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スティールスマイル  作者: ガブ
第六章 神々との戦い
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episode 524 「人間の定義」

「お姉ちゃんは僕の後ろにいて!」



小さな体でマリンの前に立つヨハン。向かってくるアスラから身を守ろうと必死だ。


アスラは一切躊躇せずに突っ込んでくる。恐らくもう目の前の二人を滅ぼすことしか考えていないのだろう。姉であるマリンを守ろうとするヨハンの姿勢に腸が煮えくり返るアスラ。



「姉弟愛か!? 虫酸がはしるわ!! 貴様らのせいでこの世界が滅びかけたというのに……」



唇を噛みしめながら渾身のストレートを繰り出すアスラ。マリンに向けられたその拳だったが、それはマリンに届く前に手前のヨハンの前で減速する。


「っち!」


やはり拳が届かない。一度距離をとるアスラ。



「勘違いしてもらっては困る。人間どもを滅ぼしかけたのは私でもそこの愚弟でもなく、母だ」

「我々人間にとっては同じことだ」



アスラの発した人間という言葉に思わず吹き出すマリン。



「人間? 人間だと!? クハハハ。お前たちは自身を人間だと言い張るつもりか?」



その滑稽な表情にヨハンは戦慄する。姉であるマリンがこんな顔をして笑うところを見たことがなかったからだ。






「私たちとお前たち、違いがどこにある? 魔族と神、確かに根本的には別の存在だ。だが、この世界に生きる生物という点では変わらない。言葉を話し、同じものを見て、同じ事を感じ、同じように生きて、そして死ぬ。我々と人間に違いがあるとすればそれは肉体ぐらいのものだ」

「何が言いたい……?」



ぎろりとマリンを睨み付けるアスラ。




「お前は自身を人間だと言ったな? つまりは似た存在である我々のことも人間だと認めたということだ」



マリンの言葉にアスラの怒りは度を越す。



「言葉には気を付けろ、貴様らが人間だと? たかが言葉を話す獣どもが!」

「では人間の定義とは何だ?」





その質問にアスラは凍りつく。その質問の答えが見つからないからではない。世界の定義でいえばマリンたちは充分に人間という枠にあてはまるからだ。それを認めたくない、なんとしてでも否定したい。だがそれを否定してしまえば、マリンの言うとおり自分たち神も人間という枠から外れてしまう。





「なんだというのだ……貴様は!!」





怒りの限りを地面にぶつけるアスラ。大地が割れ、大地震が辺りを襲う。




「私は私さ。お前がお前であるように」




マリンはヨハンの肩に手を置き、前へと出ていく。


「あ、お姉ちゃん!」


止めるヨハンを無視してアスラのもとへと歩いていく。




「話をしようじゃないか。人間」



手を差しのべるマリン。今ここでマリンの顔面に拳を叩き込めば一撃で殺せるだろう。マリンを殺せばヨハンの力は暴走し、倒すことも簡単だろう。魔族を滅ぼせば魔女の復活もなくなり、永久的にこの世界には平和が訪れるだろう。今、ここですべてが終わらせられる。



が、アスラはそれができなかった。体力は有り余り、マリンに対する怒りも一向に収まる気配がない。にも関わらずできない。目の前の存在が一体何なのだかわからない。二千年もの間、牽制し合っていたというのに正体がわからない。



魔女は敵だ。それは変わらない。が、魔族とは何だ? 魔女の子供? そもそも子供の定義とは? 生物でいう定義の子供とは魔族はかけ離れている。魔族の力を司る欠片が魔女の一部だということは真実だろう。だとするならば魔族とはあの欠片のこと。




ならば、今目の前にいるこの女は誰なんだ?






「魔族と神、協力しようじゃないか。世界を救うために」




アスラは差しのべられた手に対してどういう反応を示したらいいのか分からなかった。


簡単に手をとれてしまえれば、どれだけ楽だっただろうか。あるいはそういう未来も有ったのかもしれない。


ここで無防備なマリンを殴り殺せたら、どれだけ楽だっただろうか。以前のアスラなら迷わずそうしていただろう。



だが、今は考えてしまっている。マリンの言葉に耳を傾けてしまっている。話をしてもいい、そう感じてしまっている。もしかしたら歩み寄れるのではないか、幻想を抱いてしまっている。








「何してるの! アスラ!」






そんなアスラを現実に引き戻すかのように天から声が響く。


「面倒な奴め……」


マリンは天に浮かんだ少女を見つめながら呟く。その姿によく見覚えのあるヨハンも空に向かって吠える。



「あー! お前はあの時の!!」

「まだ生きてたんだね。アテナとスサノオは死んだのに……!!」




十闘神モルガナ、彼女は魔族を憎んでいた。世界を壊したからとか魔女の子供だからとかそんなことは関係なかった。ただ単純に仲間を殺されたから、その理由で魔族に対して敵意を向ける。



「アスラがやらないなら私がやる! 絶対に仇を討ってやるんだから!」



モルガナは杖を高々と上げる。すると天候が崩れ、空が黒く染まり始める。


「モルガナ、落ち着くんだ。今ここで暴れればタダでは済まないぞ」

「なら早く殺してよ! 二人を殺したそいつらを!!」



アスラが説得を試みるもモルガナは杖を引っ込めはしない。




「もう、死んじゃえ!!」



杖を振り下ろすモルガナ。すると黒く染まった空から一筋の光が落ちていく。その光はマリンの手前で地面に突き刺さり、そのまま奥深くへと進み、地層を突き破り、マントルにまで到達した。


激しい振動が地表を襲う。




「モルガナ!!」




アスラの表情が変化する。このままでは星が危ないと悟ったのだ。



それでもモルガナは止まらない。今度は両手を上げる。すると1つではなく、いくつもの光の輝きが天に現れる。




「これで終わり!!」




両手を振り下ろすモルガナ。百を越す光が降り注ぐ。





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