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スティールスマイル  作者: ガブ
第六章 神々との戦い
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episode 549 「地獄」

「く、ここはどこだ……」



皆が消えたのではない、ガイアがどこかに飛ばされたのだ。風景は著しく変化しているが、空気はまるで変わっていない。間違いなくここはあの世界だ。


傷はもう癒えている。もとの世界なら死んでいてもおかしくないほどだったのだが、痕すら残っていない。



「マリン……」



ガイアはあてもなくさ迷い続ける。まるで出口の無い迷宮だ。風景は全く変化せず、前に進んでいるのかさえ怪しくなってくる。


いくら歩いても疲れることはなく、永遠に歩き続けられる。どれ程の時間がたったのだろう、もう見当もつかない。一時間、一年、十年、いやもっとかもしれない。全く時間の感覚が無い。



(そうか、これが地獄……俺がしてきた行いの末路というわけか)




軍人、それは国のために戦う存在。いくら国の人々を救うためとはいえ、やっていること自体は殺し屋と変わらない。もしかしたら戦争の途中に一般人を巻き込んだかもしれない。いや、間接的ではあれ確実に巻き込んでいる。


ガイアほどの軍人であれば殺害した人数は二桁では足らない。それほどの憎しみを、怒りを、怨念を背負ってきたのだ。当然行き着く道は平坦な場所ではない。



(セレーネ、お前と同じ場所には行けなかったよ)



今から12年前、妹セレーネと両親を失ったガイア。当時5歳のマークはそのショックで記憶を失っており、ガイアはセレーネと両親の存在を隠してきた。だが、ここではもうその必要はない。


ガイアが既に死んだと聞かされてから最初に考えたのはセレーネのことだった。ジャンヌにも会えたのだからセレーネにも会えるのではないかと信じていた。だが、ここが地獄だというのならその望みも叶わない。



ガイアはまた歩き出す。まだここが地獄と決まった訳じゃない。それを確かめるまで立ち止まるわけにはいかなかった。だが、その直ぐ後にガイアは思い知る。ここが地獄だということを。





「あれは……」




その大地で初めて人を見つけた。男だった。ここが地獄だとするならば間違いなく悪人だ。用心しながら近づくガイア。


近づいても男が誰なのかはわからない。分かったのは男に耳が無いことくらいだ。ただでさえ怪しい見ず知らずの人物ならば、深く関わらない方がいい。男から離れようとするガイアだったが、あろうことかその男の方から声をかけてきた。



「お前、まさかガイア・レオグールか?」

「何?」



男が近寄ってくる。ガイアは剣に手をかけ、警戒する。



「は、はは、ははは!」



嘲笑う男。ガイアには何が何だかわけがわからない。



「何だお前は、俺を知っているのか!?」



男の顔に酷く嫌悪感を覚えるガイア。全く見たことの無い顔だったが、心の底から怒りが込み上げてくる。


困惑するガイアを見て更に愉快に笑う男。



「そうか、死んだか! あの方に殺されたのか? え? どうなんだよ!?」

「あの方? マリンの事か!? 貴様、魔族の関係者か!」



ガイアの返しに首をかしげる男。言葉の意味が良くわかっていないようだ。



「マリン? 魔族? 一体何のことだ? 俺が言ってるのはこれだよ」





男は左腕に付いた傷をガイアに見せつける。それを見た瞬間、ガイアは硬直し、手にしていたダインスレイヴを地面に落とす。




「バカな……その傷は……!」




あの時、確かに目に焼き付けた。セレーネと両親を殺した男の左腕にも、同じ傷があった。



「これはあの方の、あの方に忠誠を誓った者の証だ。そうだよガイア・レオグール、俺はカグラを襲った大尉の部下さ!」



その後も男はなにやら騒いでいたが、それ以上ガイアの耳には入ってこなかった。



「なんだぁ? 黙りこくって。よっぽどショックだったのか?」


男はガイアを心配するそぶりを見せながら剣を抜く。



「あのゼロとかいうガキに殺されてから退屈でしかたなかったんだ。せっかくこれ以上死なない体を手にいれたんだから少し遊ぼうぜ!」



疲弊するガイアに容赦なく向かっていく男。ガイアは何の抵抗もせずに体を斬られる。


「は? 少しはやる気出してくれよ。俺は弱いものいじめが嫌いなんだ」


ガイアが抵抗しないとわかると、剣をおさめる男。



「何かやる気のでるいい方法はないかな? そうだ! 俺を楽しませてくれたらあの方に会わせてやるぜ?」

「ふ、俺たちはもう死んでいるんだ。今さら復讐など……会うことすらできないのだからな」



ようやく口を開いたガイアだったが、その言葉に覇気はなく、心ここにあらずといった様子だった。



「実はあの方はあの後神様とやらに殺されちまってな。俺程度の悪党でここに連れてこられたんだ、きっとここのどこかにいるぜ?」

「何だと?」



ガイアの目の色が変わる。あの男に会えるかもしれない、家族の無念を晴らせるかも知れない。




「どうだ、すこしはやる気出たろ?さあ、俺を楽しませて…… 」


はしゃぐ男の右手にガイアの剣が食い込む。


「なっ!」


ガイアの攻撃は全く見えなかった。




「悪いが楽しませることはできない。だが俺の復讐の練習には付き合ってもらうぞ」



ガイアの顔には生気が戻っていた。それを見た男は腕をおさえながらニヤリと笑う。



「ハハハ! 予想以上に楽しめそうだ!」



死者と死者、決着のつきようのない戦いが始まる。














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