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スティールスマイル  作者: ガブ
第六章 神々との戦い
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episode 505 「帝国とヴァルキリア」

ゼロはゆっくりと進んでいく。それとは対称的に村人たちは激しく荒ぶっている。入り口ではローズが必死に抑え込んでいるが、溢れ出すのは時間の問題だ。



「ゼロ! 戻ってきたか!」


安堵の表情を浮かべるローズ。そのローズを無理矢理突破し、ゼロの前に飛び出してくる団長。



「ルーチェは何処だ!!」


顔をしわくちゃにする団長。ゼロは後方で待機しているルーチェを指差す。




「ルーチェ!」


団長は急いでルーチェに駆け寄り、人目もはばからずにルーチェに抱きつく。




「ルーチェ、ルーチェ! 怪我はないか? 何かひどいことはされてないか?」

「ちょっと落ち着いてっ!」



周りの目が気になるルーチェは磁石のように自分に張り付く団長を無理矢理引き剥がす。



「怪我はないわ。そこのレイアとケイト、それにあっちのゼロが助けてくれたもの」


ルーチェはわざと大きな声で団長に告げる。団長はレイアとケイトの方を向くと、地面に思い切り頭を擦り付けながら土下座をする。




「本当にありがとう。そして申し訳なかった。あなた方にはどれだけお礼とお詫びをしてもしたりない!」




額から血が流れるほど擦り付ける団長。団長に対してよく思っていないレイアもさすがに見ていられなくなり、ケイトと一緒に団長を起こす。



「もう構いませんから頭をあげてください」

「そう言っていただけると助かる」



レイアたちの力を借りて起き上がると、団長は再びゼロの元へと戻っていく。ゼロの前へとたどり着くと腰につけていた短剣を地面に置き、手を後ろに組んでゼロに胸を差し出す。




「なんの真似だ?」

「殴れ」



団長の返しにさらに疑問がふくれあがるゼロ。


「俺を殺さない程度に好きにしてもらって構わない。なんならそこの短剣を使ってもいい。お前なら殺さない程度に切り裂くことも可能だろう」



確かに大きな血管を避けて切れば出血で死ぬことはないだろう。そうしてもいいほどゼロの怒りは大きかったが、気がかりなことが二つほどあった。



「ワルターとクイーンはどうした?」

「彼らは睡眠薬で眠っているだけだ。じき、目が覚める」


すらすらと答える団長。嘘では無いらしい。



「それを聞いて安心した。これで貴様を痛め付けることになんのためらいもない」


ゼロは落ちている短剣を拾い上げる。それを遠目で見ていたルーチェはあわてて飛び出しそうになるが、レイアがそれを引き留める。



「ちょっと、明らかにおかしい雰囲気よ……信じていいのよね?」

「ええ。わたくしとゼロさんを信じてください」



父親が殺されるのではないかというのに笑って信じろと言うレイア。そしてルーチェもその笑顔に飲み込まれて信じてしまう。




「最後に聞く。貴様とルーチェの関係は?」

「父と娘だ。言っておくがルーチェに手はださ……」



団長が言い終えるよりも速く、手にした短剣を団長に向かって突き刺すゼロ。その刃は団長の耳の横で彼の毛を数本切り落とす。パラパラと落ちていく毛を黙って見つめる団長。




「気は済んだ」



そう言ってゼロは短剣を団長に返すゼロ。きょとんとする団長の横を通りすぎ、レイアたちの方に戻ってくる。




「信じていました」

「何をだ?」



ゼロを笑顔で迎えるレイア。ルーチェは急いで父のもとへと向かう。




ルーチェが戻ったことで村人たちのやる気はさらにアップする。


「お父さん、もう争いはやめて! 向こうの村ももう襲ってこないわ!」


ルーチェは必死で父の体を揺する。ゼロの圧力からようやく解放された団長だが、ルーチェを誘拐されたことに対する怒りは収まらない。



「なら好都合だ。こちらが受けた分はきちんと返させてもらおう」


団長の一声で村の人々も全員が声を上げる。このままでは本当に戦争になりかねない。




「なぜこれ以上争う? ろくな結果にはならないぞ」

「お前たちには感謝している。だがこれは別の話だ。それともあちらの村の連中を庇わなければならない理由でもあるのか?」



ゼロの質問に答える団長。もちろんそんな理由は無い。むしろ逆だ。



ちらりとローズを見るゼロ。ローズは何かを伝えようとしている。何か考えがあるようだ。



「行くぞ!」



団長が叫ぶ。村人たちの怒号が響き渡り、もはや武力をもってしか止めることは出来ないだろう。




ゼロは空に向かって銃を放つ。醸し出す殺気と相まって、いきり立つ村人たちの動きも止まる。



「少し黙れ」



そう言うとゼロはローズのもとへと歩いていく。



「すまない、私では止めることができなかった」

「構わない。何かあるんだな?」



ゼロの質問にコクりと頷くローズ。何かを待っているようだ。暗い顔をしていたローズだったが、何かを見つけると大きく手を振りだす。




「ここだ! ここに運んでくれ」



大声で何かを呼ぶローズ。やって来たのは数人の兵士だった。兵士たちは何かを運んでおり、やがてそれが食料だとわかると村人たちの目が変わってくる。




「これは帝国からの差し入れだ! 無償でこの村に提供させてもらう! ただし他の村への侵略を行うというならば渡すことは出来ない!」



村人全員に聞こえるように叫ぶローズ。顔を見合せ、少し考える村人たちだったが、腹ペコの彼らの答えは決まっていた。武器を捨て、兵士たちの持つ食料へと群がっていく。



「やってくれたな」



団長も持っていた短剣を収め、村人たちの収拾へと向かう。




「たしか帝国はまだ復興中のはずだ。これほどの食料を用意できる余裕は無いだろう」


満足げな表情のローズに問いかけるゼロ。



「ああ、今の帝国にその力は無い。だが、我々ヴァルキリアにはそれなりの財産がある」


にっこり笑って答えるローズ。彼らの食料を賄ったのはほとんどジャンヌの遺産だが、ローズはこれでいいと考えていた。姉であるジャンヌもきっとこうすると信じているからだ。



「さあ、私たちも食事にしよう!」



ローズは珍しく上機嫌で村人たちの渦に飲まれに行った。





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