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スティールスマイル  作者: ガブ
第六章 神々との戦い
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episode 577 「後ろではなく、横」

マリンがアーノルトたちの前に到着したとき、そこはまさに地獄にふさわしい光景に変貌していた。



「見違えたではないか」

「ま、マリン!」



全身全霊でぶつかり合うガイアとアーノルト。その二人を止めようとあたふたしていたマークがマリンの登場に驚愕の叫び声を上げる。


「た、頼む! あの二人を止めてくれ!」


なりふり構ってもいられない。いくら死なないとはいえ、目の前で兄が殺しまくり、死にまくるのはもう見たくない。



「なぜだ? もう少し観察しようではないか」



マリンに二人を止める気は無い。椅子と机と紅茶をとりだし、マーク用の椅子まで用意する始末だ。



「ふざけるな! 兄が死んでいくのを椅子に座りながら眺める弟がどこにいる!?」

「クク、だがあの二人はいま格段にパワーアップしている」



マリンはまるで植物に水をやるような表情二人の戦いを観察している。二人はマリンの登場になど全く気がつかず、命の全てを出しきってぶつかり合っている。



「普段はセーブしている力をここでは存分に発揮できる。生死を繰り返すことで強力な精神力も手に入れられる。母に挑むには、なくてはならない行程だ」





二人の成長を楽しむマリン。だが、マークはそういうわけにはいかない。



「兄上! 兄上!」



二人の血みどろな戦いを止めようと叫ぶ。しかし、ガイアはアーノルトしか視界に入っていない。同様にアーノルトもマリンのことは横目にも見ていない。





「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「うぉぉぉぉぉぉぉ!!」




技も形も、流儀も享受も有ったものではない。獣と獣の殺し合い。命と命のぶつかり合い。そこにあったのは戦いでは無かった。



踏み込みたくても踏み込めないマーク。あれに挟まれれば、一瞬で命を失う。そうなれば兄の動きを止められるかもしれないが、同時に弟を殺したという責任を負わせることになってしまう。


マークは恥を忍んでマリンに頭を下げる。


「頼む。俺にできることならば何でもする。だがら、兄を、助けてくれ」


マリンはすました顔でそれを聞き流す。




「お前に出来ることなど何も有りはしない。お前もそれがわかっているからこそ、私に頭を下げているのだろう?」


マークは何も言い返せない。まさにその通りだったからだ。マークにできることはそのまま頭を下げ続けることだけだ。






「だがな、私とてこれ以上弟子が落ちぶれていく姿を見たいわけではない」


マリンが立ち上がる。そして戦いの中心へゆっくりと歩いていく。





「ハァハァ」

「うぅ……」



二人は身も心もすり減らし、まさに満身創痍だった。それでも相手を痛め付けるため、ただそれだけのためにぶつかり合う。



「いい加減にしろ! このわからず屋が!!」

「黙れ! 貴様に何がわかる!!」




二人の渾身の攻撃。共に絶命しかねないその攻撃を中心で受けるマリン。



「な、マリン!?」



アーノルトがマリンの存在を関知する。直ぐにガイアも気がつき、両者共に力を抜く。





「もう少し余興を楽しみたかったが、そろそろ仕舞いだ」


ガイアはすぐにマークのもとに駆けつける。


「大丈夫か!」

「ええ、俺は無事です」


二人が戦いを止めてくれたことに胸を撫で下ろすマーク。自分を心配する兄の顔は、いつもの兄の顔だった。




アーノルトはマリンを睨み付ける。


「何故戻ってきた? 戦いの邪魔をするほど重要な用件でもあるというのか?」

「そうだな、お前を迎えに来た」



想像もしていなかったマリンの言葉に、アーノルトの口は開きっぱなしになる。



「何だと? 勝手にこの場所へ連れてこられ、置き去りにされ、そしてまた勝手な都合で迎えに来ただと?」

「ああ、その通りだ。母の復活が近そうでな」



マリンはアーノルトに妹をむけ、歩いている。




「ふざけるな!」




マリンの背中に向かって叫ぶアーノルト。




「マリンが魔女には勝てないと言ったんだ! マリンがここは安全だと言ったんだ! それを今さら戦うだと? 冗談じゃない!」

「確かにお前の言い分も理解している。お前が本当に死にたくないのならここで死んでいればいい。だが、私はここには残らない。私には私にしか果たせない役目があるからな」



振り向き、アーノルトの目を見て話すマリン。アーノルトは膝を折り、涙を流す。



「何故、ついてこいと言ってくれないんだ……」




それはアーノルトの心の叫びだった。もちろん死にたくは無い。だが、それが一番恐れていることではない。一番恐れているのは一人になること、マリンに見捨てられ、この地で一人朽ちていくことだ。たとえどんな困難な道だろうとも、マリンと一緒ならどこまでも行くと、アーノルトは心に誓っていた。




「……それは少しニュアンスが違うな。だから私はお前についてこいとは言わない」

「ならば二度と顔を見せないでくれ。俺はここで死んでいく」



マリンはアーノルトの近くまで歩いていき、その頭を掴む。




「顔を上げろ、アーノルト。私の隣で共に歩むお前の顔がそれでは、この私の品格が問われる」



アーノルトは顔を上げる。そこに待っていたのはアーノルトがまさに待ち望んだマリンの顔だった。




「嫌……か?」




マリンが尋ねてくる。そんなわけは無かった。





「連れていってくれ、いや、隣を歩かせてくれ」

「ああ、もちろんだとも」



マリンはアーノルトに手を差し出す。アーノルトは迷わずその手を取った。







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