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スティールスマイル  作者: ガブ
第六章 神々との戦い
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episode 554 「羽」

カズマの拳がミカエルの胸板に直撃する。地平線の彼方まで飛ばそうという勢いの攻撃だったが、ミカエルの体は微動だにしない。



(か、硬ぇ……岩なんてもんじゃねぇぞ)



拳の方が砕けてしまいそうだ。ミカエルは殴られたというのにカズマの方をまるで見ていない。



「モルガナ、本当にここはメイザース大神殿か? 人の数が多すぎる」

「ん、間違いないよ。魔女はこの奥だ」



二人はカズマを無視し、神殿の中へと押し入っていく。カズマの仲間たちが止めようとするが、何の障害にもならずに掻き分けられていく。




「ざっけんじゃねぇぞ!」



無視をされたことへの怒りが二人への恐怖を凌駕する。置いてあったバットでミカエルの後頭部を狙う。


「カズマ、それはやりすぎだろ!」


アカネが叫ぶが、カズマはそれどころではない。一切の手加減をせず、金属の塊が振り下ろされる。




ガコン!



硬いものと硬いものがぶつかる音。頭蓋骨は完全に粉砕され、柔らかい脳に衝撃が伝わる。ミカエルはその場に倒れ、隣に居たモルガナは悲鳴を上げる……筈だった。



「なっ」



へしまがったのはバットの方だった。当の本人は平気な顔をして構わず進んでいく。となりのモルガナも心配するそぶりは一切見せない。



避難していた人々は二人の登場にあわてふためくかと思いきや、その真逆の行動を示していた。


「か、神様じゃ……」



老人たちは揃って手を目の前で組み、頭を下げている。子供たちは良くわかっていないが、次第に老人たちの真似をし始める。


「何してんだ! 早く逃げ……」


明らかに人間ではない二人から人々を守ろうとするカズマだったが、二人がアカネの目の前で立ち止まったことで言葉を失う。




「この子、ルナの加護を受けてる。それもかなり濃い」

「そうだな。ここまでの力を持っているのなら、さぞいきることに苦労しただろう」



圧倒的な存在を前にし、アカネはただただその身を震わせる。


「や、やめ……て」


目尻には涙が浮かぶ。あの村に連れ去られた時の事を嫌でも思い出す。恐怖で顔がひきつり、へなへなと腰が砕けてしまう。



「あーあ、泣いちゃった。もう、ミカエルの顔が怖いからだよ」

「いくら強力な力があるとはいえ、所詮は人間。我々の力に押し潰されそうになってしまっているな」



アカネにゆっくりと手を伸ばしていく、その時だった。


「……」



背中に強烈な違和感を感じ、振り返るミカエル。そこにはミカエルの羽をたっぷりとむしりとったカズマが立っていた。



「やっとこっち向いたか。よう、アカネから離れろや!」


険しい顔をするミカエルに対して叫ぶカズマ。カズマはむしりとった羽を床に叩きつけ、踏みつける。




「あーあ、やっちゃった。ミカエルは羽をさわられるの凄く嫌がるんだよね。なのにむしるなんて……」

「あ?」



モルガナがそそくさとミカエルの隣から退散する。その直後、ミカエルから激しい殺気が溢れだす。突風が吹き荒れ、そこに居たすべての人々に恐怖が伝染していく。




「覚悟はいいな?」




ミカエルの殺意のこもった眼差しに、完全に硬直してしまうカズマ。死の一文字だけが頭に浮かぶ。



(死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬのか? 死ぬのか!?)



足が動かない。頭が回らない。目の前で膨れ上がっていく殺意になすすべが無い。アカネも、他の仲間たちも、そこに居た避難者たちも動けないまま血の気が引いていく。



カズマは知るよしもないが、ミカエルの力の膨れ上がり方は組織崩壊時と酷似していた。このままではこの建物はおろか、この国ごと消滅しかねない勢いだ。そうなれば残るのはミカエルとモルガナ、そして封印されている魔女だけだ。








「こら! いい加減にしなさい!」









モルガナが杖を振る。するとミカエルの頭上にエネルギーの塊が出現し、そのまま彼に落下する。とたん、ミカエルから放たれていたエネルギーは消滅し、ミカエル自身はその反動で気絶する。



「もう、みんなごめんね!」



モルガナは動けなくなったミカエルを引きずりながら神殿の奥へと進んでいく。もうカズマにそれを止めるだけの気力は残っておらず、アカネたちと一緒に一人の女の子を見送る。




「だ、大丈夫か!」


暫く立ち尽くした後、アカネのもとに駆け寄るカズマ。アカネはまだ座り込んだままだ。



「うん、なんなんだよあいつら」


カズマの力を借りて、なんとか立ち上がるアカネ。足がまだ震えている。



モルガナは奥の祭壇へと向かったようだ。あそこは固く閉ざされており、アカネたちでも開けることができない。何があるかもわからないが、あそこに近づくと何故か意識が朦朧としてしまうので誰も近づこうとはしていなかった。



「きっとあの部屋の関係者なんだ。もしかしたら、ううん、もしかしなくてもあたしらにとって良くないことが起きる……」


アカネの震えは止まらない。あの二人に前に立たれた瞬間、過信していた自らの力がいかに小さいものかと言うことを思い知らされた。



「と、止めるってのか? あの化け物の力見たろ!?」


声が裏返ってしまうカズマ。とてももう一度あの二人に立ち向かうことはできない。



「でも今ならあの女の子だけだよ。あたしらで何とかしないと、みんなが……!」



アカネの言葉で振り返るカズマ。そこには震えながら祈りを捧げている避難者たちの姿があった。



「行くっていうのかよ、そんなに震えてるのに」

「行くよ。これがあたしらの使命だから」



二人はニヤリと笑い合う。そして体を支えながらモルガナを追いかけて祭壇へと向かった。



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