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スティールスマイル  作者: ガブ
第六章 神々との戦い
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episode 576 「生と死と感謝」

ルインは怒りに満ちていた。その原因はいくつかあるが、一番大きな原因は「知らない」という事だった。



冥界とは何か? マリンの目的は? なぜハデスが巻き込まれる? なぜ魔女や魔族が存在しているのか? なぜ人間を巻き込むのか? そもそも自分たち神とは何者なのか?


考えても考えても答えは見つからない。知りたくても知りたくても誰も教えてはくれない。だから怒るしかなかった。そうしていなければどうにかなってしまいそうだった。



そしてもうひとつ、一番許せないことは他の神々がマリンを受け入れていることだ。2000年間戦っておきながら、簡単にマリンを信用しているアスラたちが信じられなかった。



「くそがぁぁぁ!!」



怒りの全てをのせた拳をマリンに向かって放つ。しかし、いや当然というべきか、ルインの拳はマリンに届くことなく減速し、停止する。


「ちっ!」


一度マリンから距離をとるルインだったが、その怒りが収まることは無い。マリンに攻撃が届かない苛立ちから、地面を殴り付けるルイン。その衝撃で地面は大きく抉れ、大きな地響きが起こる。



「わっ!」



体がふわりと浮かび上がるモルガナ。辺りの木々は倒れ、鳥や動物たちが大慌てで去っていく。



「ハァハァ」



やりようのない怒りを撒き散らし、少しは発散されたかに見えたが、それでもルインの目は殺意に満ちていた。


「これ以上はまずいな……ネス」

「うん。ルイン! もう落ち着いて!」



アスラと顔を合わせ、ルインに対して力を使うネス。最大出力でルインに超重力を浴びせる。ルインの体が大きく沈み、地面に叩きつけられる。



「がっ! くそっ! 邪魔するんじゃねぇ!!」

「え、ええ!?」



ルインは力ずくでネスの重力から抜け出す。いくらハデスとの戦いで力が弱まっていたとはいえ、それはルインも同じだ。それでもネスの重力を突破できたのは、ルナからの回復と自らの回復力のおかげである。その証拠として今重力を抜け出したときに負った骨折も、回復へ向かっている。



「無様な姿だな。仲間に背を向けてまで戦う理由がどこにある?」

「てめぇはムカつくんだよ。理由なんてそれで充分だろ!」




音速を越える速度で地面を蹴り飛ばし、マリンに拳を向けるルイン。その衝撃でまたしても地面がめくれ上がる。しかしどれ程の威力を持っていたとしても、マリンが相手では意味をなさない。何度も何度も拳を突き出すが、一発たりとも当たらない。


(くそっ! このままじゃこのムカつく女の顔に当たらねぇ……考えろ、怒りを絶やさず冷静に考えるんだ)


マリンに攻撃を当てる作戦を考えるルイン。そして導きだした答えはとにかく攻撃する事だった。



(小賢しいのは無しだ。あいつに見えないくらい……怠惰の力を使うことができないくらい速く、そして強く攻撃すりゃぁ、いい話だ!)



そこからルインの動きはもう一段階速くなる。



「あ、アスラぁ、どうするの?」


ルインが移動する度にダメージを受けていく地面を見ながらアスラにすがり付くモルガナ。


「様子を見るしかない……マリンから敵意は感じられない。ここはマリンに任せよう」



アスラは奥歯を噛み締めながら告げる。






(もっと速く!)


蹴りは怠惰する。


(もっと強く!)


突きも怠惰する。


(まだだ、まだ……!)




怒りと冷静さが均等になったその時、ルインの中で最高の攻撃がマリンを襲う。それでも攻撃はマリンに届かず怠惰する……誰もがそう思っていた。しかし、実際は違った。


結論から言うと、また攻撃は当たらなかった。だが、攻撃が怠惰したわけではない。マリン自身が回避を選択したのだった。そこに居た誰もがその光景に目を疑う。マリン自身もその行動に驚いているようだった。



「避けやがったな……」



ルインの目が光輝く。一筋の希望を見つけた。




(何だ……何が起きた)


マリンは動揺を隠せない。はっきりと言えることは、あの攻撃をまともに食らえば瀕死は免れないということである。


だが、怠惰の力があれば防げたはずである。それでもそれを選択しなかったのは、マリンの本能に他ならない。


もし、怠惰が発動しなかったら? もし、怠惰をすり抜けてきたら? もし、その攻撃がメイザースの回復力を上回ったら? 怠惰の力に頼り、その「もし」というリスクを犯すことは出来なかった。




(まさか……この私が死を連想したのか?)




マリンにとって生死とは現実離れしたものだった。かつては感じていた死だが、ここ1000年以上その実感を感じたことは一度もない。死を実感していないということは、その逆もしかり。しかし、今確実にマリンは死の恐怖に怯えていた。




「クク」




思わず笑いがこぼれる。





「なに笑っていやがる」

「なに、お前には礼を言わねばならないと思ってな。大切なことを思い出させてもらった」



マリンの意味不明な言葉に、怒りの成分が多くなるルイン。



「気持ち悪ぃんだよ、てめぇは!!」




怒りに任せて拳を突き出すルイン。マリンはこんどは避けるそぶりを見せず、ただ手のひらをルインに向ける。




「怠惰せよ」

「あ?」




ルインの拳よりも先にマリンの手のひらがルインのおでこに優しく接触する。



「まずい!」



アスラが危険を察知してマリンのもとへと向かうとする。


マリンの手のひらがルインに接触した瞬間、ルインの動きがピタリと止まる。怠惰の力、その力がルインの思考を断ったのだ。この無防備な状態でマリンの本気の攻撃を受ければ、いかにルインとはいえただではすまないだろう。



だが、アスラの想像するような最悪の結果にはならなかった。マリンはルインのおでこから手を離すと、軽く突き飛ばす。倒れるルインの体を受け止めるアスラ。




「う、う」



直ぐに目を覚ますルイン。思考を一度断たれたことで、怒りまでもが怠惰する。



「もう一度言おう、感謝する」



わけのわかっていないルインに告げるマリン。





「神ども、そして人間たちよ。私は哀れな弟子を迎えにいく。そして戻り次第、母のもとへ向かうとする。逃げ出すのなら今のうちにしておけ」



マリンはそう言い残すと、作り出したゲートの中へと消えていった。

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