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スティールスマイル  作者: ガブ
第六章 神々との戦い
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episode 536 「アーノルトの試練」

神々は動かない。彼らに試練など必要ないからだ。当然マリンも神々がやって来るとは思っていない。




ゼロは先に進めずにいた。ゼロだけではない、そこに居た誰もがマリンのゲートに近づこうとはしなかった。ただ一人を除いて。


アーノルトは迷わずにゲートへと足を踏み入れる。後ろで誰かが止めようと声を上げているが、そんなことは気にしない。アーノルトが迷う理由など存在しないのだから。




「ここは……」


ゲートをくぐりぬけた先は草原だった。気持ちのいい風が吹き、アーノルトのすさんだ心を癒してくれる。自分が今まで何をしてきたのかを全て忘れてここで過ごしてもいいのではないかと思えるほど輝かしい場所だった。


その大地の中心には見覚えのある人物の姿が。初めはマリンかと思ったが、どうやらそうではない。近付くのを躊躇ったが、その人物の顔が読み取れると自然に足が動く。気がつけば駆け足でその人物のもとまでやって来ていた。




「久しぶりだな、アーノルト」

「イルベルト、なのか?」



そこに居たのは紛れもなくイルベルトだった。自分たちを救うために犠牲となり、一足先にあの世へと旅立ったはずだが、確かに今目の前にいる。



「話したいことは色々ある。だが、そんな時間は残されてはいない」

「どういうことだ?」



それは言葉に対しての問いかけではない。イルベルトから発せられた敵意に関してだ。イルベルトからの返答は無い。変わりにアーノルトの頭上にイルベルトの空間が現れる。



「なに、遠慮いらない。俺は既に死んでいるのだから」



言葉と共にアーノルトの頭上の空間からエネルギーの塊が落ちてくる。


「くっ!」


困惑しながらもそれを回避するアーノルト。イルベルトが生き返ったのかと淡い期待を抱くが、どうやらそうではないらしい。そもそも本当にイルベルトなのか、または何者かに操られているのかもしれない。


イルベルトの攻撃は辺りの空気を巻き込みながら消えていく。あれほど心地のよかった風はもうそこには無い。



「勘違いしないように言っておくが、俺は本物のイルベルトだ。何かに操られているわけでもない。マリンの力によって一時的にこの空間に留まっているだけだ」


イルベルトは攻撃の手を緩めること無く、アーノルトの疑問の答えを口にする。



「それが本当だとして、何故戦わねばならない!」

「試練だからさ」



アーノルトの四方八方に異空間の扉が開く。そこからはかつてイルベルトが閉じ込めた攻撃や衝撃が顔を覗かせている。





「俺を乗り越えていけ、アーノルト。そうしなければ魔女には勝てない」





攻撃がアーノルトめがけて一斉に発射される。避けても避けても攻撃は終わらない。アーノルトの肩を槍が貫き、足を弾が貫通する。頭に斧が食い込み、腹の肉を突風がこそぎとる。ボロボロになりながら倒れるアーノルト。魔族の力を受け継ぎながらもダメージは計り知れず、辛うじて生きているだけの屍となる。



その様子を別の次元から見下ろすマリン。



(アーノルト、お前の肉体はこれ以上の成長は見込めない。ならば精神をその先へと進めるしかない)



肉塊となったアーノルトの体を瞬く間にもとに戻る。



「ここは現実世界とはかけ離れた空間だ。いくら死のうとも死にはしない」



そういうイルベルトだが、その体に走る痛みは本物だ。仮に肉体が滅ばずとも、何度もこんなことを繰り返していれば精神の方が崩壊しかねない。



「やるしか、無いということか」

「そういうことだ」



アーノルトの姿がイルベルトの視界から消える。瞬間、イルベルトの右腕が消える。左腕まで飛ばされるのを防ぐため、すぐさまイルベルトは自らの空間に姿を隠す。


(アーノルト……)


切られた右腕を嬉しそうに見つめるイルベルト。


(そうだ、お前は強い。あとはその強さをどう生かすかだ)


イルベルトの腕は直ぐに元通りになる。そしてイルベルトは再びアーノルトの待つ空間に戻っていく。アーノルトに殺されるために。




「アーノルト。最後に聞きたい」



待ち構えていたアーノルトに告げるイルベルト。



「仲間は、見つけたか?」

「見つけるさ。お前の他にもな」



アーノルトの答えに安心し、笑顔になるイルベルト。その笑顔を目に焼き付け、アーノルトはイルベルトに終止符をうつ。




「良くやった。これでお前は一つ先に進んだ」



消えていくイルベルトと引き換えに、背後から迫ってくるマリン。



「何が望みかは知らない。貴女の考えもわからない」


かつての友をもてあそばれたといかりが込み上げるアーノルト。もしイルベルトとの別れが笑顔でなければ、マリンに手をあげていたかもしれない。



「理解は必要ではない。必要なのは強さだ。本当の意味でのな」


何かを察するマリン。どうやら次の挑戦者がゲートをくぐったようだ。



「せっかくだ、お前も見ていけ。人が己を越えていく瞬間を」



マリンはアーノルトを連れて次元を飛び越える。こちらから先ほどまで居た空間に干渉することはできるが、その逆はできない場所へと移動する。



「さあ、来たぞ」



三つの影がマリンの空間に姿を現した。自分自身を越えるために。










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