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スティールスマイル  作者: ガブ
第六章 神々との戦い
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episode 511 「憧れと絶望」

太陽のような黄金色の金髪。海のように透き通った青い瞳。その片方を眼帯で覆い、背中には二本の剣を背負っている。



「君は……レオグール中佐!」

「ヴァルキリア大佐。まさかここで貴方に会うとは思いもしませんでしたよ」



現れたのはガイアの弟であるマーク・レオグールだった。マークはローズに挨拶を済ませると足早にゼロのもとに駆け寄ってくる。



「久しぶりだな。ゼロ。イシュタル元帥の一件以来か」

「お前は確か……」



あの時の記憶はほとんどない。それほどにまでゼロは極限状態にあり、マークの姿はほぼ視界に入ってはいなかった。ゼロから見たらマークはたいして印象には残らない存在だったが、マークからしたらゼロはイシュタルにとどめを刺した存在だ。




「申し遅れた。俺の名はマーク。帝国軍中佐にしてガイア・レオグールの弟だ」



マークは胸に手を当てながらゼロに自己紹介をする。



「なるほどな。確かにガイアの面影がある。それで? 俺に聞きたいこととは何だ?」



ゼロがそう尋ねると、マークは膝を折り、ゼロに向かって頭を下げる。



「頼む! 俺を……兄上のところまで連れていってほしい!」




マークの話を聞くため、一行は公道からそれた広場に集まっていた。


「それで? 君はガイアを追いかけてきたってわけだね?」

「はい、まさかあなたまで居るとは、フェンサー大佐」



マークの事情を聞くワルター。ワルターは困ったように腕を組み、マークに話しかける。



「君の気持ちはよく分かる。俺だってもし妹が同じ目にあったら追いかけるさ。あまりにも危険だからね」


マークの立場に立ち、気持ちを押さえながら続けるワルター。



「でもね、君の場合は違う。仮に君が准将のところに行ったとしよう。それでどうするんだい? 君にできることは何もないだろう?」


確かにワルターの言うとおりだ。マークの知るガイアの目的はレヴィを捕らえること。その目的を達成するためにマークができることはせいぜい囮になることくらいだ。



「それでも、俺は兄上の助けになりたいんです!」



マークは残された片方の目で真っ直ぐとゼロたちを見つめている。マークに真実を知らせるべきかどうか迷っていた彼らだったが、マークの覚悟を汲んで伝えることにした。



「マーク。お前に伝えることがある」


ゼロはゆっくりと語りだした。あれからのこと、ガイアのこと、レヴィのこと、神のこと、魔族のこと、そしてこれからの自分達の目的を。





「そんな……レヴィ元帥が魔女の子供?」



信じられないといった様子のマークだったが、思い当たらないふしが無いわけでもなかった。


(確かにレヴィ元帥は色々と不明な点が多かった。年齢も出身も家族構成もわかっていない。そして何よりもあの強さ……)


マークはレヴィの化け物じみた強さを思い出す。まさか本当に化け物だったとは考えもしていなかったが。




だが、そんなことよりも今大切なのは、ガイアが魔族との戦いを続けていることだ。よりにもよって帝国を襲った殺し屋と手を組んでまで。



「ならばなおさら兄上のもとに行かなければ……」

「正直、私は反対だ」



立ち上がろうとするマークに強い口調で意見するローズ。マークも立ち上がるのをやめ、ローズの方に顔を向ける。



「君はまだ魔族という生き物について知らなすぎる。やつらは人間がかなう相手ではない。その魔族に対抗できる数少ない人間が准将どのだ。姉上が居ない今、准将どのは我々人類の希望なんだ。そこに君がのこのこと付いていき、准将どのの足手まといになったらどう責任をとる? いや、責任をとることすらできずに殺されるのがおちだ!」



声が荒ぶるローズ。マークはここまで感情を露にするローズを見たことがなかった。


「今、姉上が居ないとおっしゃっていましたが……」

「ああ。我々の姉、ジャンヌ・ヴァルキリアは戦死した」


まるで稲妻に打たれたかのようだった。ジャンヌが死んだという事実は、それほどにまでマークに衝撃を与えた。



「そんな、中将がやられた? 魔族にですか!?」



マークの質問にローズは答えない。ただ下を向いているだけだったが、死んだということが本当なのだということだけはマークに伝わる。それを理解したとたん、マークの体から力が抜け、気力や希望までもが消えていく。



「それが魔族っていうれんちゅうさ」



答えないローズの代わりにマークの心にとどめを刺すワルター。マークは完全に心が折れてしまった。




マークが一生かかっても敵わないと感じていた人物が三人居る。


一人は兄であるガイア。同時期に軍に入ったものの、ガイアの成長速度は恐ろしいほどに早く、歴代最高のスピードで将官にまで登り詰めた。何かにとりつかれたかのように常に剣を振っており、時折恐怖さえ感じた。


二人目はイシュタル。マークとガイアが軍に入ったころから軍の最高戦力として君臨しており、一度たりともその席を退いたことはなかった。伝説の七聖剣エクスカリバーを持ったその姿はまさにマークの憧れで、戦ったあの時も改めて力の違いを見せつけられた。


そして三人目がジャンヌだ。ヴァルキリア三姉妹といえば帝国で知らぬ者は居ない。その長女であるジャンヌはまさに高嶺の花。手を伸ばすことすら躊躇させる至高の存在だった。敬愛する兄よりも序列が高く、剣の腕も優劣つけがたいほど凄まじいものだった。




その三人の内、二人までもが魔族によって命を奪われた。そしておそらく残りの一人も……そんな考えが頭から離れない。ワルターやローズの言うとおり、自分のせいでそういう結果になる可能性すらある。



「ローズ、少し言い過ぎではないですか?」


マークの絶望した表情にいたたまれなくなったレイアがローズに声をかける。


「いや、これでいいんだ。これで……」


ローズはそれっきり口を開かなくなった。レイアは胸が苦しめられる。単純にここの空気が悪いのもそうだが、マークにかける言葉が見つからないのだ。


マークはしばらく動くこともできなかった。思考ができているのかすら怪しい。ゼロはその小さなマークの背中を見つめ続けていた。





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