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スティールスマイル  作者: ガブ
第六章 神々との戦い
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episode 526 「集いし神々」

神と魔族によって吹き飛ばされた大地に八人の神が集結する。何もなくなった寂しい大地が光輝き、喜びに打ち震えている。


アスラ、ネス、ハデス、ルイン、ホルス、ミカエル、ルナ、モルガナ。一人で一国を滅ぼせるレベルの戦力がなんの変哲もない土地に集結する。絶妙なバランスで大地がもっているが、少しでも均衡が崩れればたちまち崩壊してしまうだろう。あの時組織本部の島が跡形もなく消し飛んだ時のように。



「一応聞いておく。考えを改める気は無いのだな?」


ミカエルが凍てつきそうな視線でアスラに尋ねる。とても仲間に向ける視線とは思えない。



「もう既に決めたことだ。偽りもなければ改めるつもりもない」


アスラの意思に揺らぎはなく、六人の神を前にしても一歩も引き下がらない。



「それが世界を崩壊に導くとしてもか」

「それが世界を守るために必要なことだ。これまでの二千年間、我らは魔族と戦い続けた。その度にどれだけの犠牲が支払われた?」



アテナとスサノオの顔が頭に浮かぶ神々。何にも変えられないとてつもない犠牲だ。



「その犠牲のツケを、連中はまだ支払っていない」


ハデスが口を挟む。今にもマリンたちに飛びかかりそうな形相で睨み付けている。



「怖いよ、お姉ちゃん」

「安心しろ。やつらの力をもってしてもお前の力は突破できん」


怯えるヨハンに声をかけるマリン。



(それも私が生きていればの話だがな……)


今のマリンの力ではとても六人の神相手には通用しない。こちらの味方に付きつつあるアスラとモルガナの力を借りたとしてもそれは変わらないだろう。そもそも仲たがいするぐらいならアスラとモルガナがこちらに付く筈がない。圧倒的な力で一方的に蹂躙されてそこで終わりだ。




「ここで争えばこの地は確実に滅びるぞ」

「ここで争わなければこの星が滅びる」



すたすたと歩きながら反論するホルス。マリンのすぐそばにまで近寄る。



「何のようだ?」

「スサノオは最期に何と言っていた?」


マリンを穴が開きそうなほど睨み付けるホルス。




「命を懸ける……そう言っていたが?」

「そうか……」



その言葉を聞くとホルスは人差し指を一本立てる。そしてそれを目にも止まらぬ速さでマリンに突き立てる。ヨハンの怠惰の力がなければ、間違いなくマリンの体はその指によって貫かれていただろう。



攻撃は間違いなく防いだ。だというのにマリンは動揺を隠せなかった。マリンは二千年もの間、怠惰の力と向き合ってきた。だからこそこれで何かを防ぐとき、その与えられた負荷がどの程度のものなのかよく理解できる。



(たかだか指一本の力でここまでとはな……)



それはマリンの想像を遥かに越えていた。その威力だけではない、そのスピードも完全に規格外だった。



「厄介な力だな」


マリンがその心中を口にするよりも早くホルスが口を開く。



「スサノオが命を懸けたのなら、俺も命を懸ける。当然貴様にも命を懸けてもらわなくてはな」



言葉と共にホルスの姿が目の前から消える。



「お前たち! ここで争うな!」


アスラが叫ぶももう止まらない。ホルスだけではない、気がつくとアスラとモルガナ以外の全ての神々の姿が消えている。





「アスラ、止めないと!」

「わかっている! おい、貴様ら!」



マリンとヨハンに声をかけるアスラ。


「直ぐに逃げろ、このままでは……」


アスラの予感通り大地が揺れ始める。それは次第に大きくなり、地面は隆起と陥没を繰り返していく。



「お姉ちゃんやばい?」

「ああ。私たちはもちろんのこと、この世界がな」



考える暇もなく神々の攻撃が次々と二人を襲う。攻撃をすべて受け止めるヨハンだが、音速を越える猛追に大地が耐えられない。



「地面が壊れていくよ……アスラ! 私たちの世界が……!」



涙を流すモルガナ。マリンたちに対する怒りはもちろんあるが、今はそれどころではない。自分たちが命がけで守った世界が消えていく、その悲しみが全てを塗りつぶしていく。それを見ていたアスラは静寂する。




「覚悟はできているんだろうな、お前たち」




アスラの回りの空気が変わる。


「ヨハン! 退避だ!」

「お、お姉ちゃん?」


アスラのただならぬ気配を感じ取ったマリンが慌てて声を上げる。神々の攻撃よりも、そのアスラの気配の方が何倍も警戒せねばならないものだった。




マリンは急いで魔族のゲートを作り出す。そこに飛び込んだのとほぼ同時にアスラの背中から四本の腕が生えてくる。



「よく目に刻んでおけ、ヨハン。あれが神王と言われるアスラの本当の力だ」


ゲートが閉じるその時までアスラの姿を目に焼き付けるヨハンとマリン。その直後にはモルガナを除いた六人の神々は地に伏していた。



「あ、アスラ……てめえ……」


血反吐を吐きながら立ち上がろうとするルイン。しかし彼女の足腰は言うことを聞かない。ルイン同様に立ち上がることすらできない他の神々。唯一ハデスだけが何とかアスラに向かって這ってくる。



「そこまでしてあの魔族を庇うというのか。我々を殺してでも我を通すというのか!!」


血と言葉を吐き捨てるハデス。肉体が怒りと悲しみに震えている。



「二度は言わん」


アスラはそのハデスに容赦なく追撃を加え、ハデスはそこで意識を失う。ハデスにつられるようにして次々と倒れていく神々。そしてその最後にはアスラ自身も意識を閉ざす。ただ一人、モルガナだけが地面にちょこんと座り込む。



「私、もうわかんないよ。何が世界のためなのか……」



一人空を見上げると、空は何も答えずただそこにあった。神や魔族のことなど全く気にせず、二千年前から変わらずそこにあった。

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