episode 557 「狂った獣」
怒り狂うハデス。普段は温厚な性格だが、一度リミッターが外れてしまうと手がつけられなくなる。まさに天変地異級のパワーを誇り、過去2000年幾度となく地形を変形させてきた。その度に他の十闘神で止めに入るのだが、ミカエル一人で対処するのはこれが初めてだった。
(やはりとてつもないエネルギー量だ。やつの自負する通り、肉弾戦においてハデスの右に出るものはいない。ならば正攻法は通用しない)
ミカエルの体が輝きだす。まるで細胞の一つ一つが光を放っているようだ。そのあまりにも眩しい光景に思わず目をつぶるハデス。その隙にミカエルは飛び上がり、ハデスの背後から強烈な蹴りを繰り出す。
「がはっ!」
鋼鉄の肉体を誇るハデスが明らかにダメージを受け、前方に飛ばされる。ゼロはチャンスととらえ、こちらへ飛ばされてくるハデスに追撃を加えようとするが、それよりも早くミカエルが前に立ちはだかる。
「まだ居たのか人間。我は今貴様のしでかした後始末をしている。貴様はとっとと失せるがいい」
ミカエルはそこにゼロとレイアが居ることなど一切気にせずに力を解放する。カズマとモルガナにむしられた羽が光輝き、もとの姿へと戻っていく。新しく生えた羽は爆風を発生させ、ゼロたちを容赦なく吹き飛ばす。
「っ!」
ゼロはレイアを抱き抱えながら地面を転がっていく。
「あーあ、やっぱり始まっちゃてるか。80年ぶりくらいかな?」
モルガナはハデスとミカエルの戦いの音を聴きながらため息をつく。
「いい? あなたはそこでじっとしてて。アスラがそのゲートを怪しんでるの。もしまた無理矢理通ろうとしたら今度は脅しじゃすまないわよ!」
モルガナはポカンとするフェンリーに忠告し、音の中心へと飛んでいく。
「な、なんだってんだよ……」
完全に腰が抜け、へなへなと座り込むフェンリー。ゲートは目と鼻の先にあるが、とても飛び込む気にはなれない。
「あれが神か……へへ、なるほど敵わねぇ」
神との絶望的な力の差を思い知り、へこむフェンリー。だがそこでハデスの言葉を思い出す。
「そういやあの青髪のマッチョ、俺を鍛えるとか言ってたな。こうしちゃいられねぇ!」
フェンリーは立ち上がり、モルガナの向かった方向へと走り出す。
「言葉の責任はちゃんととってもらうぜ!」
一筋の希望を見出だしたフェンリーは、その光に全速力で向かう。強くなるために、そして仲間たちを守るために。
音の中心地ではハデスとミカエルが熾烈な戦いを繰り広げていた。圧倒的なパワーを誇るハデス。ミカエルも人類から比べれば充分に化け物なのだが、ハデスは更にその上をいく。攻撃力では劣るものの、機動力で勝るミカエルはハデスの攻撃を避け続ける。正面からの打ち合いでは歯が立たないとわかっているため、関節の付け根や急所を実用品攻めるがまるで手応えがない。攻撃力もさることながら、体力や耐久力も化け物クラスなのだ。
「うらぁぁぁ!」
ハデスは既にほとんど自我を失っていた。仲間であるミカエルに対しても必殺の拳を容赦なく繰り出していく。直撃すればもちろんたが、かすっただけでも相当なダメージだ。人間の体ならばバラバラに弾けとんでもおかしくない。
「目を覚ませ! 自分を見失うな!」
声を張り上げるミカエル。しかしその効果は乏しく、ハデスの拳は幾度となく振り下ろされる。その一撃一撃が大地にダメージを与え、地割れを巻き起こす。
「くっ! レイア、しっかり掴まっていてくれ!」
ほとんど意識を保っていないレイアに声をかけ続けながら、二人の神の戦いから身を守るゼロ。生き残ることだけを考えて逃げ続けていると、上空から三人目の神が姿を現す。
「ハデス! 手加減はしない!」
先ほどミカエルに喝を入れた一撃よりも更に一回り大きなエネルギーを携えながらモルガナが上空から現れる。
「退いてミカエル!」
モルガナの声で退くミカエル。それを確認すると、モルガナはそのエネルギーの塊をハデスめがけて解き放つ。
「グガガガガガガ!!」
そのエネルギーを受け止めるハデスだったが、次第に押され、地割れの奥底へと落とされてしまう。そのあまりにも大きな威力に攻撃をした本人であるモルガナも肝を冷やす。
「あ、やり過ぎちゃったかも……」
しかしその思いも直ぐに払拭される。ほとんど無傷の状態のハデスがゆっくりと地面の奥底から舞い戻ってきたからだ。
ハデスの意識は完全に飛んでおり、目の前の獲物を屠ることしか考えていないような目付きをしている。
「モルガナ、まだ本気では無いのだろう?」
「うん、ほとんど本気だよ」
ハデスの強さを改めて前にして、二人の神は冷や汗を流す。
「グガァァァァォァァァ!」
まるで狂った獣のような動きで迫り来るハデス。
「アスラたちが戻るまでなんとしても食い止めるぞ!」
「うん!」
二人の神は世界を守るため、仲間にありったけの力をぶつける。