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スティールスマイル  作者: ガブ
第六章 神々との戦い
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episode 582 「神と魔族と魔女」

マリンは魔女としばらく見つめ合う。アスラからしたらマリンは黒い影を見つめているだけなのだが、マリンからはあれがきっと魔女の姿に見えているのだろう。



「母よ」



マリンが一歩前に出る。



「我々は人間ではない。しかしこうやって言葉を扱うことができる。ならば少し対話を嗜んでみないか?」

「対話だと? 2000年で随分と人間らしくなったではないか。マリン、お前にできることは、私に力を渡し、とっととこの世から去ることだけだぞ?」




言葉の直後、強烈な闇の波動がマリンに向かって放たれる。近くに居たアスラはその衝撃だけで体が弾けてしまいそうだ。



「そうか……それは」



攻撃がマリンに直撃する。しかしその攻撃はマリンの怠惰の力によって防がれる。




「マリン、お前は少々はき違えているらしい」



マリンが攻撃を防いだことに全く驚きもせず、言葉を投げ掛ける魔女。



「お前は人間ではない。そして生物ですらないのだ。お前たち魔族とは私の力の入れ物、ただのストックに過ぎん。そのマガイモノの命、価値を活かせるのは私だけなのた」


自分の娘に対して、はっきりと告げる魔女。そもそも魔女という存在に愛情などというものははじめから存在しはしない。







「そうか、本当に良かった。正直この私でさえ実際に目の当たりにしてみなければどうなるのかは分からなかった。あるいは命を差し出したかもしれない。だが、今ははっきりと言える。私はお前を憎んでいる。お前の思う通りには、死んでもならない」







マリンははっきりと答える。それを聞いた魔女は特に意外そうなそぶりも見せず、再び人の姿へと形を変える。





「構わない。お前を殺せば欠片はどのみち手に入るのだからな。苦しむことなく殺してやるつもりだったが、その必要はないな」




魔女の姿が変貌していく。より禍々しく、より雄々しく、より邪悪に。


「確かにレヴィとは力の跳ね上がりかたが桁違いだな」

「余裕だな我が娘。お前のことだ、その怠惰の力が完全ではないことは理解しているだろうに」



魔女の体がどんどんと獣の姿になっていく。そもそも魔女の本体とは元々このような形なのかもしれない。




「お前はお前の理解を越えるものは怠惰させられない。理解できないもの、それはすなわちこの私だ!!」






巨大に変化した魔女の爪がマリンを襲う。なんとか攻撃を避けるマリンだったが、その爪先は確実にマリンに届いた。その証拠にマリンの服にはその爪痕がしっかりと残されていた。


「ま、マリン」


アスラが不安そうな顔でマリンに言葉をかける。マリンの顔からはいつもの自信満々な表情は微塵も感じられなかった。



「呆けるな。まだ殺されたわけではない。いっておくが、この私が殺されれば母は完全な復活を遂げる。お前たち程度が何人束になっても敵いはしない。即ち、この世界の滅亡だ」



冷や汗がマリンの額から頬を伝う。



「だが、2000年前は封印に成功した。眠り続けていた魔女はよりも2000年鍛え続けた今の我々の方が確実に強い」


全員が集まれば魔女とも戦えるはずだと信じるアスラ。



「確かにお前たちは強くなった。だが、母は眠り続けていた訳じゃない。母もまた鍛え続けていた。母のもつ七つの力を我々に預けるという形でな」





怠惰、憤怒、色欲、傲慢、強欲、嫉妬、暴食。七つの力。魔女はただ黙って封印されていたわけではない。復活に相当の時間がかかると踏んでいた魔女はその力を鍛えるために魔族を産み出した。いつか復活するその時、成長したその力を自らのものにするために。







「へぇ、勝手に貯まる貯金箱みてぇだなぁ!」




小高い岡の上から叫び声を上げるルイン。モルガナが急いで連れてきたのだ。



「次から次へとまぁ、わいてくるものだな」



ルインの方をちらりと見る魔女。ルインは目にも止まらぬスピードで魔女のもとに突っ込み、その体目掛けて思い切り鋭い蹴りを放つ。化物じみた肉体に食い込むルインの足。確かな手応えを感じる。



だが、魔女に迂闊に近づき過ぎればアスラと同じ結末となる。忍び寄る魔女の右腕。



「うわっと! さわんじゃねぇよ!!」

「素早いな」



間一髪で魔女の手を逃れるルイン。





「大丈夫!?」

「ああ、何とかな。助かった」




左腕がめちゃくちゃになっているアスラに駆け寄るモルガナ。軽く触れてみただけでその崩壊具合がよく分かる。



「モルガナ、連れてきたのはルインだけなのか?」

「うんん。ちがうよ」






モルガナがアスラの質問に答えた直後、隕石のような衝撃が魔女の上から落ちてきた。それは巨大な魔女の体を貫き、噴水のように吹き出す血を存分に浴びながら現れた。





「まさかまた貴様の顔を拝むことになるとはな。今度こそ滅ぼしてやる」



怒りの化身となったハデスが顔に付いた血を拭う。



「そういえばお前が居たな」


破壊された肉体を超スピードで回復させながら口を開く魔女。



「最も私に近いお前がどこまで成長したのか楽し……」




まだしゃべっている途中の魔女の顔面を吹き飛ばすハデス。



「俺は貴様と会話をしに来たのではない。貴様を殺しに来たんだ。黙って死んでいろ」

「ふ、お前に力を埋め込んでおけば良かったな」




2000年前のリベンジが始まろうとしていた。


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