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スティールスマイル  作者: ガブ
第六章 神々との戦い
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episode 562 「加護強化」

フェンリーは自分でも信じられないほど力に満ち溢れていた。今まで体から氷を出しているという認識だったが、今では氷が体の一部のようだ。



(これならいける!)



かつて無い充実感に満たされながら氷を飛ばすフェンリー。体から離れれば離れるほど氷の強度は落ちていくのだが、氷を体の一部として扱えるようになった今ではそんな制約もない。氷の槍はどんどんとその飛距離を増し、ミカエルの体に突き刺さる。


「まさか我の肉体に突き刺すことができるとはな。氷とは案外侮れぬものらしい」


ミカエルは体に突き刺さった氷を指で一捻りする。氷はパラパラと崩れ落ち、きれいに空中を舞っている。



「まだだ!」




フェンリーは続けざまに地面に手をつける。すると地中の水分が凍結し、ミカエルの足元から剣山のように突き出る。範囲も速度も威力も以前とは比べ物にならないくらい凄まじく、またしてもミカエルにダメージを与える。


(おかしい、明らかに威力が増している。努力や才能で培うことができるレベルを軽く越えている。これは間違いなく神の干渉……)



ミカエルはフェンリーの攻撃を避けながら思い出したようにルナの方を見る。そして確信する、目の前の男に力を分け与えているのは間違いなくルナであると。



「ルナ、先日の二人組の件といい、お前は随分と人間に肩入れするのだな」

「アスラが敗れた。ルインも重傷を負っておる」



ルナの言葉に一瞬硬直するミカエル。その隙に大量の氷の矢がミカエルを貫く。


「ぐっ!」

「よそ見してんじゃねぇ!」



しかしそれでも力を解放したミカエルにとっては針が指に刺さった程度のダメージだ。



「小賢しい!」



背中に生えた羽を羽ばたかせ、その暴風でフェンリーを吹き飛ばす。



「ぐあっ!」



手の先から伸ばした氷を地面と結合させることで何とか遠くへ吹き飛ばされることは防いだが、許容量をこえる力を使った反動でとてつもない疲労感に襲われるフェンリー。




「アスラが敗れた……だと?」


フェンリーが落ち着いた隙にルナに聞き返すミカエル。ルナは深刻な顔で頷く。


「事は急を要する。加護を強めることで本気のお主に対抗できるのなら、それは充分戦力じゃ」

「ハデスを止めるために人間の力を借りると言うことか?」


ルナは再び頷く。


(確かに魔力への耐性が低いハデスにあの男の力は有効に働くかもしれん。しかしやつがそう簡単に協力をするとは思えん)



ミカエルの疑念どおり、フェンリーは疲労してなおミカエルに対して敵意をむき出しにしている。仲間を傷つけられた落とし前をつけさせるためならば自らの命をもかける覚悟だ。


(仲間のためか……)



ミカエルは倒れているワルターに近づく。



「てめぇ! さわんじゃねぇ!」


フェンリーがミカエルに攻撃を仕掛けようとするが、ミカエルとワルターの距離が近すぎて迂闊に攻撃を仕掛けられない。急いで駆け寄るも、既にミカエルはワルターの体をつかみ、ルナへと手渡している。



「何してやがる!!」



ルナに飛びかかろうとするも、ルナとフェンリーとの間には見えない障壁が作り出されており、近づくことが出来ない。


「開けろコラ!」

「五月蝿い人間じゃの」


ルナはフェンリーに対して悪態をつきながらワルターの体を隅々まで観察する。



(人間のレベルでよくここまで体を鍛えられたものだの。死の淵までも何度も訪れているようじゃ)



ワルターの鍛えぬかれた肉体と、おびただしい一傷に驚愕するルナ。


「治る見込みは?」

「無論、問題はない。じゃが、果たしてこの傷を治してよいものかわらわには判断がつかん」


ワルターの体に刻まれた傷はワルター自身の勲章、そうとらえるルナ。その傷を考えなしに治療してしまうことでワルターに与える精神的苦痛が想像できない以上、勝手なことは出来ないと考える。



「ならば意識だけでも回復させてくれ。そうすればそこで暴れているあの男も少しはおとなしくなるだろう」



ルナとミカエルの会話が聞こえていないのか、外のフェンリーはいつまでも叫び続けている。


「そうじゃな」


ルナは若干あきれた顔を見せながらワルターを治療する。





「ん……」

「ワルター!」


ワルターが目を覚ましたのと同時にフェンリーを遮る障壁も解除される。急いでワルターのもとに駆け寄るフェンリー。



「暴れるでない。まだ意識を回復させたに過ぎんからの。肉体のダメージはそのままじゃ」

「あ、ああ。すまねぇ」



ルナに対する敵意が完全にそがれ、素直に礼を言うフェンリー。



「悪いねフェンリー。どうやら俺はまた負けてしまったようだ」

「しかたねぇだろ、相手は神だ。そもそも挑むこと自体間違って……」



自分で言っていながら頭がこんがらがってくるフェンリー。そのフェンリーの肩にミカエルが触れる。


「この野郎……そこのねぇちゃんには頭が上がらねぇが、あんたとはまだケリがついてねぇぞ!」

「案内しろ」



まだ敵意を向けるフェンリーに冷静に告げるミカエル。



「は? 何言って」

「その仲間の元に案内しろ。まだ生きているのならルナが何とかする」


ミカエルの台詞に困惑するフェンリーだったが、目の前でワルターを治療してもらっている以上、ルナの力は認めざるを得ない。



「早くせんか。間に合わなくなった場合は貴様の責任じゃぞ?」

「わ、わかった!」



フェンリーはワルターと共にルナとミカエルを連れて宿へと向かう。






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