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スティールスマイル  作者: ガブ
第六章 神々との戦い
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episode 570 「イシュタルへの挑戦」

二人は剣を抜いた今でも信じることができなかった。目の前にあのイシュタルが存在していることに。確かにあり得ない話ではない、ここは冥界、ジャンヌも居たのだからイシュタルが現れても不思議じゃない。



「兄上、あれは本当にイシュタル元帥なのでしょうか?」

「たとえ偽物でもやることは変わらない」



二人はガッチリと守りを固めながらイシュタルの隙をうかがう。しかし、そう簡単にイシュタルに隙など見つからない。



(紛れもない。あの方は元帥本人だ)



かつてゼロたちと共にイシュタルと戦った時のことを思い出すマーク。目の前の老人はあの時と変わらず、圧倒的強者のオーラを放ちながらそこに居た。





「固い。やはり貴様らは固すぎる」



考え事をしていたマークを現実に引き戻すかのように口を開くイシュタル。



「マーク、だから貴様はいつまでたってもそこから先に進めぬ。ガイア、だから貴様はいつまでたってもジャンヌと肩を並べられぬ」



イシュタルの言葉を受けて二人の構えは更に固くなる。縮こまり、防御に徹する。


(元帥の言うとおり、だが元帥の攻撃力は侮れない。ここはむやみに攻めるよりも常に隙を見せず行動するしか……)



ガイアが作戦をたてているまさにその最中にイシュタルは目にも止まらぬスピードで二人に向かって飛び込んでくる。



(来る! だが計算上、二人ならなんとか持ちこたえられる筈!)



マークとガイアは剣を交差させ、イシュタルの攻撃を待ち構える。



しかし、イシュタルの剣はそれを容易く凌駕してくる。




「が!」

「兄上!」



ガイアの剣は真っ二つに折れ、腹に一撃を浴びてしまう。



「戦いの最中に余所見など……言語道断!!」


ガイアの方を向いたマークの反応できない速度で胸にエクスカリバーを突き刺すイシュタル。マークは一瞬で絶命する。



「マーク!」


すぐに寄り添おうとするガイアだが、既に体が寒い。傷は予想以上に深く、ガイアも直ぐに目を閉じる。





二人は直ぐに目を覚ますが、イシュタルに対する恐怖心は完全に植え付けられてしまった。



「兄上、やはりあの方は」

「口を閉じるんだ、マーク。ここから先は無駄なことは一切考えるな。元帥を越えることだけに集中しろ」



ガイアは折れた剣を拾い上げ、敵に意識を集中させる。



「ふむ、少しはましな目付きになったではないか」



イシュタルは鞘から剣を抜き、ガイアに向かって放る。


「その剣では戦えまい。軍の支給品だ」



ガイアはそれを拾い上げる。かつて軍に入った頃、毎日のように振っていた物と同じタイプだ。ダインスレイブ程ではないが、これもよく手に馴染む。



「マーク。今は貴様がエクスカリバーの継承者らしいが、その程度では剣に殺されかねんぞ」


手を震わせながらエクスカリバーを握るマークに、同じくエクスカリバーを握りながら告げるイシュタル。



「これはジャンヌ中将とローズ大佐から託された物です。俺を信じて渡してくれた物です。だから無駄にはしない。必ず使いこなして見せます」



マークの震えが止まる。それを見届けたイシュタルは小さく頷き、そして目を見開く。







「来い! 小僧ども! 命を懸けてかかってこい!」



イシュタルから猛烈な風が吹き荒れる。立っているのがやっとのほどのプレッシャーだ。だが、二人はその風の発生源に向かって歩きだす。




「「はい!」」




二人は声を合わせて応え、逆風の中走り出す。




音速を越えるガイアの突きがイシュタルの頬を掠める。


(ほう、あの時よりも更に速さを増したか……いや、ダインスレイブによって抑制されていた力が解放されたとみるべきか)


左腕で軽く傷に触れるイシュタル。生前のように完治とまではいかないが、ここでは大して問題ではない。



「安心しろ、ここでは掌握の加護は使えん」



攻めあぐねているマークの剣を凪ぎ払いながら告げるイシュタル。


(掌握のことなどはなから考えてはいない。単純に攻めきれない……兄上でさえ傷をつけるので精一杯だ)


恐怖も畏怖も無い。だが、単純に力が及ばない。こちらの攻撃は全て受けきられ、あちらの攻撃は見切れない。帝国に身を捧げた期間、そして剣を振り続けた期間が圧倒的に違いすぎる。



だからといって、マークは勝利を諦めたわけではない。なぜなら今この瞬間、マークが心から待ち望んだガイアとの共闘が嬉しくてしょうがないからだ。兄が自分を認め、自分と共に剣を振っている、その事実が堪らなく誇らしい。





「てやぁぁぁぁぁぁ!」


似合わない大声を上げるマーク。大袈裟に剣を振り上げ、イシュタルの注意を引く。もちろんガイアにイシュタルの隙をついてもらうためだ。瞬時に理解するガイアだったが、それはイシュタルも同様だ。



(本命はガイア。だがこのマークの気迫、侮ってよいものではない)



イシュタルはガイアに警戒しながらもマークから目をそらさない。マークの一撃を軽く受け止め、背後から迫るガイアに集中する。



(やはりマークは囮……!)



イシュタルの背後からはガイアの殺気が溢れている。二人の作戦を読みきったイシュタルだったが、まだ作戦が途中だということまでは気がつかなかった。


イシュタルがガイアに気をとられたその一瞬、完全にマークのことが頭から消える。侮っていたわけではない。しかし、ガイアのプレッシャーに対応するためにはそうするしかなかったのだ。本命はガイア、そう信じていたイシュタルにとってそれはごく自然なことだった。





「ごふっ!」




胸を貫かれ、吐血するイシュタル。胸にはエクスカリバーが突き刺さっている。



「マーク……レオグール……見事なり」



倒れながらマークを称賛するイシュタル。帝国最強の男は地に倒れた。

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