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スティールスマイル  作者: ガブ
第六章 神々との戦い
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episode 502 「刺激」

兵士は一切の抵抗を見せなかった。ゼロはおろか、ケイトにすら立ち向かうことができずに縮こまっている。ルーチェからはあれほど大きく見えた兵士の去っていく姿も、今ではとても小さくみえる。



「さっさと歩け」



多くは語らないゼロだったが、それでも兵士は恐怖で顔がひきつっている。


(バカな……これ程の殺気を纏った男がローズに負けるわけがない。ふざけるな、顔を合わせることすら出来ないじゃないか)



ケイトに巻き付けられたロープを引きずりながら歩く兵士。足は特に拘束されていないので横の雑木林に入り込めば逃げることが出来るかもしれない。横目で雑木林を見ながら歩く兵士。隙をうかがってみるが、一向にそのチャンスは訪れない。



(ゼロはともかくこのチビは何者だ!? 明らかに只者じゃない……おそらく俺よりも強い)



ルーチェを人質にとって逃走を図ろうとも考えるが、ルーチェは完全にゼロの後ろに身を隠しており、そのルーチェを捕らえるのは不可能に近い。



村が近づいてくる。入り口には隊長や副官がすでに集まっており、ゼロたちを待ち構えている。特に武装をしているわけでもなく、敵意もまったく感じられない。まるでこうなるのがわかっていたかのように四人の到着を待っている。



(クソ……あの男め、俺がゼロに勝てないと分かっていたな。レイアをペットにするせっかくのチャンスが!!)



そこまで考えて、兵士は血が引いていくのを感じる。



(まずい。このままゼロを小屋に案内してしまえば、レイアを弄んだことがばれてしまう……そうすれば恐らく俺が助かるのはもう不可能。その場で殺されるだろう)



汗がだらだらと流れてくる。このまま案内すれば間違いなく殺される。しかし案内しなければそれはそれで殺されるだろう。





「何をしに戻ってきた? お前には頼んだことがあっただろう?」


とぼけて聞く隊長。


「無駄話は死期を早めるだけだ。レイアの居所まで案内しろ」



ゼロは隊長に一切構わない。殺気を隠すそぶりも見せず、全力で隊長に恐怖を撒き散らす。




「ずいぶん愉快な仲間たちを揃えてきたじゃないか。だがまだ主導権はこちらにある。勘違いしてもらっては困るな」


隊長は全力でゼロに対抗していく。ここで素直に応じてしまえば、あとはずるずると崩壊へ向かって進んでいくだけだと解っているからだ。




「勘違いしているのは貴様だ。ここで貴様を殺し、貴様らを殺し、村の無関係な連中を皆殺しにし、そのあとでレイアを探しても良いのか?」



まるで剣山の上を歩かされているかのようだった。それでいて上から押さえつけられるかのような絶望感。この目の前の一見好青年にもみえる男は、必ずやる。女一人の為に村を滅ぼす。



「分かった……おい、案内しろ」



隊長は無駄な抵抗をやめ、捕らえられている兵士に命令する。しかし兵士はうんともすんとも言わない。



「おい! 居場所を知っているのはお前だけだ! 早く答えろ!」


明らかに反抗を見せている兵士に叫ぶ隊長。ケイトも兵士を縛るロープに力を込めていく。



「死にたいの?」



ケイトの脅しにも口を開かない兵士。代わりに薄気味悪い笑顔を浮かばせる。



次の瞬間、兵士の右耳が宙を舞う。それほど出血はなかったが、そこに居たすべての人物が肝を冷やす。ゼロは手に握っていたナイフをしまい、地面に落ちた兵士の耳を踏み潰す。



「聞こえなかったか?」



ゼロの殺気にルーチェは吐き気を催し、激しく嘔吐く。



ゼロはゆっくりと左の耳にナイフを当てる。



「早くしろ。聞こえるうちにな」

「へひゃはは。いくら切り落とそうとも声は聞こえるし喋るつもりもな……」



兵士が答え終わる前に素早く左耳を切り落とすゼロ。続いて思い切りそのナイフを振り上げる。むき出しになった兵士の耳の穴にナイフを突き刺すつもりだろう。




「ゼロ、そこまで」



ケイトがゼロに抱きつく。ゼロは歯を食い縛りながらナイフを再びしまう。



「隊長、あとは貴様の仕事だ。十分以内に居場所を吐かせろ。でなければ俺が自分で探す」


ゼロは兵士を隊長の方まで蹴り飛ばす。隊長はだらだらと汗を流しながら兵士を拾い上げる。



「ふん、むだだ。俺はどうせ助からない。ならここの連中も全員巻き込んでやる」


両耳を失ってもなお、兵士は薄ら笑いをやめようとしない。既に覚悟を極めているようで、恐らく何をされてもその意思は揺るがないだろう。それはゼロ自身も気づいていた。いざとなれば村を無差別に襲うことも考え始めていた。










「その必要はありません」



聞き覚えのある声がする。間違いなくレイアの声だ。



「レイア!!」



声のする方に叫ぶゼロ。次の瞬間、目を疑う。



「レイア……?」



レイアは口から血を流していた。くるんでいる毛布に血が滲むほど体からも血を流している。鍵をかけられた扉を破るときに切ってしまったのだ。


ギロリと兵士を睨み付けるゼロ。ナイフを両手に持ちながら兵士に向かっていく。もう誰にも止められない。ただ一人を除いて。



「やめてください!」



ゼロに抱きつくレイア。ゼロの動きがピタリと止まる。それはレイアの望みを聞いたからだけではない。あきらかに明らかに今まで感じたことのない触感がZeroの体を襲ったからだ。



「レイア、骨が折れているのではないか!?」

「え? いえ……」



柔らかすぎる感触がゼロの皮膚を刺激する。



「いや、おかしい。見せてみろ」

「ちょ、ぜ、ゼロさん!?」



ゼロは嫌がるレイアがまとう毛布を無理矢理引き剥がす。するとその下からはレイアの純白の肉体が現れる。



「……」



ゼロは硬直する。まったく微動だにしていない。



「ぜぜぜぜぜゼロさん!!」



急いで毛布を奪い返すレイア。体に巻き付け、ゼロから距離をとる。しかしまだゼロは動かない。



ゼロはそのまま気絶し、まる半日寝込んだ。







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