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スティールスマイル  作者: ガブ
第二章 モルガント帝国
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episode 54 「最強」

何度吐いたのだろう。覚悟はしていた。だからと言ってそう簡単に克服できるものではない。


まともに睡眠がとれないまま船はベルシカに到着した。


休憩を取ろうとレイアが提案するが、強がってそれを断るケイト。嫌なことはさっさと済ませたかったからだ。


レイアの案内でフェンリーの家に向かう三人。どんどん大通りからそれて人気のない路地へ進むレイアに不安そうなリース。


「ほ、本当にこんなところに家があるのですか?暗いです。それに心なしか寒いです。」

「もう少しですよ。」


気にせずレイアぐんぐん進む。ケイトも嫌な顔をしてついていく。

フェンリーの家に近づくにつれて、どんどん気温が下がっていく。ぶるぶる震えるリース。


「ちょっと寒すぎますよ!人が住める気温じゃないです!」


確かに前に訪れた時も多少は寒かった気はしたが、今回は異常なほど寒い。よく見ると地面が所々凍結している。フェンリーの家が見えてきた。


「これは・・・!」


レイアは驚愕した。


フェンリーの家は完全に氷に埋もれていた。窓もドアもすべて凍り付き、当然入ることはできない。そもそもフェンリーがここにいるかも怪しい。


「どうするの?」


ケイトは心の中でガッツポーズしながら心配そうにレイアに聞く。


その時、突如大きな音をたてて入り口付近の氷が砕ける。驚く三人。それと同時に中から強烈な殺気が発せられる。反射的にその場を去ろうとするが、中から現れたフェンリーにいきなり襲われ、まず最初に一番近くにいたリースがフェンリーに首根っこをつかまれる。抵抗する暇なく瞬時に全身凍らされてしまうリース。氷塊と化したリースを捨て置き、すぐさま狙いをレイアに変更する。悲鳴をあげる暇なく捕まるレイア。が、ようやく訪問者が誰なのか気づいたのか、手を放すフェンリー。


「レイア・・・か?」


恐怖で動けなくなっているレイアと、同じく凍らされたかのように沈黙するケイトを交互に確認し、ようやく殺気が収まるフェンリー。


「すまねぇ。怪我しなかったか?」

「わ、わたくしは平気ですがリースさんが・・・」


フェンリーは先ほど自分で凍らせた女性に目をやる。


「大丈夫だ、まだ生きてる。俺に任せろ。」


フェンリーはリースを抱えて家の中へと入っていった。三十分後、フェンリーは一人で戻ってきた。なぜか顔に大きな手形をつけて。


「リースさんは大丈夫なのですか!?」


フェンリーは真っ赤に腫れ上がった頬を指さして答える。


「ああ。大丈夫だよ。」


レイアとケイトはフェンリーに連れられて家の中へと入る。家の中は以前よりも荒れており、所々へこみや崩れがある。リースは浴室にいた。大量のタオルを体に巻き付けて。


リースはフェンリーの顔を見るなり、近くにあった石鹸を投げつける。


「こ、ここここのケダモノ!レイアさん、ケイトさん、すぐに離れて!この男いつの間にか浴室にいたんです!それだけじゃないです!まじまじと私の体を見つめて、体を触っていたんです!」


顔を真っ赤にして興奮するリース。


「落ち着いてくださいリースさん。何も覚えていないのですか?」

「え、そういえば私なんでお風呂に。というかここはどこ・・・」


記憶が蘇るリース。今になって強烈な恐怖が襲ってくる。戦場でも味わった事が無い、まさにレイリーと対峙した時のような激しい恐怖が。


「いきなり襲って悪かったな。だが体を触ったことは不可抗力だ。そうしないとお前は死んじまってたからな。」


フェンリーがリースに謝罪する。そんなフェンリーのがら空きの背中に頭突きを食らわせるケイト。が、フェンリーに大したダメージはなく、逆にケイトがしりもちをついてしまう。


「な、なにやってんだ。」

「本当に最低。死ぬかと思った!」


ケイトはよっぽど怖かったのか涙を浮かべている。


「すまなかった。おちびちゃ・・・いやケイト。」


ケイトは満足したのか涙を拭いてレイアの隣に座る。リースは凍って濡れてしまった服を乾かしている間、浴室に籠った。



「いったい何があったというのですか?」


フェンリーの異様な警戒態勢、家の中の戦闘の痕。ここで何かあったのは明白だ。フェンリーは怒りをあらわにして語り出した。


「組織のエージェントに、俺の仲間が殺された。」


組織を倒すための計画実行中に一人のエージェントと接触したこと。その際計画がばれてしまい、エージェントと戦闘になったこと。そのエージェントの圧倒的強さにその場にいたほとんどの仲間が殺されてしまったこと。生き残った仲間を連れてなんとかここまで避難するものの、見つかってしまったこと。仲間が身を挺して自分を救ってくれたこと。


サングラス越しのフェンリーの目元は凍っていた。涙を能力でごまかしているようだ。


「そうだったのですか。」


うつむくレイア。


「それで?お前たちは何しに来たんだ?帝都には行けたんだろ?」


これまでのいきさつを話すレイア。


「そうか、にわかには信じられねぇ話だな。記憶喪失に帝国最強の兵士か。よし!俺も力を貸そう。」

「ふぇ!?」


話の流れ的にダメだと思っていたが、あっさり引き受けると言われて思わず変な声が出てしまったレイア。


「もちろん交換条件を出す。俺たちは仲間じゃねぇからな。」

「は、はい。何でしょうか?」


フェンリーはにやりと笑う。



「俺の敵討ちに協力してもらう。もちろんケイト、おまえにもだ。」


不意打ちをくらってビクッとするケイト。


「そ、それはゼロさんにも話してみないと。」

「ああ。それからでもいいぜ。話せるのならな。」


意地悪に笑うフェンリー。そんなフェンリーの様子をみて、レイアに耳打ちするケイト。


「そんな約束守らなくていい。ゼロを取り戻したら、逃げよう。」

「嘘をつくのですか?ダメですよそんなこと。」

「聞こえてるぞ。」


口を押えるレイア。やれやれと首を振るケイト。


「で、どうする?」


選択肢はなかった。


「わかりました。ケイトちゃんもお願いいたします。」


はぁとため息をつくケイト。


「よし!早速モルガントに向かうとするか!」

「その前にそのエージェントの方について教えて頂けませんか?」

「お、そうだな。」


フェンリーが語った言葉に、相手が誰であろうともゼロの敵じゃないと思っていたケイトは度肝を抜かれた。



「奴の名はアーノルト・レバー。暗殺を司る、組織最強の殺し屋さ。」


動揺してすっころぶケイト。それをみて大笑いするフェンリー。




「はっはっは。さあ、一緒に死にに行こうぜ!」

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