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スティールスマイル  作者: ガブ
第六章 神々との戦い
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episode 565 「プルート」

プルートと名乗った男は暗闇から姿を現した。体の大きさはハデスに負けず劣らず大きく、アスラのような二本の角が生えている。口元から大きな牙がこれまた二本のぞいており、一目でただの人間でないことは理解できる。そして何よりその男から感じられる気配が自分たちと似ているということが男の発言の信憑性を上げている。



「元、十闘神。そう発言したのか?」


今聞いたばかりの言葉を聞き返すハデス。発音も言葉の意味も良く分かるが、そのようなことは初耳だったからだ。



「その通りだハデス」


プルートが返答する。何故名前を知っているのか、そんなことを聞き返す気はまるでおきない。そんなことはどうでもいい。



「なんだ、その不思議そうな顔は? まさか考えもしていなかったのか? 自分たち以外の神の存在を」


プルートが飽きれぎみに言葉を続ける。全くもってその通りだった。そもそも神という存在を一番信じていないのは他ならないハデスたち十闘神なのだ。だからこそ彼らは神を名乗ることにしたのだから。



「居るのか? 俺たち以外の神が」

「無論、ここに居る」



プルートは両手を広げながらその力を遺憾なく発揮する。その大きな両手から瘴気が放たれ、暗い空間を更にどす黒く染め上げていく。


「くっ」


ハデスは迫り来る瘴気から逃れようとするが、すぐに全身を取り囲まれてしまう。



「そう身構えるな。その瘴気は魔の素質が有るものにとってはむしろ栄養だ。一番魔族に近いお前ならその効果は絶大だろう?」



プルートの言うとおり、体に害は一切無い。不快感も皆無だ。説明できないこの場所の心地よさと懐かしさは瘴気の影響だと知るハデス。



ハデスは逃げるのを止め、プルートの元に戻ってくる。



「聞きたいことは山ほどある。だが今俺がする質問は一つだ。何のために俺をここへ呼んだ?」

「世界を救うためだ。それが神の役目だろう?」






ハデスが更に質問を続けようとしたその時、頭の中に様々な映像が浮かび上がる。そこに映っていたのはマリンのゲートをくぐった人間たちだ。


「あれは……」

「マリンのゲートはここ、冥界に繋がっている」


ハデスに足らない情報を丁寧に説明していくプルート。



「我ら神、そしてマリンの目的は魔女を滅ぼすこと。しかしそれは非常に難儀なことだ。そこで私とマリンはある契約を交わした」



映像の中で人間たちは何度も死に、何度も蘇っている。



「現世では人には死という限界がある。だがその限界はここ冥界には存在しない」



死んだ人間たちは蘇る度にその力を増幅させていく。



「私は冥界への道を開き、空間をマリンに提供する。マリンはその空間で人間たちの強化に勤しむ」



人間たちは、生きているうちには到達できないレベルを幾度となく越えていく。



「だがこの契約には一つ、問題がある。ここは死の世界、ここへ訪れる事ができるのは死者のみなのだ。故に、ここへ人間を連れてくるにはその命を奪わなければならない」



プルートの姿が再び闇の中に消えていく。



「待て! どこへ行く!」


聞きたい事が後から後から溢れてくる。そもそもまだここへ呼んだ理由を聞いていない。



「いくら強くなったとしても現世へ戻れなければ意味がない。だが私には死者を甦らせる力はない。その力があるとしたらハデス、お前なのだ」



プルートの姿は完全に消えてしまう。


「私はもう永くない。死なずとも終わりは来るのだ。そして私の力を受け継ぐのはお前だ、ハデス」

「待て、待ってくれ!」






ハデスは暗闇に叫び続けたが、それ以降プルートの声が聞こえてくることは二度と無かった。







「……逝ったか」


マリンは紅茶を啜りながら呟く。


「しかし最低限の役目は果たしたようだな」


マリンは重たい腰を上げ、倒れているマークたちになにやら術をかける。


その直後、上空から力の塊が落ちてくる。爆音とともにその中心からハデスが姿を現す。





「マリン、貴様は何を知っている?」

「お前の知らない全てだ」




睨み会うマリンとハデス。




「プルートの言っていたこと、それが全て事実だとするならば、俺は何を犠牲にしても力を得なければならない。その方法も知っているということか?」

「無論だ。ここまでたどり着いたお前に一つだけヒントをやろう」




マリンは人差し指を立てる。



「かつて冥界を統べていたプルート。プルートには現世と冥界を自由に行き来する力があった。その力を失った理由は一つ。やつが冥界の王では無くなったからだ」


ハデスはなにも反応せず、マリンの話を聞いている。


「王の定義は様々だが、ここでいうそれは純粋な強さ。つまり冥界において奴よりも強い存在が現れたということに他ならない。そしてそれは勿論この私だ。だが残念なことに私には冥王としての素質は無いらしい」


そこまで聞いたハデスはマリンに向かって拳を振り上げる。



「つまり、ここで貴様をぶちのめせばいいというわけだ」

「ああ、その通りだ。だが今の私は七つの罪全てを使いこなす。お前では話にならんと思うがね」



ハデスの拳はマリンの手前で減速し、その隙にマリンはハデスの太い首に指を突き立てる。その瞬間ハデスの首は大爆発を起こし、一瞬でその命が尽きる。



しかし、ここは冥界。命の尽きた筈のハデスはすぐに復活する。



「それでいい。本気で来い」



ハデスは覚悟を決めた。何万回でも死ぬ覚悟を。




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