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スティールスマイル  作者: ガブ
第六章 神々との戦い
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episode 538 「ジャンヌの試練」

辛うじて受けたジャンヌの剣。彼女の剣はどこにでもありそうなごく普通の剣だ。それに引き換えガイアの剣は伝説の七聖剣ダインスレイヴ。だというのに圧されてしまう。押し返すことができない。



「一応言っておくと私はもう死んでいるからその剣の加護は通用しないわよ?」


ダインスレイヴの最大の強みはその加護にある。敵味方問答無用で命を吸い取り、自らの力とする。自分自身も力を取られてしまうので扱いにくい剣だが、その力は絶大だ。相手によっては何もせずに一方的に倒すことができる。


しかし、ジャンヌの言うとおりジャンヌとの相性は最悪だった。ジャンヌからはエネルギーを吸い取ることができず、ガイアだけが吸いとられてしまう。



(一度距離をとり、体勢を立て直すべきか? いや、下がれば二度と前には進めない)



ガイアは剣に力を込める。


「あら? まだこんな力があったのね」


ガイアの反撃に感心するジャンヌ。だがそれで形勢が逆転するわけではない。





「あの女の強さ……一体どこであれほどの力を」


改めてジャンヌの力を目の当たりにしたアーノルトが思わず言葉をもらす。


「あれが天性というものだ。世界に愛されて生まれてくるとああなる。おまけにアテナの加護まで受けているときた。並大抵の人間なら立ち向かうことすらできんだろうな」


マリンは依然として立ち尽くしているローズとリザベルトの様子を見ながら答える。


「あの二人は完全に萎縮しているな。姉に立ち向かう、そう言った思考すら持ち合わせていないのだろう」


つまらなそうに呟くマリン。





ローズとリザベルトは考えていた。別にこのままでもいいのではないかと。


ここはいわば永遠の世界。ガイアの傷が一瞬で回復したところからして現実とは世界の構造が違うようだ。死人が生きているのだから当然と言えば当然だが。例えるならばそう、夢の中。二人にとってはまさに夢の世界だった。



「姉上が生きている。ここにいればずっと一緒に居られる」


危険な思考を抱くリザベルトを咎めることができないローズ。心の片隅ではローズもそうしたいと願っているからだ。このままジャンヌとリザベルトと三人で過ごせたらどれだけいいか、考えただけで顔がにやけてしまう。






「マリン、この空間は一体なんなんだ?」




ようやく気持ちの整理がついたアーノルトが疑問をマリンに投げ掛ける。


「ここは私の力で作り出した空間だ。いや、空間という表現は正しくはないか。ここはこの世とあの世をつなぐ橋のような場所だ。どちらかと言えばあの世側に近いがな」


マリンの言葉を受けて辺りを見渡すアーノルト。先程までは全く気がつかなかったが、地平線の彼方が黒く染まっている。あそこに足を踏み入れたらもう二度と戻ってくることは出来ないと確信する。


「もしここで私の力が解除されればここにいる全ての魂は強制的にあの世へと持っていかれる。無論死ねば二度と生き還ることはない」


またつまらなそうにローズとリザベルトを見下すマリン。


(やはり彼女たちには無理だったか)


二人はただそこに居るだけだ。生きているのか死んでいるのかすらわからない。



「ぐっあ!!」


ガイアが吹き飛ばされる。身体中に傷を刻み、地面を転がる。



「あなたの力はそんなものでは無いでしょう? 少なくとも初めて会った頃のあなたはそうではなかったわ」



ジャンヌもマリンと同じように残念そうな目線をガイアに送る。



「ガイア、死んでまであなたを苛めたくは無かったのよ? でもあなたが弱いのがいけないのよね?」

「ええ、全くもってその通りです」



ガイアは剣を杖がわりに立ち上がる。傷は直ぐに消えるが、ジャンヌに対する想いは変わらない。



「遠慮は要らないわ。ここを貫きなさい」


ガイアの想いを知ってか知らずか、ジャンヌはかつてガイアに貫かれた胸を指で指す。



「ごめんなさいね。本当は私も一緒に戦ってあげたかったんだけれど……」


涙でも流しているのではないかと錯覚するほど悲しそうな顔をするジャンヌ。その顔を見てガイアは思い出した。


「いえ、それは俺の役目です。あなたはゆっくり休んでください」

「そうね。あなたに託したものね」


まっすぐ前を向き、見つめ合う二人。こんな場所で剣を握っていなければいい雰囲気に見えたかもしれない。いや、二人にとっては満天の星空の下なんかよりも今、こここそが最高の舞台なのだろう。




「大佐! 中尉! 済まないが少しの間目を閉じていてくれないか。お前たちには見せたくない」



ガイアは二人に背を向けたまま叫ぶ。それを聞いたリザベルトはまた目の前で姉が殺されるのかと不安になり、ジャンヌに駆け寄ろうとする。だが、今度はローズがそれを止める。



「姉上……!」

「わかっているだろう、リザベルト。姉上はもう死んでいるんだ」



リザベルトに対してだけではない。自分自身に対してもそう言い聞かせるローズ。


これはガイアだけの試練ではない。本当はローズもリザベルトも姉に立ち向かわなくてはならない。だが、今その役目はガイア一人が背負っている。ならばせめてこの戦いは目をそらさずに見届けよう、ローズはそう心に誓う。



ガイアにもう迷いはない。ジャンヌを憧れの対象から乗り越えるべき壁として捉えるガイア。今度は真っ直ぐとジャンヌに剣を向ける。





「いくぞ中将!」

「来なさいガイア!」




ガイアは今、最強と認めた剣士に向かって剣を振り下ろす。








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