな」


ゼロは耳には入っている様だが、なんの反応も示さない。


「女の行動にも驚いたよ。お前を介抱してここまで運んでくるんだぜ?」


まったくだ。


「そこで俺はお前を試すことにした。ドレクとかいう殺し屋に女の始末を依頼した。そしたらお前は女を庇い、その殺し屋をブッ飛ばしちまった」


お陰で俺は完全に裏切り者だ。


「俄然お前に興味が湧いた。殺人マシーンがどこまで本気なのか。女を殺したと偽ったらお前はどんな行動に出んのか、まぁお前は俺が思った通りの男だったよ」


フェンリーはそこまで言うと、彼の後方にあった引き出しを開ける。


「殺しやさん?」


聞き覚えのある明るい声がした。目を開け、声のする方を向く。あの少女が心配そうにこちらを見ていた。内から込み上げてくる感情に困惑しつつ、少女の顔を見つめる。あの少女だ。間違いなく、あの少女だ。


「悪かったな、お前が組織に戻るっつったら殺すつもりだったから本気で試した。まぁ嬢ちゃんに手当てしてもらいな」


「まて」


じゃあなと言い、出ていこうとするフェンリーを呼び止めるゼロ。


「なぜこのような真似をする? 何が目的だ」

「別に。ただ若人にちょっかいだしたくなっただけさ」


本心かどうかを確かめる暇もなく、そのままフェンリーは姿を消した。


「大丈夫ですか? 傷を見てもいいですか?」


恐る恐る尋ねるレイア。ゼロが拒絶の意思を示さないのを確認し、レイアは手当てに取りかかる。


「なぜ、俺に構うんだ。俺はお前を……」


フェンリーの氷を溶かし、包帯を巻きながら質問に答えるレイア。


「初めて会ったとき、とても悲しそうな顔をしていたから。まるで世界のすべてを諦めているような、そんな顔をしていたから……」


ゼロの冷えきった手を握りしめるレイア。彼女の暖かさが伝わってくる。


「お前はなぜ笑っていられるんだ。両親が死に、屋敷の者共も皆殺しにされたんだぞ。なぜ、悲しそうな顔をしないんだ。怒りは? 憎しみは? お前はなにも感じないのか」


自分でも驚くほど口が回る。理解できない物を理解するためなのか、彼の疑問は止まらない。


「だからこそ笑うんです」


レイアの答えを聞いても訳がわからなかった。


「わたくしが悲しそうな顔をするときっと他の方も悲しくなってしまう。そんなの嫌だから。悲しいのは私だけで十分だから……」


レイアの答えにゼロは黙っているしかなかった。呆気にとられていた。


「情けないな、俺は。俺は自分勝手な理由でお前を殺そうとした。すまなかった。謝って済むことではないが」


そう言うとゼロはレイアに向かって頭を垂れた。


「やっやめてくださいっ! もういいんです。それに貴方は爆弾の方や毒の方からわたくしを守ってくれたじゃないですか」


わやわやするレイア。手元が狂ってしまう。


「痛ッ!」


小さな痛みがゼロに訪れる。


「ご、ごめんなさい! でも、これでおあいこですね」


チョロっと舌を出しながら微笑むレイア。彼女の笑顔を見ても、もうゼロに怒りはなかった。とても不思議な感情だった。


そうか、これが平穏なのか。


ゼロは久しぶりにいや、もしかしたら生まれて初めてかもしれない平穏に身を委ね、静かな夜を過ごした。


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