episode 542 「マークVSアスラ」
神々が鎮座する広場へとやって来たマーク。既に両の剣を抜いている。
「何のようだ小僧。我々にその剣を返しに来たのか？」
アスラがマークを睨み付ける。マークは剣を握りしめ、神々への恐怖を堪える。
「そこを通せ。俺は兄上のもとへと行く」
「愚か者が。何のために我々が此所に居ると思っている？」
立ち上がるアスラ。ただでさえ二メートル近くあるアスラの肉体がさらに大きく見える。戦わずとも自分とは存在が違うと思い知らされる。
「あなた方がそこに居ることに意味かあるように、俺がここに居ることにも意味がある。だから、行かなくてはならない」
剣を構えるマーク。
「貴様、出身は？」
「……カグラだ」
マークの返答を聞いて少し困ったように頭をかくアスラ。
「スサノオめ、厄介な者を遺して逝く……」
一瞬の間があった後、アスラは神々から離れてマークの方へと歩いていく。
「貴様程度ではマリンの言う試練を乗り越えられんだろう。どうしても行くと言うなら俺に力を示してみよ」
「無論だ！！」
使いなれた左手のウォーパルンを前に出しながらアスラに飛びかかっていくマーク。
水の加護を持つウォーパルンは刀身を自在に操ることのできる剣だ。刀身を消して敵の防御をすり抜けて、敵の体に確実にダメージを与える。それは勿論神々にも周知の事実である。それ故にアスラは一切の防御行動を取らない。体ではなく心で受け止めるためだ。
アスラの行動に戸惑いながらも剣を振る以外の選択肢が無いマーク。
(何故防御しない？ 何らかの加護を使うつもりか？ 無駄だ、こちらにはエクスカリバーもある)
右手に握ったエクスカリバーに力を込めるマーク。神の力にエクスカリバーの加護はほぼ無力だが、それを知らないマークは迷うことなくウォーパルンを振り下ろす。
「食らえ！」
刃はアスラの服をすり抜け、肉体に到達したところで実体化する。相手が人間ならば体の中に刀身が現れれば死は免れない。
「ぐっ」
アスラは小さく声を上げる。マークの剣はアスラの体を貫くには至らなかったが、確実にダメージを与えた。
「水の剣か……ルナの剣だな」
アスラは実体化したウォーパルンの刀身を素手で握りしめ、マークの体ごと持ち上げる。
「しまっ」
「遅い！！」
急いでウォーパルンの実体化を解こうとするマークだったが、それよりも速くアスラの拳がマークの顔面に到達する。マークの体はボールのように飛んでいき、一瞬でその意識を奪う。
「あーあ、ありゃ死んだんじゃねぇのか」
ルインが特に興味を示すでもなく、この退屈な時間を嘆きながら、飛んでいくマークを横目で見ている。
「わらわの剣を持ちながらあのていたらく……がっかりじゃな」
ウォーパルンの作成者であるルナも実に残念そうに悪態をつく。
「そしてあの剣はアレスの物か。まったく何故あの程度の使い手を所有者として認めているのか」
ホルスの興味はマークの右手にあるエクスカリバーに注がれていた。
「どうやらまた誰か来たようだな。今度は楽しめるといいが」
ハデスがマークを抱き抱えながらやって来たシオンに期待を膨らませる。
シオンは既に怒りに震えていた。マークを止められなかった自分、自分の意見を聞き入れなかったマーク、そして何より……
「神様のくせにまーくんをいじめるなんて許せない！！ 私が仕返ししてあげる！！」
マークを地面に下ろし、拳を構えるシオン。既にその拳は凍りついており、殺意に満ちていた。
「また貴様か。懲りるという言葉の意味を知らんらしい」
「そうだよ、私はシオン・ナルス！」
自己紹介をしながら殴りかかるシオン。
「初めから全力でいくよ！ 第参の形！ 奥義！ 氷牙三連拳！」
氷の牙がアスラの体に命中する。右、左と連続で突きを浴びせるとアスラの腹は完全に凍りつく。そしてその凍りついた腹を両手の掌底で打ち砕く。氷は粉々に砕け散り、アスラの体も粉砕される筈だった。
「無駄だと、まだわからないか！！」
アスラにほぼダメージは無い。僅かな硬直の後、反撃を仕掛けてくる。
「効かないことはわかってる。でも、無駄じゃない！！」
シオンはアスラの僅かな硬直の間に次なる奥義の準備を完了させていた。シオンの周りを冷気が漂う。
「さみぃ！」
ルインが体を震わせる。ルインだけではない、他の神々にも影響が出始める。無論、アスラにも。
(なんだこの異様な寒さは。この女から放たれているというのか！？)
「氷牙拳法奥義！ 第拾の形！」
シオンの足元がスケートのリンクのように凍りつく。摩擦を消したことにより、シオンの足は限界を越えたスピードでアスラに突撃する。
『氷牙十連拳！』
シオンの持てる力をすべて使い、最強の神にその氷の牙を再び届かせる。
