episode 525 「降り注ぐ閃光」
一発で大地を抉り、星そのものにダメージを与える攻撃だ。人体に直撃すれば瀕死は免れない。かといって避ければ攻撃は星に直撃し、これだけの数が同時に突き刺されば星そのものが崩壊しかねない。
「おい魔族」
アスラがマリンとヨハンに語りかけてくる。
「貴様らは宇宙空間でも生きられるのか?」
「死んでも復活する言った方が正確だが、それがどうした?」
アスラはマリンたちに背を向け、空を見上げる。
「俺たちは死んだらそれまでだ。貴様らが世界を滅ぼしたいならこのまま黙って見ていればいい。だが……」
アスラは天に向かって拳を突き上げる。衝撃は降り注ぐ光と衝突し、相殺する。
「本当にこの世界を救うというのなら、力を貸せ。……不本意だがな」
アスラの言葉を聞き終えると、マリンは傲慢の力で体を闇へと変化させる。そして暴食の力を併発させ、空へと飛び上がる。
「もちろん協力させてもらおう」
光は次々にマリンの闇に飲み込まれて消えていく。しかし当然全ての光を吸収しきれる筈もなく、いくつのかの光は地上を目指して落ちていく。
「任せてお姉ちゃん!」
ヨハンは光に向かって突っ込んでいく。落下予想地点に到達すると、両手を広げて光を待ち構える。光はヨハンの目の前で停止し、そして消える。
「なかなかやるな。だがずさんだ」
光を止めるマリンとヨハンだが、所々取りこぼしがある。それをひとつ残らず叩き潰すアスラ。
三人の協力によって無事星は守られる。
「はぁはぁ、これだけやればさすがにあいつらも……」
力を使いきり、地上へと降りていくモルガナ。そこで待っていたのは疲労困憊の魔族ではなく、アスラと称え合う魔族の姿だった。
「ひとまず礼は言っておく」
「気にするな。我々のためでもある」
怒りが込み上げてくるモルガナ。魔力はほとんど残っていないものの、残りの力を振り絞って二人の間に力をぶつける。
「何やってるのよ!!」
横から飛び出してきたヨハンがそれを防ぎ、モルガナを睨み付ける。
「お姉ちゃん、やっちゃう?」
「よせ。話をややこしくするな」
せっかくアスラとの間に歩み寄る隙を作ったというのに、再びそれを台無しにしようとするヨハンを咎めるマリン。
怒りの収まらないモルガナに歩み寄るアスラ。
「モルガナ、お前の怒りはわかる。だが今お前がやった行為はとても看過することはできない」
「そ、それは……」
自分のしてしまった事の重大さに気がつくモルガナ。一歩間違えれば自分が星を破壊してしまうところだった。
「俺は魔族の話に耳を傾けてみるつもりだ」
反省しかけたモルガナだったが、そのアスラの発言に耳を疑う。
「聞き間違いだよね? そいつらはアテナとスサノオを殺したんだよ!!?」
「だがそれと同時に我々も魔族を葬っている」
レヴィとメディアはアテナが、オルフェウスはルインとハデスがそれぞれ殺している。
「だからなに!? 魔族が何人死のうが私たちには関係ない! そもそも私たちの目的は魔族を滅ぼすことでしょ!?」
アスラの言うことが全く理解できないモルガナ。
「やっぽりやっちゃおうよ」
「黙っていろ」
魔族をバカにされて腹の立つヨハン。マリンは手を出さず、黙ってアスラの動向を見守る。
「俺はもう決めた。異論があるのはもっともだが、世界のためにはそれが一番いい選択だと信じている」
アスラは真っ直ぐした目でモルガナを見つめる。
「いつもそうだ。いつもアスラはそうやって決める」
不満たらたらの顔をするモルガナ。
「でも、アスラの言うことはいつも正しい……」
自分をおし殺し、マリンたちの前へと歩いていくモルガナ。
「私はお前たちを絶対に許さない。でも、お前たちを信じるアスラを信じる」
マリンとヨハンに手を差し出すモルガナ。無理やり笑顔をつくり、歩み寄ろうとする。その差し出された手にあろうことか唾を吐きかけるヨハン。
「やれやれ……」
頭に手をかけるマリン。してやったりという表情のヨハンに対して、顔を真っ赤にしてプルプルと震えるモルガナ。
「お前みたいにガキに信じてもらわなくてもいいよ!」
「ぶっ殺してやるー!!」
以前モルガナに全く歯が立たなかった事を根に持っていたヨハン。モルガナを強く拒絶する。モルガナは杖でベシベシとヨハンを叩くが、怠惰の力で全く効かない。
「むきぃ!!!」
「止めろモルガナ。時間の無駄だ」
モルガナの首根っこを掴み、止めるアスラ。それでもモルガナはバタバタと暴れている。
「止めるのはお前の方だ。アスラ」
またしても天から声がする。今度は低く、響く声だ。
「ミカエル……」
空を見上げながら呟くアスラ。現れたのは組織本部を崩壊させた張本人、ミカエルだった。
そして、現れたのはミカエルだけではない。
「ほう、全員集合か。よっぽど危機感を覚えたらしい」
ゾクゾクとした空気感の中、マリンが声を上げる。
「はわああ! お姉ちゃん、これヤバイんじゃ……!」
ヨハンはあわてふためき今にも泣き出しそうだ。
「アスラ、いくらあんたでもこればっかしは勝手には決めさせねぇ」
マリンを睨み付けるルイン。
「そうじゃ。ぬしの一存で決めてよい範疇をゆうに越えておる」
ゆらゆらとした袖をなびかせるルナ。
「まさかそこの女狐にそそのかされるとはな」
真っ赤な目でアスラを軽蔑するホルス。
「アスラ、ここで終わらせてしまおうよ」
包帯の隙間から黒い肌を覗かせるネス。
「大賛成だ。怠惰の力とやら、この俺の拳で打ち砕いてくれようぞ」
アスラよりも一回り大きい拳に力を込めるハデス。
ここに今、神々が集結した。