episode 53 「対抗手段」
「そのフェンリーという方も加護を受けているのですか?」
リースの問いかけに頷くレイア。
「はい。フェンリーさんは生まれつき触れたものを凍らせる事ができたそうです。リースさんの話が事実なら、間違いなくフェンリーさんもイシュタルさんと同じ境遇でしょう。」
ケイトは相変わらずフェンリーが嫌いなようで、まともに話を聞いていない。
「そもそも、あのおっさんが、協力してくれるの?」
それに関しては正直レイアにもわからなかった。今まで何かと協力はしてくれていたが、それは利害が一致していたからであって、決して仲間として行動していたわけではない。
「とにかくベルシカに向かいましょう。フェンリーさんは悪い人ではありません。きちんとお願いすれば引き受けてくださいますよ。」
非常に楽観的な考えだが、今はそれしか思い付かなかった。
三人はローズのもとへ報告に向かう。なぜかそわそわしているローズにフェンリーのもとへ向かうことを伝えるレイア。
「わたくし達、ベルシカへ向かおうと思います。」
「そうか、できれば私も同行したいのだがリザベルトから連絡がないのが気になる。私はリザベルトを探しに向かう。リース、二人をよろしく頼む。」
「はい!お任せください大佐!」
拍子抜けするほど簡単に外出を許してくれたローズ。よっぽどリザベルトの事が気がかりなようだ。レイアもリザベルトの事は心配だが、そちらはローズに任せフェンリーにすべてをかける。
フェンリーに会うこと事態もそうだが、ケイトにはもう一つ嫌なことがあった。ベルシカは他国だ。海を越えなければならない。つまり船に乗らなくてはならないのだ。だがここで自分だけ行かないわけにもいかない。
覚悟を決めるケイト。
リースは正直港へは向かいたくなかった。あそこは死の臭いが染み付いてしまっている。レイリーの手によって数えきれないほど同僚、部下、上司を失った。自身も大切な髪を奪われ、両足と心に消えない傷を負わされた。だがローズに直接頼まれた以上、これは任務だ。何よりもレイアとケイトの力になりたかった。
レイアはひたすら前へ進み続ける。立ち止まると心が折れてしまいそうだから。
軍の名前を出すと、あっさりと船を一隻出してもらうことができた。明日にはベルシカに到着するそうだ。
船に乗ってから重大なことに気がつくレイア。
「あ!モグラさんの事をすっかり忘れていました!呼んで参ります。」
船を降りようとするレイアを止めるケイト。
「いいよ、どうせ寝てるだけだし。」
そんなこと、と思うレイアだったが、それもそうかと呼びに行くのを中断する。
船が出港して三十分もしないうちにケイトの様子がおかしくなる。
「う、おぇ。」
ケイトの背中をさすりながら船室へとはいるレイア。リースは一人甲板に残される。
「はじめての海外旅行がまさかこんな形で実現されるなんて。」
軍人にとっての初海外は任務による事が多い。リースもその類いだが、気持ち的には大分楽だった。国内においても同年代の女の子との旅行すらしたことがないリース。
物心ついた頃には父の影響で軍に入ることを決意し、十二の頃父が戦死し、すぐに軍に配属された。それからは正に軍に捧げた六年間だった。憧れであるローズの軍に入隊してまもなく、ゼロが現れた。あの時リースはローズの役に立とうと、ゼロのことなど考えもせず必死に頑張った。しかし今となってはきちんと自分で考えて行動すればよかったと後悔している。
「ゼロさん、私はあなたにきちんと謝罪がしたいのです。お願いです。レイアのためにも、私のためにも、どうか記憶を取り戻してください。」
リースは神に祈った。自分には加護を与えてくれなかった神に。神にすがった。その神に魅入られた者に対抗するために。




