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スティールスマイル  作者: ガブ
第六章 神々との戦い
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episode 507 「見せられない顔」

薄暗い倉庫の中で、一人の少女が涙を流していた。目、口、鼻にはそれぞれ機械が取り付けられており、少女が流した体液が自動的に採取されている。


止めなくてはならないと考えている涙は止めどなく溢れてくる。



「カズマ……ゼロ……助けて」




声にならない声で呟く少女。ゼロたちの危機を何度も救ってきたアカネは今、村に捕らえられていた。







数日前、村の警備隊が新たな食料を求めて遠出をしている時だった。彼らが発見したのは食料では無かったが、それを遥かに凌駕する魅力を放った一人の少女だった。


少女の名はアカネ。とある教会にて被災者たちを支援する活動をしていた。健気で献身的な性格の少女だったが、特出すべきは彼女が受けた加護の力だ。彼女の体液にはありとあらゆる怪我や病気を治す力があった。


あの力を何としても手にいれたい。戦争中の警備隊にとってそれは当然の考えだった。これほどの貴重な力を持ちながらも、彼女の警護についているのはちんぴらたちと一人の男だけだった。数人の警備隊でかかれば難なく彼女を奪えるだろう。


そう思っていた。


確かに戦力は他の圧倒的にこちらの方が上だった。チンピラと、常に村を守るために訓練を重ねている警備隊とでは当然大きな力の差がある。アカネを守るカズマという青年でさえ、警備隊には敵わなかった。


いくらやってもその結果は変わらない。だが、カズマとチンピラたちは諦めなかった。傷だらけになっても、何度も何度も立ち向かってきた。警備隊とてここで殺しを行うつもりは無かったのだが、それをせざるを得ないほど彼らは食らい付いてきた。


警備隊が警棒からナイフに装備を変えた時だった。アカネはカズマの後ろを離れ、自ら警備隊の方へと歩いていく。



「アカネ! 行くな!」

「いいんだよ。お前らが死んだら誰がここを守るんだ」



無理矢理笑顔を作りながらアカネは捕らえられた。




「ちくしょう……ちくしょぉ!!」


それでも立ち向かってくるカズマ。しかしそのカズマも数人の警備隊に滅多打ちにされ、あえなく意識を失った。



「懸命な判断だったな、娘」


警備隊隊長は、今にも泣き出しそうなアカネに囁く。そしてこぼれた涙を掬うと、カズマによって傷を負わされた隊員に塗りつける。すると恐ろしい早さで傷は癒えていき、あっという間に完治した。



「素晴らしい……」



隊長はアカネの能力に惚れ惚れし、彼女を監禁した。それから村では幾度となく劇薬の開発が進められた。途中失敗もあり、普通なら死を待つしかない怪我や病気を患った者もいた。しかしこちらにはアカネがいる。何度失敗しようとも命の危険は無かった。そして出来上がったのが例の毒薬である。隊長たちが知る良しもないが、この毒は組織の殺し屋であるヤンが作り出したものとほぼ同一のものであり、その威力は絶大だ。本来ならば解毒剤が存在してこそ意味をなすものだが、彼らにそれは必要ない。万能薬を無限に生み出す装置を手にいれているのだから。







その装置の存在が今、ゼロによって暴かれようとしている。武力によって秘密を守ろうとするものの、フェンリーとジャックに返り討ちにされてしまった。



「さて。そこまでするということは、それなりの秘密があるわけだ」



ゼロは倒れている隊員たちを通りすぎ、硬直する隊長に近づいていく。



もう残された道はこれしかない。隊長は腰につけた剣を抜き、自らの首めがけて突き刺す。が、ゼロの放った弾丸によって剣は隊長の手から弾かれる。隊員は力なく地面に伏せ、頭を垂れてゼロに降伏する。



「頼む。見逃してくれ。あれは我々にとって必要なものなんだ。あれがなければ我々は……」

「とにかく話せ」



隊長は観念して全てを話し出す。話の途中でアカネのことだと確信したゼロは、怒りを抑えきれずに隊員を殴り付ける。




「外道が!」

「がはっ!」



口を切りながら地面に叩きつけられる隊長。すぐさま追撃をしようとするゼロの地面を凍らせ、動きを封じるフェンリー。



「やめとけ。とにかくその子を助けに行こうぜ」

「……ああ。助かった」



フェンリーに礼を言うと、ゼロは倒れている隊長を無理矢理立ち上がらせる。



「案内しろ」

「わかった……」



隊長は素直に指示にしたがう。いまゼロを刺激すれば間違いなく殺される、そう確信していた。村を守るためなら死など大したことはないが、ここで自分が殺されればゼロは手当たり次第に村を襲ってアカネを探し出すだろう。そうなれば無関係な村人が被害にあう、それだけは避けなければならない。



ゼロたちが案内されたのは小さな小屋だった。小屋というよりは物置に近く、とても人が生活できるようなスペースはない。それを見ただけでもゼロの怒りはふくれあがる。



「まず始めに落ち着いてほしい。彼女に命の危機はない」

「当たり前だ。そんなことがあればどうなるか貴様はよくわかっているだろう」



隊長を睨み付けるゼロ。



「心を落ち着かせたら扉を開く。いいな?」


念を推す隊長。ゼロは小さく頷く。言われた通り心を落ち着かせるが、現れたアカネの悲惨な姿を見て心が一気に乱れる。彼女は完全に体液を搾り取るだけの道具とされており、とても人道的な方法とは思えない形で栄養をとらせていた。ペットとして扱われていたレイアがかわいく思えるほどだ。





ゼロの頭の中で、何かが音をたてて崩れる。






「安心しろ……生きて」

「貴様は死ね」




フェンリーとジャックが止めることの出来ないほどのスピードで隊長の脇腹を蹴り上げるゼロ。隊長は息が止まり、もがきながら空中を舞うゼロは怒りながらも冷静に銃に弾を込め、ゆっくりと隊長の眉間に照準を合わせていく。



「ジャック! 頼む!」

「ああ!」



フェンリーはジャックに声をかけ、ジャックはそれに答える。銃を構えると隊長でもゼロでもなく、拘束されているアカネに向かって放つ。その一発でアカネの拘束は完全に破壊され、アカネの体が小屋の外に投げ出される。




「死ね」


引き金に手をかけるゼロ。


「駄目ぇ!」


そのゼロに飛びかかるアカネ。ゼロの弾は狙いが逸れ、隊長の頬を掠める。アカネは落ちてきた隊長に自分の涙を塗り、頬の傷を治していく。



「どけ! その男を生かしておいてはならない!」


アカネの後ろから銃を構えるゼロ。もう殺意が押さえきれない。




「いまのその顔、レイアちゃんに見せられるのかよ」



ふとアカネが呟く。



「なん……だと?」



ふと我にかえるゼロ。今自分が誰に銃を向けているのかを認識する。しかし、それでも隊長に対する殺意が鎮まるわけではない。それをわかっているアカネはゼロに抱きつく。



「頼むよ……そんなゼロ、見たくないよ」


アカネの涙がゼロの服に、心に染み込んでいく。アカネの力かどうかは定かではないが、ゼロの心が落ち着いていく。



「ああ、すまなかった」



ゼロは一言謝罪し、アカネの背中を優しく擦った。





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